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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第9章 同じ空の下
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シュナイド砂漠の前線本部は静かな緊張感に包まれている。


前線に入って何かしらの交戦があるかと構えていたが、現状は動きがなかった。


不思議なことに、あれほど短絡で血気盛んなガンバレン国が、このような状況になっても沈黙を貫いているのだ。


「探らせてますが、まだ裏どりができてません。相手も慎重になってますな」


ウィリアム卿の言葉にアレックスと今回、アレックスの支援任務についたウィリアム卿直轄の装甲師団 団長のレオライナー・ハートも顔を顰めた。


「あれか、一番の首謀者、ガンバレン国の国防相が死んだって言う噂か?」


「そうです、もし本当であれば、ガンバレン国の動きがおかしいのも頷けますが」


うーん、とアレックスは考える。

確かに、大人しすぎるとは思うが、本当に死んだのだろうか。


化学兵器を使って自国の王室と民主主義の政府を倒し、反乱勢力を残虐非道なやり口で殺しまくり、あまつさえ隣国の希少な資源を狙って、いきなり軍事力を使ってウクィーナ共和国を侵攻をした首謀者が。


あの国防相ーーナトリカ・アダム・サイレンは野心家で人の命をなんとも思わない悪魔だ。


この局面でなにかしらの原因で死亡したのであれば、神の加護は我らにある。


「まだテッドからは報告が来てないな」

「ええ、テッドの部隊をもってしても手こずっているようです」


レオライナー・ハートが答えた。


アレックスの側近達は、全員、軍人だ。

ひとたび戦線に出れば、それぞれ部隊を率いている。

特に最側近のクロードとテッドは特殊部隊に所属している。グレート・ドルトン王国の特殊部隊は非常に優秀だ。


部課は空挺・海挺・諜報・機動に分かれており、破壊工作や敵陣付近での諜報活動だけでなく、国王など国内外の要人の警護、テロ行為に対する治安維持活動、および、人身および捕虜の救出作戦の実行など、幅広い分野をカバーしている。


アレックスが軍人ゆえ、その側近達も特殊部隊の軍人で構成していた。


テッドは諜報、クロードは機動のそれぞれ大将と少将だ。

諜報は言わずもがなの諜報活動で時には敵陣付近での偵察活動も行う。テッドの部隊の偵察は精度が高く、多国籍軍からの信頼も厚い。


機動は敵陣に潜入しての破壊工作、戦車や火砲を率いての地上戦が専門だ。クロードは恐れ知らずで大胆に攻撃をするが、その反面、非常に賢く動く。

少数精鋭で重要な拠点を簡単に制圧できる力がある。そのくせ危機管理能力が高く、彼の部隊では死者が出ないことから、魔術師部隊と評されるほどだ。


クロードは今か今かと開戦の指令を待っていることだろう。


クロードのイライラっぷりを思い出しながら、アレックスは「テッドからの報告待ちだな」と言った。多国籍軍でも有益な情報は掴んでいない。無理は禁物だ。


その言葉にウィリアム卿とレオライナーが頷いた。


話も長くなったので、ここで終わろうかと言う時にウィリアム卿が何気なく尋ねた。


「そういえば、クリス殿下のご婚約者は今どちらに?」

「なっ???!!!」


婚約者という言葉に仰天したのだ。

クロードとテッドが軍務に入っている間は真理のサポートは出来ない。

そのため、仕方なくウィリアム卿に話をしてレオライナーを彼女のサポート役に借りたのだ。


当然ながらウィリアム卿もあの番組は観ていて、すぐに呼び出されて誰なのかとしつこく聞かれていたのだが、アレックスは面倒くさくてのらりくらりとかわしていた。


だがこうなると隠すことも出来ず、じい様の前で命の恩人から報道カメラマンであることまで、洗いざらい白状させられていた。

そもそも、自分の命を助けた人間を探すことに付き合わせた弱味?のようなものもある、


アレックスが驚いたことに、ウィリアム卿も【ハロルド】の写真のファンだった。


なので、そのことを知った時に、長い付き合いの中ではじめてウィリアム卿に褒められたのだ。


「殿下は女子おなごを見る目がまったく本当に恐ろしいほど無いと思ってましたが、ハロルドを見初めるとは大したものですな!」と。


アレックスは咳き込むと「まだ、婚約者じゃない」とブスッと答えた。レオライナーは笑いを噛み殺している。


「おお、そうでしたな。では一刻も早く、この戦争を終わらせて、プロポーズしないと。また逃げられてはたまりませんからな」


楽しそうに笑うウィリアム卿を前に苦虫を噛み潰したような顔でアレックスは毒づきかけた。


「どうして、どいつもこいつも、みんな彼女が俺から逃げると思うんだ・・・確かに逃げられかけたって言っちまったけど・・・レオ、彼女はベースキャンプに入ったな?」


「はい、今日、昼過ぎに無事に入られてます」


その答えにウィリアム卿は、うむと顎を擦った。


「多国籍軍の部隊が付いてるので多少は安心かと思いますが、メディアのベースキャンプといえど、女性の身で前線近くまで来るとは。

殿下のご婚約者は、さすが軍人の、王族の妻になるだけの矜持をお持ちの方ですな。素晴らしい」


孫同然のように思うアレックスにいよいよ婚約者!それもハロルドだと思うと嬉しいのだろう。

勝手に、妃殿下!妻!!扱いになっている。


王子の過去には苦い顔ばかりをして、放蕩が記事に出るたびに呼び出してはネチネチ説教していたのに、いまやえらいご機嫌だ。

にこやかに話すウィリアム卿にアレックスは呻くように注意した。


「だから、まだ婚約者じゃねぇって」


そう言ってから真顔になると王子は続けた。

「彼女を婚約者にしたいなら、俺にプロポーズさせろよ。早くこの戦争を終わりにさせよう。誰にとってもこの戦争は無益だ」


アレックスの最後の言葉に、一瞬和んだ2人だったが、重々しい顔で頷いたのだった。

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