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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第11章 顚末と甘やかな関係
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真理の態度にホッとしたようにな顔をすると、アレックスは彼女の腰を掴んで、自分の隣に引き戻した。

それを見たロナルドが渋い顔をするが、王子は気にしない。


「護衛の存在を君に伝えなかったのは悪かった。怒ってるか?すまない」


気まずそうな表情で詫びるアレックスを真理はきょとんと見やる。


「まさか!怒ってないわ・・・びっくりしたけど・・・多国籍軍の時は護衛をつけたいって、最初から言ってくれてたし。私が断ったから・・・言わなかったのは私のためにしてくれたことでしょう」


そう聞いてアレックスはあからさまにニコリと頬を緩めた。

人目を気にせず、叔父のブリザード級の視線を無視して、真理の頬に口づけると、唇をつけたまま良かった、と呟く。


ますます赤くなった真理を気の毒そうに眺めながらテッドが続けた。


「当初は護衛として紹介するつもりでいたのですが、アメリア様も取材準備で忙しい中、いきなり護衛が付いてもやりづらいのでは、とも思いまして。ティナも距離感を掴むために、最初は存在を知られない方が良いかもしれないとの意見が出ました。それで・・・」


「俺のところに連絡が来た」


姪にまとわりつく王子を相変わらず嫌そうに眺めながら、ロナルドが言葉を継いだ。


「叔父さまに?」


真理は眼を見張る。


「ああ、お前に内密で護衛をつけるから、デイリー・タイムズのジャーナリスト扱いということにしろってな」


なるほど、とやっと合点が行く。

ティナはデイリー・タイムズと契約したフリーのジャーナリストと名乗り、新聞社のIDカードを所持していた。

ロナルドからは行動を共にするようにと言われていた。

叔父の協力なしでは出来ないだろう。


彼は肩を竦めながら続けた。


「お前の安全のためなら断る理由もない。それにうちは今回の戦争では、お前やランディ含め多くのフリーと契約してるし、中には記者じゃないくせに記者と名乗る輩もいるから、別におかしい事でもない」


「そうだったのね、ありがとう、叔父様」


真理の礼に叔父は頬を緩めると、照れたようにコーヒーをまた啜る。


その叔父の姿を眺めながら、自分はなんて多くの人に守ってもらえていたのだろう、と目頭が熱くなる。

いつもは最前線に取材に入ることは少ないが、この戦争ではどうしても交戦地域に入りたかった。

アレックスが前線にいたことも自分を駆り立てた理由の一つだったが、なによりもリアルにそこで起きていることを知りたかったからだ。


無事に乗り切れるかどうかは分からず、多国籍軍のメディア利用に自分も乗ったからこそまだ安全だったが、その安全も影でこれだけの人が守ってくれてこそだ。


それもこれも、傍らにいる彼のおかげなのだ、そう思ってアレックスを見上げると、蕩けるような優しい瞳が自分を見つめている。


彼の膝に手を置いて、改めて「ありがとう、アレク」と言うと、王子は嬉しそうにまた唇を寄せてきた。


「あーーー、あーーーーーー、殿下、話は終わってないっすよ、後にするっす」


クロードの呑気な声がけに、そこにいた全員—アレックス以外—が、ぷぷっと吹き出して笑った。

叔父はざまぁみろ、といったしたり顔で、テッドとティナは苦笑している。


アレックスが「お前、なんだよっ!!」と補佐官を睨むが、彼はどこ吹く風と言った顔で自ら運んできたマドレーヌを齧っている。


もぐもぐしながら


「肝心の話がこれからっすから、イチャるの後にするっす」と辛辣に言うと、アレックスはグッと押し黙った。


真理は苦笑しながらクロードを見ると、今度はガレットを口に入れながら、ニヤッとしながら話を続けた。


「で、ミリーちゃんにティナが付いたことと、ミリーちゃんがザルティマイに入ったことが作戦では功を奏したっす」


「あー、なるほど」


真理はなんとなくだが、クロードの言ってることが分かり始めた。図らずも敵陣に自国の軍人が潜入していることになったのだ。


クロードの言い方に、デリカシーが無いと思ったらしき二人、アレックスとロナルドが珍しく同じようなムカついた顔をするが、真理はそこは無視する。

自分があの場に居たことが役に立ったのなら、まだ嬉しいからだ。


「多国籍軍がサッシブを逃したのは失敗だったっす。自分達で責任取って捕まえるから応援はいらないって言ったくせに、ザルティマイ占拠を招いたから怒りしかないっすね。死者は100人を超えたっしょ」


あの暴虐を思い出して、真理の気持ちは暗くなる。亡くなった人達を仕方なく土に還した時の吐き気がこみ上げる様な辛さが胸に去来した。


色を無くした真理を心配するかのように、アレックスが肩をギュッと抱き寄せる。

その力強さに我に帰ると、真理は安心させるように、大丈夫、と言うと彼の手に自分のそれを重ねた。


「本当に残酷な仕打ちだった。自国民を・・・しかも女性と子供ばかりを殺したのだから、サッシブは狂ってると思ったわ」


クロードの言葉に同意して、そう言うとクロードも顰めっ面をして頷く。


「大義も信念も作戦もない、ただ無茶苦茶にキャンプに乗り込んでるっすからね、追い詰められた末の足掻きっすよ、酷すぎるっすけどね」


テッドも重々しく頷くと続ける。


「占拠後の交渉は、100人切るまでは、簡単でした。サッシブ達が人質減らしのために食料、水、医療品と人質を解放するのは想定内ですし、我々はどこまで人質を減らすかも概ね予想してました。子供達の解放までしたかったのですが、子供達は兵器との交換を求められたので、解放交渉はここまでと止めたのです」


「サッシブ達ももうテロリストっすから、いまさらガンバレン国から出て行け、とも言えず、こちらで交渉を止めたので、焦っていたっす」


クロードは甘いもの好きらしい。

2個目のガレットを食べながら話しを続けた。


報道の発表では多国籍軍が主導権を持って人質解放作戦に当たったとされたが、どう聞いてもグレート・ドルトン王国軍が状況も作戦も握っていたとしか思えない。


さすがジャーナリストの叔父も同じ事を考えていたのだろう。それまでのアレックスを牽制するような態度から、なにかを考え込む顔をしている。


真理はアレックスがシュナイド砂漠で言っていた事を思い出した。


『多国籍軍は編成されてる国数が多い。時としてそれぞれの国の思惑と野心が見え隠れする。ただでさえ停戦を前に、どの国も色めき立っている。勝利を前に無益な血が流れかねない。ドルトン軍は国連にも多国籍軍にも発言力も影響力もある。その力を犠牲を抑えるために使いたい』


グレート・ドルトン王国軍が独立不羈を貫く理由がこれなのだ。


まさに今回も犠牲を抑えて人質を解放出来るよう、その力を使い多国籍軍をコントロールし救出作戦にあたったのだと思い至って、真理の胸は熱くなった。


派手なことは望まず、ただ人の命の重みを常に考えて軍務に邁進する・・・流す血は最小に・・・グレート・ドルトン王国軍の・・・アレックスの軍人としての矜持なのだ。


そう思い至ると余計に胸が熱くなって、自分の腰を抱くアレックスの手の上に真理は自分のそれを重ねてギュッと握ると、アレックスは嬉しそうに自分を見返した。


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