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一月後、試験当日。
アーシィとナッチは、顧問とナタリーに見送られて会場である森の入り口に立った。
他に大人も混ざって数名が参加していたが、級を持っているのはナッチだけという。
全員がそれぞれ装備を確認していると、監督官が前に立って説明を始める。その言葉に、アーシィとナッチは驚いて見開いた目を交わし合った。
「今年から仕組みが変わりました。皆さんもご存じの通り、半年に一度だった試験を隔月に変更した代わりに、合格者は一回につき一人のみとなります」
深刻な表情を浮かべたアーシィと対照的に、ナッチはからからと笑いながら言った。
「よし! 競争なアーシィ。負けねえぞ〜」
「……ナッチ……」
アーシィはナッチを見つめてゆっくり吸い込んだ息を、またゆっくりと吐き出しながら両目を閉じた。右手を握って数秒。やがて開いたまぶたの下から現れた瞳は力強く友の姿を映し出していた。
「うん! ぼくも負けない!」
ーーそう、大丈夫だ。勝っても負けても、ナッチとは友だちのままだから。
アーシィは自分の胸に手を当てて考えてみてから、うん。と深くうなずいた。
監督官が木製の鳥を頭上に掲げた。それにただ一言、飛べと告げるだけで木型は羽毛をまとい羽ばたいて空高く舞い上がった。見事な魔法に、子どもだけでなく大人たちからも感嘆の吐息が漏れる。監督官は次の木型を手にしながら視線を受験者に走らせ、言った。
「これから森に放つのは、こういった木型の獣たちです。鳥を人数分、兎を三匹、鹿と猪を二匹ずつ出します。皆さんはどれでも構いません、一匹でも多く木型を仕留めてください」
言葉と共にぽこぽこと木型が獣に変わる。どれも頭が青いのがアーシィの位置から見てとれた。それらが森の中へ思い思いの方角へと散っていく。少し遅れた最後の兎を見送って、監督官が告げる。
「ただしご注意を。生身の獣を間違えて傷つけたら減点となります」
「傷付けたこと分かるんですかー?」
ナッチが手を挙げて聞くと、監督官は深々とうなずいた。
「皆さんの武器に魔法を掛けます。生身の動物に当たればすぐ分かりますよ〜」
子ども相手に気が緩んだか、監督官の女性はオバケの真似でもしているかの口調でそう告げた。その後、我に返った様子で咳払いをひとつ。
「……こほん。さて、それでは皆さん武器を提出してください。今回使っていただけるのは一種類だけですので、複数の武器を持っている方は一旦お預かりします」
「矢と弓はどっちを出しますか?」
「どっちも出してください。それと、飛び道具をお使いの方は弾や矢の数に制限はありません」
アーシィは弓矢を、ナッチは短剣をそれぞれ提出する。他にもライフルや大きな剣、槍なども並んだ。長い槍は森の中では邪魔になるのではないかとアーシィは思ったが、持ち主は気にする様子もなく魔法を掛け終えた槍を受け取った。ナッチは短剣を受け取ると違いがわからないと言いながら首を傾げていたが、アーシィには弓に温もりのようなものが感じられた。
「あの人、火の属性でも持っているのかもな」
「へえ、なんか感じた?」
「少しね」
「はいそこ正解〜。でも人の話は聞こうね」
監督官に指を差された二人はすみませんと声をそろえる。引率に来ていた顧問の視線が痛かった。
「……それから、今放った木型の動物たちはどれも頭が青くなっています。生身の動物を傷つけないように、参考になさってください」
それでどれも頭が青かったのか。アーシィはひとりで頷いて矢筒を背負い直した。開始の合図を待つ。
「それでは、今から午後三時までの五時間、皆さんが持てる力の全てを出し切ることを期待しています。ーー試験、始め!」




