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魔女は薬や呪いを売って生計を立てている。しかし、意図しない商売をしてしまうとその間違いを取り返さなければならないのだ。
数年前、あの獣の角を持ち込まれて万能薬を作るという依頼を受けた。が、素材が良すぎて出来栄えがすさまじく、神族用の薬になってしまったのだ。それは人間にとっては不老不死の毒となった。それをイオが誰に使ったのか、もしくは自分で使ったのかは分からない。
魔女と別れてからエストと行動を共にしているアーシィは、魔女から受け取った毒薬をエストによく見せた。そして念を押す。
「これは危ないから、絶対に触らないでね」
──うん。大丈夫。
エストが見るからにそわそわしているのが分かって、自分も同じくらい落ち着きをなくしているアーシィは、一番の関心事を聞いてみることにした。
「姿が変わるって聞いてたけど、本当にずいぶん変わったね」
──気に入らない? マスターに喜んでほしくて……頑張ったんだけど……
「ぼくのため??」
エストは変化獣とも呼ばれていて、進化──脱皮と言う方が正しいかもしれないが──の度にマスターの望む姿にその形を変える。遠く離れていても心が繋がっているため、今のエストはまさしくアーシィの望んだ形というわけだ。
そわそわしていたエストが思い切った様子で口を開いた。
──あのねマスター。あの……あの、ぎゅーっとしてもいい?
「え」
それは再会を喜びたいアーシィにとっても、一番したいことだった。力いっぱい抱きしめて頭や背中を撫でるのだ。もしも動物の形状だったら気恥ずかしくなく、いの一番にしていたであろうこと。今は少しばかりためらってしまって、その一瞬の間がマイナスに作用した。
──だめ、かな……?
「ダメじゃない! ダメなわけないよ! むしろぼくから聞きたかったくらいだよ!!」
その返答を聞いたエストは、心配そうだった表情を少しずつ緩めて、最後にはまさに花が咲いたように、にっこりと微笑んでいた。少女は飛び跳ねるように少年との距離を詰め、ひといきにがばっと抱きついた。
「わ」
ばたん! と倒れ込んだ拍子にぶつけた後頭部の痛みが、少女の頭を撫でるアーシィにこれは夢じゃないんだと告げていた。




