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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第9章 同じ空の下
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国際連合に認可された多国籍軍とそれに追随するロイヤル・ドルトン王国軍がぞくぞくとガンバレン国を包囲するように四方の隣国に入っていくニュースが毎日流れる。

攻撃体制が着々と整えられているのだ。


停戦合意の拒否から、交戦へと舵は切られた。


いずれ国際憲章に基づきガンバレン国への攻撃が開始されるだろう。


副司令官ウィリアム卿が率いるグレート・ドルトン王国軍は、ガンバレン国領内の北側国境に近い砂漠地帯、シュナイド砂漠をあっという間に制圧し、そこに最前線本部を敷いた。

どこよりも前線で危険な場所だ。いつガンバレン国に攻撃を受けて奪還されないとも限らない。


この意味を世界中のメディアも軍事評論家も、もちろん真理も知っている。


王国軍は他国よりも情報収集と軍備と攻撃のコントロールに優れていると評価されている。

多国籍軍が強大な攻撃力を持つ一方で、これらの数の軍をコントロールするには多国籍軍だけでは難しい。

そこをグレート・ドルトン王国軍が最前線に立ち指揮系統をまとめながら、戦局を見極めコントロールしていくのだ。


独立不覊を貫き、古くからの歴史と格式、そして国王陛下の軍と呼ばれる誇りを持ち、敬意を集めるグレート・ドルトン王国が一番危険な責務を負う。

恐らくは、王子が軍の中枢にいることも関係してるのだろう。


多国籍軍は軍事拠点の空爆をするだろうと予想されている。

そして、ドルトン軍が・・・アレックスが一番危険な前線航空管制官としてガンバレン国の軍事拠点への爆撃を誘導するのではないかと真理は考えていた。

以前、彼はチラリと真理に話したのだ。自分は拠点誘導が得意だと・・・。


真理はそれを聞いた時恐ろしく驚いた。

アレックスの軍神としての働きや武勇伝は多けれど、まさかそこまでとは思わなかったのだ。

拠点誘導は攻撃ポイントを外さないために、いつでも最前線にいる。

王子なのだから、ある程度守られた場所にいるのだと思っていた。


最前線で敵国の攻撃をかわしながら、味方の攻撃をコントロールするのは命を失う危険と表裏一体だ。


敵国が前線本部の場所を知れば、当然、制圧しようと攻撃をしかけてくる。ましてやそこが攻撃のコントロール拠点であればなおさらだ。

彼はいつもそれを覚悟しながら、本部にいるのだと思うと心が震えた。


アレックスがガンバレン国へ出発してから1ヶ月、真理も日本へ戻り、準備をしてから、まずはウクィーナ国へ入国した。


フリーの報道カメラマン、矢萩やはぎ 真理としてだ。


ここから、ウクィーナ国とガンバレン国の国境付近に多国籍軍が設営したメディア専用のベースキャンプに入る予定を組んでいる。


叔父からはデイリー・タイムズが契約した他のフリーの記者やカメラマンもいるから、なるべく彼らと行動をともにするようにとの指示があった。


アレックスからは今回は従来通り多国籍軍側に付いていてくれ、と言われた。恐らくドルトン軍の任務が危険なのだろう。ドルトン軍は従軍記者をシュナイド砂漠へは帯同させなかったからだ。

護衛を付けるとアレックスに言われたが、逆に目立つから必要ないと真理は断った。



一方、多国籍軍はかつてないほどのメディアを戦地に帯同している。

メディアのためのベースキャンプを護衛部隊を付けて設置したのも異例だが、それほどのことをしてまで、この戦争にメディアを利用したいと言う意図がハッキリしている。

言わずもがな、この戦争が正義であると世界中に知らしめるためだろう。


だが、と真理は思う。ガンバレン国は確かに卑劣だ。国際連合が多国籍軍とグレート・ドルトン王国軍、他国の軍の一斉派遣を決定する程、世界の平和と均衡を脅かした。

失われた命も多い。


でも、そこに生きる人間が殺されて良い訳ではない。いつも戦争の中で起こる矛盾に結論が出せないことを苦々しく思う。


そしてそのたびに思うのだ。戦争の起こらない世界にするために、自分は何が出来るのかだろうと。


真理はアレックスからもらった腕時計に触れた。


---ハロルドの写真を世界中の人に観てもらい、戦争が無意味であることを問い続けて欲しい---


アレックスはそう言ってくれた。

王子でありながら軍人でありながら、戦争の無意味さを誰よりも理解している彼。


その言葉は何よりも嬉しかった。


だからーーー自分は自分の思うように撮ろう。

正義のための戦争など無いと言うことを、世界に知ってもらうために。


戦争が無意味だと言うことを知ってもらうために。


真理は改めて決意すると、メディア用のベースキャンプへと、向かった。

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