11-2
──食べたりしたら許さないから!
「ふん……残念。割と好みだったのに」
少女は起き上がりながらぐるりと回転すると、妙齢の美しい女性に変化した。丁寧に畳まれていた白いワンピースは露出の高い黒いドレスに形状を変え、女性の肌を覆う。アーシィは震える手で指差した。
「べ……別人……? じゃあさっきの、呪いみたいな魔法の話は」
「あれはホント。残念だったわね。アンタが呼ぶ前に、エスト話しちゃったもんね〜」
──トーン! そういう言い方しないで!
「……気のせいか、エスト話せてるようだけど……?」
「バカね。今のは心話、話せなくなったのは口語よ。つまり、子どもの頃と同じで、アーシィっていったかしら? アンタとしか話せないってこと。その子、町人とも話せるようになって、疑いを晴らす手伝いがしたいって言ってたんだけどねー」
「……それで、呪いをかけたのはあなたなんですね?」
「あら。よく分かるじゃない」
「チャンスをくれませんか? ぼくに何かできることがあれば、その代わりにエストの言葉を戻してあげてください」
「チャンスねぇ……アンタとなら喋れるのよ? その子。それでも?」
「エストの気持ちは大事にしたいんです。──本当のこと言えば、もう疑ってる人はあの町にはいないと思うけれど」
──マスター……ありがとう……
「やってほしいことなら、あるにはあるけど、時間がかかると思うわよ? ホントにいいの?」
ふわりと風が揺れる。獣の形をしていたエストが少女の姿に変化していた。アーシィの隣で小首を傾げる。
「いいかな? なるべく早く終わらせるように頑張るから」
──うん。私も手伝う。それで早く一緒に帰ろう。
「え! 一緒に来れるの? デルシリスまで?」
深々とうなずく少女の隣で、ガッツポーズを取るアーシィ。
つまらなさそうな様子の女性が、はいはいと少年をなだめて話を続ける。
「やってもらいたいことはね、後始末よ」
「後始末?」
「毒殺ね」
「毒殺って! それのどこが『できること』なんだ!? 全然無理だよ!!」
「大丈夫よ。ターゲットは今、不老不死の薬効が働いているはずなの。だから一回目で完全に死ぬことはないわ」
縁もゆかりもない、何の恨みもない、知らない誰かを毒殺。多少の恨みがあったとしても殺したりなんて不可能なのに、ましてやそんなの絶対に無理だ。
けれど、相手は不老不死だという。死なない相手にならその行為は許されるか? 答えは──。
「できないなら別に良いのよ。そのまま尻尾巻いて帰りなさいな」
「分かりましたよ……それで一体、誰が不老不死になったんですか?」
「知らないわ。ただ、普通の万能薬だと勘違いして不老不死薬を買っていったバカな男なら知ってる。イオっていう、傷だらけの大男よ」
「──なんだって!?」
忘れようにも忘れられない仇の名前を聞いて、アーシィは勢いよく女性に詰め寄った。




