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ーーようやくつながった。うれしい……ねえ、でも私の角を持っていかれたの……悔しいーー
「う、ん……?」
次にアーシィが目を覚ました時には、日が高くなっていた。
時計を見れば十時を回っていて、何か夢を見たような気がしていたのだが、あんまりにもねぼすけだったことに驚いた拍子に夢の内容はすっかり忘れてしまった。
着替えを済ませて階下に降り、顔を洗いに洗面所へ行くと鏡に映る自分の姿。喉に二枚のバンソウコウが貼られているのがしっかり見えて、昨日の出来事がありのまま思い出されてまた涙が出そうになった。顔を洗うのと一緒にその涙を拭き取ってリビングに行くと、難しい顔をした両親が椅子に腰掛けていた。既に朝食は食べた後のようで、一人分だけが残されている。
アーシィが席について食事を終えるころ、母が口を開いた。
「リーヤ、帰っていったわよ。エリシャちゃんの葬儀を終えたら、イオを捕まえに行くと言ってたわ」
「捕まえにって……でも、ハンターなら他所の村や町から来てたんでしょ。探すアテがあるのかな」
「アーシィが折った角が無くなっていたのを覚えてる?」
「うん。エストが悔しがってた」
「そうなのね。あいつはあれを売りに出すだろうから、リーヤはそこからたどろうとしているみたい。彼女、元々情報収集は本職だし、そっちは心配ないんだけどーー」
「だけど? その先は?」
「見つけ出してからの方が大変なんじゃないかと思うのよね」
「どうして? 見つけさえすれば……」
「捕まえる方は力仕事だもの。私たち、か弱い女なのよ?」
「私たち……」
「サーディス、何か反論でもあったのかしら〜?」
「いえ、ございません」
両親の難しい顔は、リーヤの手助けをしたいが家庭を持つ身ではそれも叶わないということにあった。アーシィは後五年もすればむしろ自分が行きたいと告げたが、両親からははっきりとした答えは得られなかった。良いとも悪いとも。
* * *
その日は通夜に行った。大陸の南部が出身のリーヤは火神を信仰しているので、神殿の部屋の中央には大きな火が焚かれていた。その火に香木をくべて手を合わせると早々に部屋を出るように促される。後ろには長い列が出来ていた。エリシャの友人というより、リーヤに縁のある弔問客がほとんどだ。部屋を出てそのまま帰途につこうとしていたアーシィは、電話の呼び出し音が頭の中で鳴り響くのを感じた。それと同時に、頭や首、背中に多少の痛みと違和感を覚えて顔をしかめた。
「エス……ト……?」
「どうしたのアーシィ。どこか具合でも悪いの?」
「母さん。僕じゃないんだ。エストだよ。助けを呼んでる。囲まれてるんだーー町の人と、ハンターに」
「……! 急ぐぞアーシィ。パルミラ。あの獣、下手すりゃ殺される」
三者三様に走り始めた親子はすぐに路地の暗闇に溶け込んで見えなくなった。




