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幻獣図鑑239ページ  作者: 夜朝
第1章 幻獣への憧れ
2/66

1-1

「こーんにーちはっ! リーヤさん」

「お、アーシィ君! いらっしゃい」

「さーてさて。今日もみんな元気かな」

「もちろん。このリーヤさんが抜かりなく……ん? その鞄……」


 また下校中に寄り道したね。と、大柄な赤毛の女性に言われてもなんのその。悪びれなく笑って店内に入ってくる金髪の少年は、まだ成長途中の細い肩に鞄を背負い直して店内奥のケージに向かった。幻獣ショップは何の魔法か、夏も冬も、ほんのりと涼しい。


「だってさ、帰り道の途中にあるんだよ。この店。寄らない手はないでしょ」

「ふ。まあ寄ってもらえりゃ、ウチとしちゃありがたいんだけどね」


 本当は登下校の間で寄り道するのは小学校から禁止されているのだ。本来なら真っ直ぐ家に帰って鞄を置いてから出かけるのがルール。けれどもアーシィだけでなく、クラスの大半がそれを守らない。ショップの店主は肩をすくめて言った。


「いいさ。アーシィ君の場合は、真っ直ぐ家に帰っても誰もいないし……な」

「まあそれは良いんだけどね。どうせいてもいなくても出かけるから」

「たくましいね」

「あーし君! いらっしゃい!」


 そんなやり取りをしていると、店の奥から店主と同じ髪の色をした幼女が駆け込んできてアーシィの腰に抱きついてきた。この店の看板娘・エリシャは今年で五歳。十一歳になるアーシィの妹分だ。アーシィはうれしそうに笑って、まだ抱き着いたままのエリシャの頭を撫でた。それを微笑みながら見守っていたリーヤが、そうそう。と手を叩いて会計カウンターの棚を探った。リーヤは黒っぽい木で出来た重厚な棚から、白い紙に包まれた手のひらサイズのものを取り出すと、店の奥にいるアーシィたちのほうまで近付いてくる。


「そら二人とも、今日は駄菓子があるよ」

「わぉ! やったぁ!」

「ママありがと〜」

「ねぇそれ幻獣にも食べさせていい?」

「もちろん、もちろん。そう言うだろうと思ってたさ。はいこれ。ホウドなら構わないよ」

「ありがとうリーヤ様っ」

「あは。こういう時だけ様付けなんだから」


 上機嫌で菓子を受け取った少年はそれをエリシャと半分こすると、幼女と連れ立って目の前にある小ぶりなケージに歩み寄った。ホウドと呼ばれた幻獣は手乗りサイズでまるまる太った小鳥の姿をしていた。真っ青な羽が目に鮮やかだ。穀物を炒って甘く味付けした菓子を食べながらケージの入口を開ける。鳥は逃げ出す様子は一切見せず、ひょいと床から止まり木へと飛び移った。少年が菓子を乗せた手の平を差し出すと、鳥がちょいちょいと跳んで指の上に乗ってきた。つんつんと菓子をついばみ始めるまで何のためらいもない。手の平をつつかれて、くすぐったさにくすくす笑う。


「ねぇ。アーシィ君はさ、ここにいる幻獣の中では、どれが一番好き?」

「うーん、それは難しい質問だね」

「ホウドは? 売れ筋の人気者だよ。だから必ず一匹は入れるようにしてるのさ」

「ホウドも可愛いけど、鳥なら……ううん、鳥に限らず、大きくなって僕を背中に乗せてくれるようなのがいいな」

「それじゃケージに入らないよ」

「あう! そしたらハントに行かなきゃ」


 少年は空になった手の平をもう片方の手で叩いた後、弓矢を放つ身ぶりをした。その隣ではエリシャが菓子を食べるのに集中している。幼女は数えられる程度の粒を残して菓子を食べ終えると、残りを小さな手のひらに乗せて小鳥に差し出した。マイペースな二人の思い思いの行動を見て、店主がくすくす笑う。向ける言葉は少年へ。


「確か、小学校の五年生だっけ? 後二年か。中学に上がるの待ち遠しいんじゃないかい」

「そうなんだよー、早くハントの授業受けたい。何でうちの小学校ハントクラブないんだろう」

「そう言えばクラブという手もあったか。作れなかったのかい?」

「先生に聞いてみたけど、人数集めと顧問探しと両方で、あきらめちゃった」


 店主が小首を傾げてわずかに渋い顔をして見せた。


「かんたんに諦めるクセが付いたら、楽しい大人になれないぞ〜」

「えぇ、楽しい大人? 正しいじゃなくて?」

「ノーノー。楽しい大人さ。生きてることを楽しめるような……ね」

「難しいことは分からないけど、リーヤさんは楽しそうに見えるね」

「おや、分かるかい? そりゃもう楽しいさ。好きなものに囲まれて生きてりゃ」

「楽しい大人か……」

「エリシャもなる〜。たのしいおとな」

「ははは。エリシャちゃんはなれそうな気がするね。僕は……どうだろう」


 少年は少しだけ考えた。今の自分は楽しい子どもだろうか。そうのような気もしたし、違うような気もした。


「そうそう、来週に新しい子を入れるよ! また見に来ておくれ」

「わぁ、ホントに? 来る来る」


 話題が変わると、もうそれまで考えていたことはどこかへ行ってしまった。


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