表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻獣図鑑239ページ  作者: 夜朝
第12章 探している人と懐かしい人と初めて見る顔と
53/66

12-2

 小学校低学年くらいの少女が爪先を地面にとんとんと打ち付けながら家人と言葉を交わしている。その話し相手の声にアーシィは覚えがあった。


「本当に一人で大丈夫か? 着いて行っても……」

「もう、パパ。大丈夫だったら。いつまでも小さい子扱いしちゃって」

「そっか……もう小さくはないもんな」

「外見は小さいけどね〜なかなか背が伸びなくて、やんなっちゃうわ」

「早く帰れよ」

「はぁい」


 少女は家の中に向けて軽く手を振った後、丁寧な所作でドアを閉めた。スキップ混じりにどこへ行くのか分からない。後をつけようか迷ったのが裏目に出て、もうどこへ行ったかわからなくなってしまった。

 いざという時の判断力に乏しいアーシィが頭を抱えて苦悩していると、エストが目を見開いてアーシィに詰め寄った。


 ──マスター。あの子よ!


「あの子よって何が……あの子『よ』!? まさか」


 ──間違いないわ。あの子が私の角を使った子。角の薬効が成長を阻害してるの。だから背も伸びないのよ。


「まだ何年かだから目立たないのか……不老不死の怖さが」


 さて、どうするか。

 出直すにあたり、その前に作戦を立てようと立ち寄った喫茶店でアーシィはまた信じられないものを見た。

 そこではヨーダがカウンターに立ってコーヒーを淹れていたのだった。


 * * *


「マスター。ぼくはアイスコーヒー。この子にはミルクを」


 ──こ、これは……マスターがマスターと呼んでいる人がいてそうすると私はこの人もマスターと呼んで


「エスト……良いから。別にマスターは何人呼んでも、その、あの、そう。君の……マスターは、ぼくだけでいいから」


 マスターが増えて混乱しているエストに、気恥ずかしそうに告げるアーシィ。誰かの主人になるだなんて。大それ過ぎていて簡単には頷けやしない。でも相手がエストなら、早く慣れなきゃいけないとも思う。彼女は契約があってこそ安定して生きていける種族なのだ。


「初々しいねマスター? この子の主なのか。まだ若いようだが、いくつなんだ。マスター歴は何年になる?」

「からかわないでくださいよ、マスター。ぼくは今年で16です。マスター歴は……そこそこなんですが」

「ふうん。慣れない風を見てるとまだ何週間も経ってない雰囲気だが。『そこそこ』か。それで? フィアンタには湯治かな? どっちも元気そうだが」

「そんなに分かりますか。契約を結んでから何年も会ってなかったんです。それで、ここを再会のための待ち合わせ場所にして」

「ああ、それは良い話だ。泣かせるね。何年か越しの約束が果たされたわけだな」


 ヨーダは注文した品をカウンターに置くと数回拍手してみせた。そのタイミングで他の客がテーブルに代金を置いて店を出ていく。店主は礼を述べながら台拭きを片手にそのテーブルへ近付いていく。


「それで? 帰る前に観光地を散策ってわけかな。フリーペーパーの地図ならウチにも置いてるよ。まだならぜひ持っていってくれ」

「ありがとうございます。頂いて行きますね。そう言えば、地元の子がよく行くスポットなんかは書いてないんですか? このマップ」

「お、地元民しか知らない穴場スポットがご所望か? 一個だけ書いてあるよ」

「どこですか?」

「ここさ、ここ」


 足音を立てずに歩み寄って来て地図の上を太短い指先でトントンと叩く店主。悪戯っぽく軽い口調で告げた。


「喫茶・ひなたぼっこ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ