第十一話 灰の大地で……
新キャラ登場です。おそらく今回の黒幕になりそうなので、キャラの評価を宜しくお願いします。
李・ルイスのベルセルク、強襲の関羽は、下半身を蟹のように改造し、カンナの乗っているヴァルキューリにのし掛かり、その右腕の下半分を占める高圧縮粒子銃(ビーム銃)を、ヴァルキューリのコクピットに押し付けた。
引き金が引かれ、数秒後には、銃口から飽和した粒子が漏れ出し始める。
カンナは悟った、己の死を、たった二人の人間の為に何百万もの命を消してきた、人殺しの最期を…………。
カンナの視界は眼球を撃ち抜くような桃色の粒子光に包まれ、抵抗の無価値を知った彼女は目を閉じた。全身を衝撃が襲い、意識が消し飛ぶ…………だが、次に彼女の視界に入ったのは、彼女の亡骸を死者の天秤に掛けるアヌウ゛ィスではなく、先程までと同じ蒼天だった。違うのは、関羽の上半身が吹き飛び、醜い蟹の残骸だけが残っていること、そして、彼女は眼前の真実を視た―――――右には、さっき発射したところなのであろう、ガバリと開けた耳まで割けたナイルワニのような口内に装填された粒子砲からモクモクと白煙を騰げている、トカゲの首を持つベルセルク、紫紺のオデュセイオン……………!!
「お〜い、大丈夫かぁ!?」
オデュセイオンのパイロット、ギルバート・ヴァレリウスは陽気な口調で尋ねる。そんなパイロットと対照的に、オデュセイオンは無気味に中腰のまま咆哮している。
(ホントにロボットかよぉ、あれ生物なんじゃねえの?アイツ…)
カンナは思った。
「このぉ…………白人がぁ………カッコ付けやがってぇ……………!!!!!!!!!」
パイロットの咆哮と同時に、カンナの左側に吹き飛ばされていた、上半身だけの関羽がバーニアで浮上し、飛び掛かってくる。
ビーム銃をオデュセイオンに向けて乱射しながら、右手の粒子刀(レーザー刀とは別)を振りかざして………。ルイスは既に発狂していた。玉砕とばかりにオデュセイオンに突貫してくるベルセルク、関羽。オデュセイオンの鼻の(鼻が在るのだ…)先まで来ると、その頭上に粒子刀を振り上げた。真っ二つに断ち切られた……………のは、関羽の左腕だった。オデュセイオンは刀を持っていないが、代わりに両腕に長い爪が三本ずつあり、其れが蒼い光を帯びて、関羽の左腕を切り裂いたのだ。
立て続けに右腕を斬られ、ルイスは屈辱に悶絶する。
「次はパイロットごと真っ二つにしてやらぁ、覚えてなっ!!!!!」
関羽は撤退しようとする。だが、その命さえ、オデュセイオンの粒子砲は逃さはかった………!!!!
天空に向かって放射された圧縮粒子の帯は、関羽のコクピットを貫き、そのまま業火に包む。十秒前後で、関羽は空気になった………。
「何故生きているの?」
無線でカンナはギルバートに聞く。
「一人を除けば皆生きてるよ、さあ、一緒に基地に戻って皆に会おう」
「《一人》って誰……」
「カダフィー大佐だ」
「カダ………フィ…」
カルタゴでカンナを奇襲した蒼穹のダレイオスのパイロット、セオドア・カダフィー。詳しく聞くと、爆発の前兆が見られたとき、バーサーク少佐の忠告を無視したのだという。
「殉教も無駄に終わればただの凄惨な死」………カンナはギルフォードの言葉を思い出した。
「意外ね、帝舟が自爆用の遠隔操作要塞だったなんて。ベルセルクも無人だったのかしら」
「いや、あの中には普通に兵士や将軍が居たよ」
「えっ…………!?」
「中国人民政府は今壊滅状態だ。北京は灰の砂漠と化し、逃げ遅れた北京市民は全員死亡。中国は事実上滅亡した。城塞は自爆なんかしてない。第三者の工作によって爆破されたんだよっ!!!」
「そんな…………っ!!」
カンナはひっと悲鳴に似た声を出した。
「城塞を爆破したのは、誰なの……!?」
カンナは誰も知らない答えを、灰の大地にぶつけた。
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欧州連合(EU)連合軍《ワルハラ騎士団》の本部、アテネ。軍会議での演説を終えたネルウ゛ァ・ウ゛ェルギリウス副元帥(23,♂)は、本部地下の巨大コンピュータ《プトレマイオス》に向かった。数千メートルも地下に降り、最下層でエレベーターは止まり、錆び付いた金属製の扉が左右に開いた。
ネルウ゛ァの視界に広がる、蒼いレーザーに染め上がった巨大な空間。壁に毛細血管のように配線が張り巡らされ、中心には円塔状の壁に囲まれた、回転可能な肘掛け椅子。其処まで彼は歩き、
「ネルヴァ・ヴェルギリウス。この地球の支配者に選ばれし者だ」
と言い、直後、部屋の扉が開いた。
彼は部屋に入り、中心の肘掛け椅子に腰掛けた。コンピュータが自動で個人認証し、画面が起動する。デスクトップには巨大なアウグストゥス像の写真。右下に新着メッセージの表示がある。ネルヴァがアイコンをクリックすると、音声が流れた。
《プログラム通り、中国人民政府を滅亡させました。》
濁った女性寄りの機械声が言う。
「第2段階成功。遂に世界が動き出す。ククク………」
ネルヴァがキーボードのエンターキーを叩くと、不吉なパイプオルガンの音色がプトレマイオスの内部に奏でられた。