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プロローグ②「神なんていねぇ」

「――――ックソォラアアア!!」


 ――ハッ?!

 ンだこれ……いきなりどこだよここ!


 それは、説明するなら古代ギリシャの建築物。パルテノン神殿のような神秘的な雰囲気が漂う空間。その内部にあの不良少年は投げ込まれた。

 瞬き一度程の瞬間で、車に轢かれる寸前の祖母が消え、車も消え、風も光も一度に全て変わった。不良少年だけが切り取られ、別の空間に置かれたような異常な移動が発生した。

 祖母を救おうと伸ばしていた腕は空を切り、アスファルトではなく、冷たい無機質な地面へと倒れ込んだ。


 どうなってんだ……?

 良く見ると周りに出入口らしきものはねぇ。窓もねぇ。天窓すらねぇ。だが、妙に明るい。照明は見当たらねぇのに。


 人と目が合うだけで気づけば手が動いてるような彼でも、さすがにこの異常事態には動きを止めた。周囲に目をやり状況を理解しようにも謎が深まるばかりであった。とにかくここから出るために彼は立ち上がり、壁を殴った。


「……硬ぇ。ダメだこれは」


 物質ならなんでも殴ったことのある彼が断言する程硬い物質。爪を立てて引っ掻いてみても傷らしい傷はつかず、荘厳さを保ったままだった。


 出入り口なし、窓なし、壁は硬い。常人なら次に通気口などの空気の循環を確保している物質がないか探しているところだが、戦闘民族は違った。


 ――――拉致監禁か!


 結論付けるのが早い上、まず決めつけた固定観念からはそう簡単に抜けられない。次に、その異常事態を引き起こしたと思われる人物からの接触が行われると予測するや否や床に座り込んだ。


 床に座るが早いかどうかその瀬戸際に、彼が想定した犯人と思わしき声が部屋に響いた。


馬戸(ばと)勝人(かつひと)。あなたは死にました」


 男性なのか女性なのか区別できないような中性的で、安心感をも与えるような優しい声音。その声から発せられる衝撃の事実……


「あ? 何言ってんだお前」


「はい? いや、ですから、あなたは死んだと――」


「もうちょいマシな嘘つけや! 俺はこの通り生きてるぞ! 死んでるやつは喋れねぇだろ」


 声の主は頭を抱えた。自分の話を信じてもらえないことは初めてではなかったが、面倒になることは確実だからだ。

 ひと呼吸おいてある手筈を整える。数秒の沈黙の後、声の主は突然彼、馬戸の前に現れた。


「私は女神、ミーセニカ・インテェェウオオア!」


「いつから居たんだてめぇ……いきなり現れやがってふざけた野郎だ」


 顔を殴られるすんでのところで躱す女神。並の人間ではまず不意打ちのパンチを躱すことは不可能に等しいことから、人間離れしたその身体能力はやはり神であると言わざるを得ない。


「ふざけてんのはあんただよ! 殴りかかってきたのはあんたが初めてだわ! じゃなくて……」

「私は女神、ミーセニカ・インテ。あなたが神の存在を信じないというのなら、神の力を見せましょう」


 男性のような野太い声を出し、次には女性のような可憐な声を出す。変幻自在の喉を持つ神ならではの神技と言えるだろう。

 女神はさらなる神技を馬戸に見せるため、彼の頭に手を添え、力を使――


「さわんな」


 女神は心の内に芽生え始めた苛立ちを抑え笑みを崩さずに説明を始めるために口を開いた。


「では、私が神であると信じてもらえましたか?」


「な訳ねぇだろ。お前自分で何言ってんのか分かってんのか?」


「ですので、私が今からあなたに触れ、神の力を使って現実世界に戻してみましょう。ただし、ほんの一瞬だけです。あなたは死んでいるので」


 露骨に長いため息をついて「やれやれ」と仕草をする馬戸。

 どうやらひとまず触れることを受け入れてもらえたようだ。女神はその態度に不満を抱きつつも、彼に触れ、その力を以て神である証明が行われる――――

 


「――――ッ!?」


 突然強い心臓の鼓動を感じ取ると同時に目の前に現れたのは己の腕から突き飛ばされたと思わしき祖母だった。そこから周りが住宅街であると気付く頃には、左半身の方からとてつもない衝撃が伝わっていた。


 そうだ……俺はババアを、車にぶつからねぇようにしようとして……

 やべぇこれ、死ぬ……? さっきの胡散臭いやつはなんだったんだ……?

 走馬灯って奴か、懐かしい記憶が蘇る。小学生の時、今のチームを作ったんだよな。調子に乗るくらい悪いことして、それで一度だけ大人に叱られた。あいつにもっかい会って、仕返ししたかった。

 いきなり死んじまってごめんな。ばあちゃ――――



「――――これで信じてもらえますか?」


 ぐらつく視界を整え、祖母へ向けていた腕が例の女神に向けられているのに気付くまで呆然としていた。

 腕を下ろし、手のひらを広げて見る。ぐっと力を込め、緩める。それを何度か繰り返して実感する。


 生きている。


 現実のような非現実を味わったことで女神に対する考えを改めた。


「分かったぜ」


「本当ですか! 良かった――」


「お前がそうやって人を洗脳していることがなァ!」


 神の存在を全く信じず、目に映るもの、この身体で感じ取れるものこそが現実だと思い込んでいた馬戸は、今の非現実体験を最新技術(VR)で再現された物だと考えを巡らせ、洗脳されかけていたのではないかと神にあらぬ疑いを掛けたのであった。

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