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そこにいたのはペットショップ店長の娘で今年五歳になるアーシィの妹分、エリシャだった。
小さな両手を広げて一個のリンゴを運んでいる彼女は、母親ゆずりの深紅の髪を揺らしながらしきりに斜め上を気にして歩いていた。隠れていたことなど忘れ去って、十字路の真ん中で立ち止まってキョロキョロと辺りを見回している少女の元へ駆け寄る。アーシィはエリシャと目線の高さを合わせるために片膝を突いた。
「どうしてこんな所に! 独りでウロウロして、危ないじゃないか!」
「母さんといっしょだったの。あのケモノをつかまえにいくって。エリシャもつれてってって、おねがいしたら、『ひとりでであるかれるよりマシ』だって……でもいつのまにか……」
「エリシャちゃんの家まで送るよ。もしもお母さんに会ったら、先に帰ったって伝えるし」
「いや! エリシャぜったいあのケモノさん見つけるのてつだうの。だってもう、この世にいるぜんぶの幻獣よりすごいのよ? あるじとみとめたあいてののぞむままにすがたをかえて、えいえんのちゅうせいをちかってくれるの!」
「それ、絶対意味わかってないでしょエリシャちゃん!」
「わかるもん! ずっとなかよしでいてくれるっていみだもん! 母さんにおねがいしたの。お友だちになったらうちのお店では売らないでいてくれるって! それってせかいじゅうのたからものがあつまって一つになったくらいたいせつでだいじでうれしいことなの。エリシャぜったいそうするから!」
アーシィは、なるほど少女の母親が同行を許した理由はこれかと思いながら舌を巻いていた。年に似合わぬ口数の多さは日頃から大勢の大人に囲まれて生活しているせいと、持って生まれた性格とが成せるわざだ。アーシィの知らない情報がポンポン出てくることにも驚く。永遠の忠誠? 主の望む姿に変わる? 初耳だ。
彼は説得を諦めると何とか無事に彼女を母親と引き合わせる方法を考えなければならなかった。
「とにかく合流しなきゃ。お母さん、どこへ行くか言ってた?」
「いくつか言ってて……よくわかんない。でも『いずみ』は言ってた」
「それじゃ泉に行こう。変に探し回るよりいいよ」
平時にはピクニックに利用される、整った遊歩道と木製のベンチとテーブル以外は人工物は何もない穏やかな場所だ。




