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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第11章 顚末と甘やかな関係
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体調が安定したのを見計らって、予定していた通り真理はアレックスとともにグレート・ドルトン王国に帰国した。


実にアレックスは5ヶ月ぶり、真理は4ヶ月ぶりのドルトンだ。

普段から一度取材に出ると長くなることが多いが、それでも一度も帰国せずの4ヶ月は久しぶりだったので、空港に着いた時は感無量のような思いが込み上げてしまった。


王子の動向は知らされておらず、ノートフォークに近いローカル空港に軍用輸送機で帰着したおかげで、二人はパパラッチに見つかることなく、離宮入りした。


王族の所有する離宮に滞在することに畏れ多さを感じつつ、ましてや民間人の自分が滞在しても問題ないのか気になったが、今の真理はアレックスに甘やかされるまま過ごしている。

離れていた間のことを思うと、彼が自分のためにしてくれること全てが、幸せでならなかったからだ。




「アメリア!!」


真理は、クロードに案内されて入ってきたロナルドを見て、飛びついた。


「ロニー叔父様!」


帰国して3日、クロードは当初話してくれた通り叔父との面会を設定してくれた。


ロナルドは腕の中に飛び込んできた姪を、しっかりと受け止めるとギュッと抱きしめる。


「無事で・・・無事で良かった!!本当に無事で良かった!」


叔父の声が震えていて、真理は「心配かけてごめんなさい」と答えれば、ロナルドは顔を上げて真理の頬に熱烈なキスをした。


叔父の目尻に滲んだ涙を拭ってあげる。

二人で目を見合わせて笑い合うと、ロナルドは体調はどうだ?と聞いてきた。

肋骨にひびが入ったことを聞いていたのだろう。

真理は安心させるように微笑むと、大丈夫、ひびだし、と答えた。

実際、過保護を行き過ぎているアレックスのおかげで、この10日あまりで歩くには支障がなくなってきていた。


側に付いていたアレックスが何やら騒いでいるが、クロードに肘で小突かれて、さらに騒ぎたててるが、二人の耳には入らない。


ひとしきりの再会の感激の中で、叔父は痛みを堪えるような目で真理の頬を撫でながら言った。


「ザティルマイ占拠の一報は本当に心が凍えた。社長もソフィアもランディもパニックさ。お前が行ってることは分かっていたから。サナー達もニュースで動画を見てお前が映っていたって号泣して連絡してきて」


サナーはロナルドの妻で、両親を早くに亡くした真理を可愛がってくれる優しい叔母だ。


「叔母様にも心痛をかけてしまったわ」


眉を下げて、遊びに行くといつも自分の大好きなお菓子を焼いて出迎えてくれる優しい叔母の姿を思い出す。

彼女は大切な姪が戦地に行くことを、いつも心配していた。母親代わりで、本当は行って欲しくないのに、好きなことはさせてあげたいと応援をしてくれる愛情深い人だ。


妻のパニック振りを思い出して、叔父は顔を顰めたが、まぁ大丈夫さ、と言って、今度は真理の頭を撫でる。


やっと気持ちが落ち着いたところで、クロードに勧められたソファーに彼は真理と一緒に腰を下ろして続けた。


「俺はすぐにウクィーナに行こうとしたんだが、折しも開戦のせいでウクィーナが入国規制かけていた。仕方がないから行けるとこまでは、と思ってノントレイ共和国に行こうとした時に・・・」


そこまで言って、チラリとまだコーヒーを淹れてるクロードになにやらブスブス言ってるアレックスを見た。


「王室府の・・・エドワルド王太子殿下の補佐官から呼び出された」

「えっ!?」


ロナルドはテーブルにクロードが置いたコーヒーを一口啜ると、頷きながら続けた。


「びっくりして参じたところ、エドワルド王太子殿下が自らお出ましになって・・・・・・お前のことは必ず救出するからと言っていただけて・・・ドルトンで無事の知らせを待つようにと仰って頂いたんだ」


思いがけないことに真理は驚いた。

パッとアレックスを見れば、話の内容に気づいたようで、微笑みながら頷くと二人の前に腰を下ろす。


チラリと真理の隣に座りたそうな顔をしたが、さすがに叔父に譲ったようだ。


「もちろん人質になった外国人、君や他のジャーナリスト、キャンプの運営スタッフ達の家族には多国籍軍の情報提供のもと、出身国の外務省から状況説明がされる。真理の場合は、俺から兄に頼んだんだ。あと日本の外務省にも連絡してあるから安心して」


兄上は外務省を統べているから、と言ってアレックスは、少し心配そうな顔をしたが、真理は顔を赤らめた。


この扱いは・・・・・・なんていったら良いのか・・・普通に外務省職員で良かったはずなのに・・・もう顔が火照ってしょうがない。


そもそもの話で言えば、自分は日本国籍の元、日本人として日本から出国している。多国籍軍から日本の外務省に連絡するのが正しいのだが・・・。


叔父も同じように思ったのだろう、真理の赤くなった顔を苦笑しながら見やると頷いた。


「随分、過分な対応に驚いたが、お言葉に甘えさせてもらった。多少は自由を許されていただろ?その時に撮ってる動画も何度か観せてもらえて、お前の様子が分かったから、少し冷静になることができた」


「動画?!誰が撮ったの?」


まさか、あの占拠されてたキャンプ内で動画が撮られていたとは思わず真理は驚いた。

サッシブ達がカメラを回したのは後にも先にも犯行声明の時だけだと記憶している。


アレックスは驚いた真理の顔を楽しげに見ながら当然の疑問に答えた。


「我が国の特殊部隊 諜報を忘れてもらっては困るな、我が軍の要で世界の軍でも屈指の優秀さだ」


「諜報って、カーティス様の部隊の?」


アレックスはそうだ、と答えると続けた。


「あのキャンプの占拠は、元々が無謀な計画だった。いくらガンバレン国軍の最高峰の精鋭の集まりと言ったって、国を捨てて逃げ出した、たかだか50人程度の一部隊だ。どうとでも中を伺うことは出来たから、多国籍軍と一緒に、出来得る限りサッシブ達と人質達の様子は見ていた」


アレックスが言うとクロードが言葉を挟んだ。


「まぁ、テントの中までは見えないっすから、完璧ではなかったっす。でもミリーちゃん達が見張られながらも頑張ってるのは見る事が出来たんで、安心はしてたっす。サッシブ達がイラチになってんのもね」


アレックスがクロードの言葉に同意するかのように頷くと、それをチラリと見ながらクロードは続けた。


「もう少し早く救出したかったっすが、多国籍軍と作戦の調整に時間がかかってしまったっす。そのせいでサッシブ達のフラストレーションが極限まで高まってしまい、食料が尽きて人質の苦難が長引いてしまったっすから申し訳無かったっす」


眉尻を下げたしょんぼりしたクロードの顔に向かって真理は微笑むと、そんな、と言葉を返した。

謝ることなど何もない。誰もがあの極限状況で頑張った。助かったのが奇跡だ。

それに、とクロードが続けた。


「人質解放作戦では、ミリーちゃんの存在が実はキーになっていたっす。そのおかげで作戦が立てられたっすよ」


「どういうことですか?」


真理が首を傾げたと同時に、ノックの音が部屋に響いた。


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