3-7
「アーシィ君。すごい確率だね、二日連続とは」
朝食を終えて母親が食器を洗っている間、イオとヨーダが再びやってきた。
渋々教えたのは森の泉でエサをやったことだ。それくらいしかしてない。
しかし、それを話した途端、イオのほうからーー何とも言えない、芯から冷えるような空気が伝わってきた。大男は、じっと口を閉ざしたまま、アーシィのことを真っ直ぐに見つめている。何故かアーシィは独りでに身体が震えるのを止められなかった。
「エサを持って泉に行った連中も居たそうなんだが。やはり欲が絡まない子どものほうが安心して出てくるのかな」
ふむ。とアゴに手を当ててヨーダはアーシィを見つめていた目線をイオと合わせた後、もう一度アーシィに向き直った。
「……どうだろうアーシィ君。今日の捕り物、君も一緒に来てみないか。夕方から夜になるが」
「! 行きた……!」
「いいえ。いくら何でもこんな子どもをそんな危険な場所へ連れて行こうとするのは非常識では?」
行きたがったアーシィの声をさえぎって少年の前に歩み出たのは彼の父親だ。有無を言わさぬ硬い声。それが、一刀両断する。
「しかも狙われる可能性がある子だ。はっきりお断りします」
アーシィはどんよりとうな垂れた。
「まあそれが自然な反応でしたね。申し訳ない、さっきの言葉は取消しましょう。……忘れてくれ、アーシィ君」
アーシィは複雑な気分だった。イオと行動を共にするのは怖かったが、あの獣が人を殺したというのがどうしても納得いかず、もう一度会いたかったのだ。
「僕も行きたい。どうしてもダメ? お父さん。僕、まだ信じられないんだ。あの子が人を殺すなんて」
「それは普段なら確かにあり得ない話なんだよアーシィ君。ただ、今回は普通じゃない」
ヨーダはわずかに身を屈めて目線の高さをアーシィと合わせると、噛んで含めるように言って聞かせた。
「主になる権利を、棄てた奴がいる。それは、口では言い表すことができないくらいに、もったいないことなんだ」
「だからってどうしてあの子が人を殺したことになるの? ヨーダさん!」
「アーシィ君……今、あの獣は動揺して混乱している。幻獣っていうのは、えてしてちょっとの弾みで人を殺す生き物だよ。あの獣もそうだ」
「そんなはずないよ!」
「専門家の意見は聞くものだよアーシィ君。とどめを刺してやるまで、あの獣が落ち着きを取り戻すことはないだろう」
「エストは充分落ち着いてたよ。考え直してヨーダさん、イオさん」
「ーー今回も色々教えてくれてありがとう。いい報せを待っていてくれ」
「いい報せっていうのは僕にとって、あの子の主が見つかって、こんな騒動が終わるってことだよ! それ以外は悪い報せなんだからね!」
「ごめんよ、アーシィ君」
何もできない。何も聞いてもらえない。そのことが泣きそうなくらいに悲しく悔しかったが、アーシィは我慢して泣くのを堪えた。俯いた頭を荒く撫でられる。父親の手の平だ。こんな時の優しさは余計に泣きそうだったので、アーシィは両手をぎゅっと握りしめなければならなかった。




