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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第11章 顚末と甘やかな関係
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さっさと2人の世界に浸りたい王子をつまらなさそうに眺めながら、クロードは今度はコーヒーのお代わりを空のカップに注いでいく。


テッドが話を引き継いだ。


「我々が交渉を打ち切ると、サッシブ達は沈黙しました。その時点で急襲しようとウィリアム卿とクロードは多国籍軍と作戦を立てていました。自害行為に走ると不味いと思ったからです。ところが探っていくと、サッシブがとある国に自分達の亡命を打診していることが分かりました」


「亡命だとっ?!」


発表されてない事実にロナルドはカッと目を見開いて叫んだ。

テッドは重々しく頷くと続ける。


「そうです、当然ながら占拠し続けてもいずれは制圧される、それならば亡命しようと考えるのは、命が惜しければ当たり前の考えです。残した人質を亡命する際の脱出手段・・・恐らく軍用車両か輸送機との交換と逃走ルートの確保に使うのだろう、と考えました」


「それで多国籍軍との調整に時間がかかったっすよ。マッケーシーはすぐに突入を主張したっすが、人質のテントが確定するまではダメだって反対してたっす。その頃からミリーちゃん達は良くテントを変えられてたっしょ。恐らく盾にするために、亡命出来るかの回答が来るまで時間稼ぎしようとしてたのが分かったっすから」


クロードは一息つくようにコーヒーをゴクッと一気に飲むと続けた。


「亡命を打診された国はさすがにサッシブを受け入れるとは思えなかったっすけど、この手のことはどう転ぶか分からないっす。だから、最大限、サッシブ達がイラチになっても亡命可否の返事が来る前の油断しているところを狙おうと決めたっす」


「それがあのタイミングだったんですか?」


真理が尋ねると、クロードは頷いた。


「ここでティナの役割を話しておくっす」


そう言われてハッとティナを見ると、彼女は静かに微笑を浮かべる。


「やれやれ俺にもそれ位、微笑んで欲しいっすね」とクロードががしがし頭を掻くと、アレックスがケケッと悪い顔して笑った。


ティナの気持ちはどうあれ、クロードは本当にティナを好きなのかもしれない、と真理は気づくと、ちょっと微笑ましくて笑ってしまった。


真理の笑みに気づくとクロードはニヤリと笑い返して、3個目のマドレーヌを口に放り込んだ。


そんなクロードをテッドは憮然とした顔で見やると彼が話を引き継いだ。


「ティナにはアメリア様の警護にあたって、相応の装備は持たせていました」


ティナも兄の言葉に同意すると「だけど、キャンプが制圧された時点で、自分の判断で武器類はすべて遺棄しました」と続けた。


ティナの言葉に真理は頷く。そうだろう、あの後持ち物は洗いざらい調べられたのだから、持っていたらティナの身が危なかったと思う。


「残したのがアメリア様と同じタイプの腕時計です。見張りも居たので、さすがに衛星通信を使う事は出来ませんが、夜中にメッセージを最低限やり取りすることが出来たので、我々は中の様子が分かりました」


食べ終わったクロードが続けた。


「うちらが考えていた、サッシブが油断したタイミング、それはミリーちゃん達のテントの見張りが1人になった時点っす」


そう言われて、思い出すと確かに3日前からテントの見張りはそれまでの2人から1人になっていた。


「この頃にはサッシブ達の部下も長期戦になって士気も下がりイライラしてたっす。亡命出来るかの返事を待っていたことも、逃げられるかもしれないと言う気の緩みに拍車をかけたと思われるっす」


「ティナと見張りが確かに1人になったのか、2日目も確認をしてました。そして恐らく3日目も大丈夫だろうということで、3日目を作戦決行日として多国籍軍と決めたのです」


テッドの補足で、いかに多国籍軍とドルトン軍が占拠の状況を把握していたのかが分かる。

この戦争が情報戦と言われた理由に納得した。


「ここで、ミリーちゃんの出番っす」


クロードが続ける。


「作戦は地上に降りて3分でサッシブへの攻撃よりも先に人質のテントと周囲300mの奪還っす。これには確実なテントの場所が必要っす。一つでも隣じゃ作戦が狂うっす」


そう言われて真理はあっ!と声をあげた。


「それで、私のGPSを?」


正解!とクロードがニカッと笑う。


「ティナのGPSはサッシブの電波妨害の干渉を受けてていまいち信用できなかったっす。その点ではミリーちゃんのは殿下仕様の特別な電波っすから、確実なんすよ。それで要だったっす」


「ティナがあの時、外に出て行ったのは・・・?」


もうティナが何の役割を持っていたのか、何をしたのか分かっていたが聞かずにはいられない。

ティナが答えた。


「私の役目は見張りを倒す事でした。武器として医療用のメスを一本隠していたので・・・」


「殺したのか?」


叔父がギョッとしたように尋ねると、ティナはいいえとつまらなさそうに肩を竦めた。


「動けなくすれば良いだけですので、口を塞いで首を刺しただけです。女という事でかなり油断してましたので、それ自体は簡単でした。倒したタイミングで腕時計の照明を合図として点けました」


ティナの冷静な物言いに叔父が「首で死んでないのか・・・」と呟きながら天を仰ぎみた。


「そっからはほぼ発表通りっす。うちら・・・人質奪還担当の部隊が最初に人質のテント前に降下してティナと合流、周辺を制圧。サッシブ達は2分後に降下、突入してった特殊部隊に防戦一方で、人質にまで気が回らないっすからね」


これが人質奪還の全貌っすよ、そういって切れ者の特殊部隊 機動を司る少将はカカカッと大らかに笑った。


そこでホッと場が和んだが、さすがロナルドは記者魂ゆえか突っ込んだ質問をした。


「クリステイァン殿下は作戦を指揮していたのか?」


その問いにアレックスがブスッとした顔をした。


「俺は・・・」と言いかけたところをテッドが遮る。


「いえ、殿下はアメリア様が人質である以上、軍の規定で作戦指揮は取れません。サッシブの動画が公開された時点で、ウィリアム卿の命令で作戦からは外されました」


ほぉ、とロナルドが目を見開いた。


んんーと言おうか言うまいか迷うようにクロードは一瞬考え込んだが、ま、いっかと言うように補足した。


「とはいえ、当然ながら大人しくなんかしないっすよ、この殿下は。色々、本当に色々言うんで仕方なしにウィリアム卿が特殊部隊に権限無しの一兵卒として放り込んだっす」


あっ!と真理は声を上げた。

この10日間、アレックスとは解放時の話はまだしていなかったから、彼が何をしていたのかは聞いていなかったのだ。


だが、ここまで聞いて救助された時に、クロードが言った言葉を思い出した。


『ミス・ジョーンズのワンコは今、狂犬なみに先駆けでぶち込んで、大暴れしてるっすよ』と。


そんなことをしたのかと、ゾッとする。


「アレク・・・まさか・・・」


彼を見上げれば、真理の心配した顔にアレックスはバツの悪そうな顔をすると、宥めるように頬にキスを落とす。


「俺だって、人質の・・・真理のために何かしたいから当然だろ」


拗ねたようにそう言い募る王子にロナルドが我慢しきれず突っ込む。


「殿下は何をしたんですか!?」


クロードはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべると答えた。


「そりゃ、もちろん先陣切って突入っすよ。しかも勝手に一人で28秒早く飛び降りて、サッシブ達に突っ込んでったっす」


よく、やられなかったっすよねーとケラケラ笑うクロードを横目にロナルドは「王子がっ!?マジかっ!?」と叫んでいた。


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