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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第7章 揺るぎない想いと抱える痛み
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冷たいものが喉を通る。真理はそれをコクリと嚥下するとゆっくりと眼を開けた。


ベッドサイドの灯りがほんのりと部屋を照らしていて、自分がアレックスがかいた胡座の上で、横抱きにされていることに気づいた。




テッドと新聞記事について話した後、アレックスにベッドに沈められてからの真理の記憶は途切れ途切れだ。


いつもとは全く違う、荒々しい情交の波にのまれたからに他ならない。


帰国したばかりのアレックスは様子がおかしかった。


名前を呼んでも応えてもらえず、アレックスの琥珀色の瞳は暗く翳り、そこに真理の姿は映っていなかったようだった。


途中からは、ただ一心に身体を繋げ快楽に溺れていくばかりだったのだ。


真理にはアレックスのその様子に心当たりがあった。だから激しさが増す彼の猛々しい気持ちに、なるべく寄り添うよう肌を合わせたのだ。




視線を彷徨わせると、自分を心配そうに見つめるアレックスの視線と交わった。


——良かった、戻ってる——


ふっと笑みを浮かべると、アレックスは息を呑んで、真理の身体を起こし強く抱きしめた。

彼女の裸に胸に顔を埋めると、苦しげに謝ったのだ。


「ごめん、ごめん、真理。乱暴にしてすまない・・・俺、帰ってくるとこうなることがあって・・・」


真理は気だるい腕をなんとか動かし、自分の胸の中に顔を埋めたままの王子の頭に手のひらを差し入れる。

くるっとした癖のある赤毛に指を絡ませると、真理は優しく答えた。


「アレク、私は大丈夫」


その言葉にアレックスは顔を上げると苦しげに顔を顰めた。


「君を・・・大切な真理を欲望を捌くための道具のように扱ってしまった・・・」


泣きそうな顔で、またギュッと抱きしめられる。


許してくれ、と苦しげに呟かれ。


「大丈夫、大丈夫だから」


真理はなんとかアレックスの腕の中から身体を起こすと、彼の前に正座する。


彼の両頬に手を添えて、彼の顔を見つめると、もう一度大丈夫だから、と伝えた。


——戦闘ストレス反応——PTSDだろうと真理は思う。

兵士や軍人に多い。


彼は王族でありながら戦地に赴き、あまつさえ前線に出て行く。

彼の武勇はたくさんあれど、その中で人の命と向き合うこともあったと聞く。


苛烈な戦場に身を投じてきたのだ。身体の傷を見れば血を流させ、自分も流すことが多かったと考えざるを得ない。


一緒に過ごす中でフラッシュバックは見てないが、戦地に行くことでストレスが引き起こされるのだろう。

帰国と同時に抑圧されていた恐怖や暴力的な性衝動が出てしまうのかもしれない。


いつもと違った様子だったことに、最初は驚いたが、そう考えた瞬間からアレックスがもっと愛しくなった。


彼も完璧ではない。


王子だからこそ、万民には分からない恐れも不安も、そして弱さも持っている。


陽気でおしゃれで社交的で・・・そんな国民の愛されキャラである王子の中の、繊細な部分に気づくことで、自分にも彼のそばにいる理由が愛情以外であるかもしれないと感じた。


不安が、恐怖が・・・彼を苦しめるものがあるなら、自分にぶつけて欲しいと思う。


真理はアレックスの顔を上げさせると、優しくその唇にキスを落とした。

少しでも、彼の奥にある傷が癒えるように祈りを込めて。


アレックスは驚いたようだったが真理のキスを受け入れる。


唇を離すと膝立ちして、彼の顔を胸に引き寄せ抱きしめる。安心させるように背中を撫でて、真理は耳元で囁いた。


「私を求めてくれて嬉しい。寂しかったから、私ももっとアレクに触れて欲しいの」


彼に安心して欲しい・・・今、自分と一緒にいるのだと、1人ではないと・・・欠片たりとも不安も恐れも感じてもらいたくなかった。


だから、お願い・・・もう一度。


そう告げると、アレックスの伏せた睫毛が震えた。

真理は彼の頭を抱きしめたまま、シーツの上に男をそっと押し倒し、その額に唇を這わせた。


第7章 揺るぎない想いと抱える痛み —完—

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