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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第8章 王子の宣言と変化
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青褪めて部屋に飛び込んできたアレックスに、真理は申し訳ない気分だ。


「ああっ!真理っ!!」


顔を見るなり、テッドと護衛と医師の目を気にせず自分を抱きしめる王子に、真理はこの時ばかりは柔らかく抱きしめ返した。


彼の腕が心なしか震えている。


「心配かけてごめんなさい。私は大丈夫」


宥めるように背中をポンポンと軽く叩くと、アレックスは肩から顔を上げて今度は真理の頬に触れながら、瞳を覗き込んだ。


「怪我は?どこをやられたんだ?!」

「ないわ、それより・・・」


心配させ過ぎるのも良くないからと、色々端折ろうとしたところで、医者が割り込んだ。


「大きいお怪我はございませんが、右脇腹と太もも、左手の指先、そして左の耳朶に飛び散った薬品による、軽い熱傷がございます。あと御髪も数カ所焦げております」


・・・余計なことを・・・医者の言葉に温厚な真理でも少し苛立つ。とにかくアレックスを心配させたくないのに、これでは無理だ。


とはいえ、目に見えるところに火傷はあるから隠しようもなく、医師の言葉にアレックスが剣呑な顔をした。


「犯人は自供したのか?」

「現在は黙秘してるようです」

「必ず、吐かせろ」


テッドの返事にアレックスが苛ついたように髪を掻きむしった。そして「明日、警視総監を王宮に呼べ」と言ったところで、真理は慌てた。


言い方は悪いが単純な傷害事件だ。そして犯人は現行犯で逮捕された。何も警視総監は必要ない・・・はずだ、多分・・・。


「殿下、私は大丈夫。犯人は捕まったし。ヘルストン警視庁にお任せしましょう」


「だめだ、君が狙われた動機がまだわからない。黒幕がいるはずだ。俺は絶対に許さない」


アレックスは冷たい口調で譲らない。真理を抱きしめたまま、警護官のリーダーへ冴え冴えとした鋭い目つきで睨め付ける。


「この失態は許されない、分かっているな」

「はっ!大変申し訳ございません!」


頭を下げた護衛の頭を真理は放心して見つめた。大げさにしたくなかったのに逆効果だ。



「彼らのおかげで犯人は捕まっ・・・」

「ダメだ!」


アレックスは真理の言葉を苛立たしげに遮った。


「真理、これは傷害じゃ済まされない。殺人だ!アシッドアタックなんて、卑劣極まりない。強酸と思しきものを君に浴びせてる。君がうまく逃げなきゃ、顔を失っていたかもしれない、凶悪だ」


言って、また彼の胸に顔を押さえつけられ、頭にアレックスの顔が埋まるのを感じる。

彼をひどく昂ぶらせてしまったことに、真理は後悔したし、周囲の人間に迷惑をかけたことも自覚した。


冷静なテッドが医師と護衛を応接室から出すと戻ってきて声をかけた。


「殿下、アメリア様の方がショックを受けていらっしゃいますよ、貴方はまず落ち着いてください」


アレックスはハッと顔を上げると、真理の頬に手を添え、気まずそうな顔を見せた。


「ごめん」


王子の謝罪に、真理は頬に触れる彼の手に、指先で触れると「私もごめんなさい、心配をかけて」と伝えた。


その手を引かれてソファーに2人で座ると、テッドも座り口を開いた。


「とにかくご無事でなによりでした。護衛は変更します、アメリア様のレベルに合いません。前回のパパラッチ、今回の犯人、どちらも後手に回っています。大変申し訳ございませんでした」


彼が頭を垂れたことで、真理は慌てた。これで2度目だ。自分の方が迷惑をかけているのに。


「そんな!謝っていただくことなどございません。私の方こそ勝手をしたんです。申し訳ございません」


彼女の言葉にテッドは困ったような、でも厳しい顔つきで答えた。


「今日の犯人は明らかにアメリア様を狙ったものと思われます。殿下の言葉ではありませんが、このまま簡単に傷害で終わらすことはできません」


「そうだ、君に害をなすということは、俺に対して・・・王族にも害をなすことと同義だ。絶対に黒幕を吐かせて潰してやる」


息巻くアレックスと、無表情だが多分かなり怒っているだろう秘書官に真理は困り果てた。


犯人を捕まえるためとは言えど、勝手をし過ぎた。気づいた時点で、すぐに護衛に助けを求めれば良かったのだ。


自分の好奇心?探究心?ムズムズする気持ちに負けて、誘い込んだのが悪かったのだ。


先ほどまで受けた警視庁の聴取では、このことは言ってない。コーヒー豆を買うために路地に入ったと説明したのだ。


だが・・・王室府の第二王子の首席秘書官は優秀だった。そして早くも真理の気質を良く理解し始めている。

少し考え込むような顔をしたが、その後ちらりとアレックスに視線をやり、おもむろに聞いてきたのだ。


「アメリア様、ご自分を囮になさいましたね?」

「どういうことだ!?」


アレックスがさらに青ざめたのを見て、真理は本当に自分のした事の迂闊さを後悔していた。


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