第八話 紫紺のオデュセイオン2
次回は大戦争です。今回は戦いは在りませんが、前触れです。
東京の軍港、戦艦ドックの中で、イギリスからの援軍を、軍隊の重鎮二人と300人の兵、如月ナオミと如月沙良が出迎えた。
来港した船舶から、500の兵士と、その後ろから二人の、白い軍服を着た兵士が降り立つ。
金髪碧眼の少年はギルバート・ヴァレリウス。長い金髪と碧眼の小柄な少女は、イルマ・ヴァレリウス(14,♀)。ギルバートの妹(双子)である。小柄な体格は、ギルバートとは対照的だ。
「ギルバート・ヴァレリウス。オデュセイオンのパイロットだ。宜しくっ!!」「妹のイルマ・ヴァレリウス特殊兵、《灼眼のフェンリル》のパイロットだ。宜しく」
人格も対照的だった。
「如月沙良特攻兵です。大空のイザナギのパイロットです。宜しくお願いします」
「如月ナオミ特攻兵よ。イルマって言ったっけ、あんたみたいな感情無い兵士が大嫌いです。なので貴女には宜しくとは言いません」
そして、ドックを一瞬の凍てつくような寒さが襲う。
「私もお前のような凡人被れの軍人を視界に入れると吐き気に襲われる」
冷気はいつしかプラズマに、そしてレーザーに変わり、最後には二人それぞれの頭上で核爆発が起きた。
「まあまあ落ち着けって」
ギルバートが二人をなだめる。
「五月蝿ぇ!!!!!!」
逆効果だった。
「しばらく離れて居ましょう。あぁなると三時間は止まらないんです」
沙良はギルバートを誘い、高温と放射能が蔓延するドックを脱出した。
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本国に逃げ延びたマオ将軍は、北京紫禁城の地下に設けた作戦室で、部下と共に欧州連合との全面戦争に備えて会議を開いていた。
「天空城塞と量産型ベルセルク一万機を使った奇襲戦法、その全ては完璧で、日本側の軍事力を壊滅させた。なのに、在ろうことか我が軍はたった二機のベルセルクに敗れた。敵は既に我が本土への進攻を計画している。何としても全軍を指揮し、拡張した我が領土を死守しなければならない。我々漢民族は、アジア全土の他の民族を、少数民族として支配するのだ」
マオ将軍は円卓で演説する。横にはこの前の華奢な軍人。面倒臭さを抑えて紹介すると、敦仙山という名前である。
「将軍、お言葉ですが…」
「何だ、言ってみよ」
「欧州連合がイスラムと結びました」
「早う言わんか阿呆!!!!」
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カンナ・アンダーソン兵長は、部下と共にイスラム諸国連合の辺境軍事基地、サマルカンドに駐留していた。コンクリートの塀の後ろに、ベルセルクに乗ったまま、潜む。彼女らのベルセルク空軍は間もなく東進して中国領ウイグル自治区に侵入、現地の過激派と結び、更に東に兵を進め、日本側から進んできたギルバート・ヴァレリウス、イルマ・ヴァレリウスの部隊と北京で合流、同都市を総力爆撃する。
一つの政府を壊滅状態に追い込む、荒っぽい手段である。だが、其れが両親の命を守る為なら、彼女は一国を滅ぼすことなど躊躇わない。両親への恩返しだけが、今彼女が軍人である目的なのだから…。
「ピコン」
水を落としたような音がして、ヴァルキューリのコクピットのモニターに、ロイ・ギルフォードの顔が映る。
「カンナ、出撃命令だ」
「はい」
そして、一つの《時代の終わり》が始まった。
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ルイスは、専用機強襲の関羽の中で、人民解放軍の出撃命令を受けた。
イギリス空軍が属州キルギスタンに侵攻し、その報復である。
モンゴロイドとは似ても似ても似付かない、金髪蒼眼の兵士、李・ルイス特攻兵はエンジンにキーを差し入れた。
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「イギリスが動いた」
昼間とは暗いドックの中、イルマはノートパソコンの戦況モニターを見て言う。
「そうか、じゃあそろそろお前の愛車を出さないとな」
冷酷な、憎しみでも悲しみでも無い、ただ相手の何処までも奥深くを見詰めているような感情の死んだ眼をして、オデュセイオンの肩に座っていたギルバートは返事をした。
「そうする」
イルマはモニターを閉じ、眼前にある《愛車》を眺めた。
茶色い機体、赤い目、両腕には剣も銃も無く、ただ刃渡り五メートルを超える、長い銀色の爪が生えている。両肩には、関羽のものより少し小型のミサイルポッド。《灼眼のフェンリル》。イルマ・ヴァレリウス専用機。
如月ナオミと如月沙良も、もう出撃準備に入っているだろう。目の前では自分達の側の兵がベルセルクのコクピットに入って待機している。黒い機体、緑色の赤い目、左腕にマシンガン、腰の右側にサーベルが一本。量産型ベルセルク、《漆黒のベオウルフ》。「じきに出撃命令が下るだろう。その時がカーニバルの始まりだ」
その時、古臭いサイレンの騒音が、基地内に鳴り響く。
「ほ〜ら〜ね」
ギルバートは不気味に口元を吊り上げた。
次回、北京攻略作戦。