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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第10章 狂気の狭間、深まる気持ち
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キャンプ占拠から30日。

明らかにサッシブ大佐はイラついている。


ザルティマイ難民キャンプは周囲を360度、多国籍軍とドルトン軍に包囲されている。


人質の解放は300人近くまで行われ、残りはウクィーナ国民と難民キャンプのスタッフ、そしてジャーナリストと残り100人を切るまでとなってきた。

彼らの手持ちのカードである人間の盾が減ってきたのだ。


もとより大規模な占拠など出来るまでもなく、サッシブにとっては時間稼ぎなのかなんなのか、先行きの見えない篭城になりつつあった。


ガンバレン国は、亡命していた大統領と王太子が帰国し民主主義勢力の代表とともに政府内をまとめはじめた。

国の代表としてサッシブに据えられたサイレン将軍の息子、イダントは身柄を拘束され、その座から引きずり降ろされた。

実質、ガンバレン国軍は力を失った事になる。


そして、改めて就任したガンバレン国大統領は正式にサッシブ大佐とその一派の殲滅を宣言した。


これにより彼らは国の庇護を失い、テロリストと認定されたのだ。


多国籍軍が少しでも動くと、威嚇するようにサッシブの兵達は攻撃をしてくる。


散発的な交戦が続く中で、兵力の弱いサッシブたちは少しづつ、だが確実に衰えを見せはじめていたが多国籍軍とグレート・ドルトン軍は包囲したまま、時を待っていた。





「おいっ!!お前だっ!!来いっ!!」

「いやっーーー!やめてっ!うわぁーーーん!」


サッシブの兵士1人が荒々しく、親のいない子供達が集まっているテントに入ってくる。


寝る準備をさせていたスタッフが慌てて止めに入るが「邪魔するなっ!!」と言って殴り倒される。


騒ぎを聞きつけて医療用テントにいた真理がティナと駆け込むと、年端もいかない少女を抱きかかえ連れ去ろうとしている兵士の姿があった。

大方、イライラが募って、夜の相手に少女を物色しに来たのだろう。スタッフの間ではくれぐれも注意するようにと、密かに避難民達にも注意をしていたところだった。


殴られて床に血を吐いて倒れている女性スタッフが目に入って、真理は兵士に飛びかかり、少女を奪い返した。


少女を庇って抱き込むと床に蹲り、敵を睨む。


「まだ子供よ!手を出すなんて卑劣だわ!!」

「うるせぇっ!そいつを寄越せ!」


ガツっと胸に蹴りが入って、ピキッと身体の中で変な音がしたのに気づくが、気にしない。少女を拐われて慰み者にされるのは許されないのだ。


苛立った兵士が怒りのまま、今度は拳で真理の顔を殴るとティナが真理の前に立ちはだかった。


「やめてください!軍人のプライドはないのですか?!」


ティナの毅然とした物言いに怯んだのか、それでも当てこするように「黙れっ!女の分際でっ!!」そう言って、握り拳をティナの腹に見舞った。


「ぐふっ・・・!」

「ティナっ!」


ティナの身体が、膝から崩れ落ちて、真理はティナに覆い被さる。

暴力に物を言わせる人間は決して軍人などではない、許せない。


「あなた達がやってる事は畜生以下よ!!無意味な戦争を起こして、たくさんの人を殺して!恥を知りなさいっ!!」


睨みあげたその先で、怒りに顔を真っ赤にした兵士が腰から銃を抜いた。


ティナが身体を起こして真理と子供の身体を後ろに押しやる。


「ミリー、下がって」

「ティナ、ダメっ!!」


・・・これまでか・・・覚悟を決めて、ティナの肩に顔を埋めてギュッと抱きしめる。

一瞬、脳裏に彼の優しい笑顔が過ぎり、眦から涙が零れ落ちた。


ティナは正面から兵士を見据えているようだ。

助けた少女も怯えたようにティナの腰に顔を埋めている。


カチッ


安全装置の外れる音がして首を竦めた瞬間


「おいっ!大佐がお呼びだ!」


別の兵士が入ってくる。その場の状況を一瞬で把握したのだろう。その兵士の銃を下げさせると「騒ぎを起こすな!」そう言って、二人は外に出て行った。


「た・・・助かった・・・」


さすがに銃口を至近で向けられて身体の震えが酷い。ガタガタと震える手を抑え込むが止まらない。


「・・・ううっ・・・」呻き声が聞こえて、ハッとティナに眼を向ける。


「ティナ、ティナっ!しっかりして!?」


声をかけると、ティナは先程殴られた腹を抑えて口から血を吐き出している。


「ミリー、大丈夫だから」

「ああ、良かった・・・」


グッとティナに手のひらを握られてホッとするが、口から溢れる血を見て慌てて口を拭いてやる。


「あ、あ、ミリー・・・申し訳・・・ありません、あなたは大丈夫ですか?」


暴力を受けた後なのに、相変わらず礼儀正しいティナに真理は涙混じりのまま、ふっと吹き出した。


「やだ、謝らないで。私は平気。庇ってくれてありがとう。でも無茶しないで」


彼女を抱え起すと、背中を緩くさすりながら、傍らの少女に大丈夫?と声を掛ける。

真理の問いに少女は笑顔で頷いたのでホッとした。

場が落ち着いたことで、他のスタッフ達も入ってくる。最初に殴られたスタッフの処置を任せると、真理はティナのために水を取りに行こうと立ち上がった。


蹴られた胸がジクジクと痛んだが、恐らく打撲だろう、と予想する。この手の痛みは慣れている。


真理は先ほどの兵士の様子を思い出していた。


サッシブ達のフラストレーションは限界に来ている。

それがいつ爆発するのか、どんな風になるのか・・・どのような結果になれ、この占拠の終わりは近いと真理は感じた。


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