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──それにしても、あの女の子、どうして薬を飲まされたんだろうね
──それは僕も気になってた。何か、よっぽど重い病気やケガでもしたのかな。でないと万能薬なんて飲ましたいと思わないよね
──そこも分かると良いんだけど……マスター。探れそう?
──機会は逃さない。としか言えないかな。難しそうだ
──早く来るといいね、イオたち
──そうだね。そう言えば、僕が働いてる間、エストどうする? カフェの中で待ってる? 長時間はつらいかな。
──私、夜はマスターと一緒に居たいけど、昼間は町の中歩いてあの子を探したいの
──そっか、ありがとう。あんまり無理しないようにね
──うん
エストは気にしないと言っていたが、アーシィの強い要望によりベッドが二つある二人部屋に移っていた。働きに出る少し前に二人はそれぞれの寝台の上に腰かけて今後の行動を確認し合っていた。
──じゃあ、夜は一緒にいるということで。そろそろ行こうか?
──マスターは晩ごはん、どうするの?
──僕はまかないが出るから、それで済ますよ。エストの分も出してくれるように頼むつもり。
──私、一日に一食でも構わないけど
──人の姿をしてる間は三食食べてほしいな。落ち着かないよ
──マスターがそういうなら、食べるわ
──ありがとう。ああ、時間のかかるメニューの方が暇をつぶせていいかな?
──ねえマスター。人間ってああいう店で暇をつぶす時に本を読んだりするじゃない? マスターがもしも持ってるなら、私にも一冊貸してくれないかしら
──あー……フィアンタの観光ガイドしかないんだ
──それで良いわ
うん。と返してベッドから立ち上がったアーシィはカバンをあさって小ぶりの本を取り出すと、そっと少女に差し出した。
「それじゃあ、これ」
──ありがとう
準備を済ませて二人、カフェへ出発した。
* * *
「ありがとうございましたー! はい、ただいま! いらっしゃいませ!! 何名さまですか? はいこちらへどうぞ」
意外と人が多い。エストはアーシィが休む間もなく店内を歩き回っているのを見ているだけで充分、暇つぶしになりそうだと思った。
空いた席を台拭きで拭いて、注文を取って、ドアをくぐる新しい客を迎え入れる。
意外と楽しそうに席の間の通路を行ったり来たり。しばらくフロアで仕事をした後、カウンターの中に入ってきて溜まっている皿を洗い始めた。
「マスター。僕の給料から引いて良いので、この子にもまかないお願いします」
「そう言うと思って、もう作ってある。もし評判が良ければ正規メニューにするから、エストちゃんの分も感想よろしく頼むよ」
白いパスタはカルボナーラだ。焦げ目の付いたベーコンは後乗せだろうか、胡椒の黒い粒が美しく映える。エストは両手を胸元で合わせてお辞儀してからフォークを右手に取り、ベーコンを避けてから早速パスタをくるくると絡め始めた。笑んだままの口元にパスタを運ぶと、ふにゃりと緩みきった表情になって何度も頷く。
──マスター。これ、すっごく美味しいね
──美味しい? どれどれ……
「……うん! これはまた……なめらかな舌触りで味もしっかり絡んでるし、黒胡椒のアクセントも申し分ないし。かなりオススメできますね、マスター! エストも美味しいって言ってますよ」
「よしよし。いい子たちだ。じゃあメニュー追加、決定だな」
アーシィがエストに親指を立てて見せると、彼女はうれしそうに合わせた両手を口元まで持ち上げた。
* * *
食事時間が終わると、最後の食器を片付けて次の約束を取り付けてから、カフェを後にする。しばらく歩いてから角を曲がろうとすると、カフェのドアが開く音がして、今日の日中に耳にした声が聞こえてきた。
「こんばんは、マスター」
「ヨーダ、今夜もうまい飯、頼むぞ」
「いらっしゃいイオ。ランナも」
二人は目当ての標的があまりにも早くこの店にやって来たことを知り、驚きを隠せず、目を見交わして立ち尽くした。




