第九話 北京攻防戦
中国領タクラマカン砂漠の地中には、中国で最も恐れられている過激派、《ウイグル・レジスタンス》の地下要塞が張り巡らされている。かつてはウイグル自治区の治安を脅かすマフィアなどを監視する自警団だったものが、ベルセルク導入政策後の中国政府の圧政によって、武装解放組織に転じたのである。
欧州連合とイスラム諸国連合の連合軍は、ウイグル・レジスタンスと同盟を結ぶ為に、この死の砂漠へと赴いたのである。
要塞の入り口は、黄土煉瓦造りの古代遺跡の内部をくり貫いて造られていた。
ベルセルクに乗ったまま、その巨大な口に兵士達が一人ずつ入り、数十分程で移動が終わる。
ヴァルキューリのカンナ、ダレイオスのカダフィー、ラムセスのバーサーク、ロキのレオンハルト。そして、二万機を超えるバステトの大軍勢。東から来て合流する予定のギルバートやイルマ、日本に駐屯するものとイギリス本土のものを合わせた五千機のべオウルフ、二千機のレジスタンスのベルセルク、コレを合わせてやっと中国側の半分だ。いや、もっと少ないかも知れない。
それらが地下ドックに収められ、連合軍とレジスタンスの面々が対峙した。連合軍の服装には、国によって違うものの統一性があり、兵士も若手の男性が多いが、レジスタンスの服装は統一性が無い質素な物で、兵士も女子供から老人までまとまりがない。共通点はターバンだけである。また当然、前者では白人、後者では肌の茶色いアーリヤ系人種がほとんどであった。
「数週間前に暗号で送ったとおり、私たちは欧州とイスラムの連合軍です。この度日本の自衛隊が中国軍の攻撃によって壊滅したので、この同盟はその報復をする為です。」
カンナはリーダー格の杖をつき、質素な玉座に座る老人に語りかける。老人の名はタジキンス・イスマイール。通称イスマイル師である。「まさかイギリスが我々に助けを求めて来ますとはのぅ、お嬢さん。まあ、我々が一つの国家を作れるなら安い買い物と思えば良いでしょう」
「しかし、その戦で負ければ我が民の命も…」
背が高く、目の壕が深く、細身の若い兵士の一人が言う。ケネス・ビンラディン大尉(16,♂)。レジスタンスの一番有能な少年兵である。もしもっと性能の良いベルセルクが与えられれば、彼はイスマイル師の死後、革命の指導者に成るであろう。
「いいや、武装蜂起は行う。我々が死ぬ瞬間までウイグル人でいる為には、一層永遠に我々の名を歴史に残すために、闘って滅ぼう」
ケネスは彼の考えを古典的だと軽視しているので、眉間に皺を寄せ、イスマイルから目を背けた。
「全ての権限はイスマイルにある。闘いを始めよう」
別の年老いた銀髪の兵士、サイク・ダルサラム(57,♂)将軍が言った。
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ギルバートとイルマ、ナオミと沙良を中心とする日本からの部隊は、直ぐに北京に到着し、爆撃を開始した。
無数のミサイルが家屋を吹き飛ばし、生じた業火が住民を焼き尽くす。
上空は、赤い羽根を持つ量産型ベルセルク《漆黒のべオウルフ》の大群が埋め尽くし、地上では地下から巣を壊されたシロアリのように這い出してきた、中国側の数万機の量産型ベルセルク。緑の装甲、間接部が黒く、紅い眼が顔面の中央に一つ。
《魏兵》。
飛行能力は無く、重機関銃で武装している。
しかし、いくら重装備をしていても、上から撃つのと下から撃つのとでは、上からの攻撃の方が有利なのは変わらず、イギリス側の十倍も居た中国側の軍隊は、数十分のうちに半減した。
だが、こんなものが中国側の本領の筈が無かった……。
住民が逃げるか死ぬかしてほとんど居なくなった中心街の地面が急速に膨れ上がり、盛り上がった土壌が崩れて、中から直径2000メートルを超える地中城塞《帝舟》が姿を現した。
帝舟の表面から瞬時にハリネズミのような無数の砲台が飛び出す。
「図られたか………!!!」
唇を噛むギルバート。
「ねぇ、兄さん………」
「え?あ………」
西の空に、無数のベルセルクが姿を現す。欧州連合とイスラム諸国連合、ウイグル・レジスタンスの連合軍だった。