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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第7章 揺るぎない想いと抱える痛み
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予定より1日遅れで帰国し、王宮で残務処理を速攻で片付けると、アレックスは急く気持ちのまま私邸に戻った。


車の中から外を見ると、私邸に近づくにつれメディアの数が増えていくのが分かる。


アレックスも報告を受けて記事を見ていた。

ザ・ワールドは確かに第一報でスクープをすっぱ抜いたが、情報が余りにも不足していたのだろう。

第二王子の帰国を知って、少しでも他を出し抜こうと、どこもかしこもマスコミだらけになっている。


こんな騒ぎでは、真理がどんなに不安だったろう、そう思うとアレックスは歯噛みした。


私邸の前について車から降りる。

途端、手ぐすね引いて待っていた報道陣が詰め寄ってきた。


「クリスティアン殿下!報道の女性は新恋人ですか?!」

「愛人との報道もありますが?!」

「同棲されてますか?!」


などなど、当然の質問が飛んでくる。アレックスは無言を貫く。

フラッシュが閃く中、もみくちゃにされつつも、護衛達に囲まれながら、私邸に入るとホッと息を吐いた。


「ひどいな・・・」


女が絡めば、いつでもマスコミに追いかけ回されるが、今日はいつもより数が多い気がした。

王子の住居に女性がいる、というのがセンセーショナルだったのだろう、確かに今までは外を連れ回してホテルに行く相手だけだったからだ。


「お帰りなさい!アレク!」

「真理!!!」


日本で別れて以来の真理の笑顔に、アレックスの胸はグッと込み上げるものを感じる。


嬉しくってたまらないと言った笑顔を浮かべ、軽やかな足取りで、出迎えてくれた彼女をすぐに抱き寄せると、その肩に顔を埋めた。

変わらないいつもの香りが漂って、それを吸い込むと、アレックスは穏やかさと愛しさで胸がいっぱいになる。


彼女のもとに帰ってきた・・・その安堵感は感じたことがないもので。


「顔を見せて」

「・・・アレク」


ほんの少し腕をゆるめ、彼女の顎を掴み上げ、顔を見下ろせば、いつもの愛らしい彼女の笑顔があって。

ただいま、と気持ちを乗せて、キスをしようとすると無情な声が響いた。


「クリスティアン殿下、先に話しをしてしまいましょう」


「テッド・・・」


秘書官の無粋な声がけに、アレックスはジトリと睨むが、テッドはどこ吹く風で。


「1時間だけです、その後は3日間の休暇になりますから、今だけ我慢してください。アメリア様もご一緒にお願いします」


テッドの真理の呼び方が「アメリア様」に変わっているのに気づいて、思いがけないことにアレックスは擽ったい気持ちになった。

テッドが彼女を認めていることが、真理への愛情に拍車がかかる。


アレックスは真理を抱きしめたまま、仕方がないと頷いた。


マスコミを片付けねばならない、誰であれ彼女を傷つけることは絶対に許さないのだ。


書斎で来客用のソファーに真理と腰掛ける。

彼女の身体を逃がさないように、腰を抱き寄せたまま、久しぶりの黒髪にキスをすると、真理は、もう、と気恥ずかしそうに睨んでくるが気にしない。


「アメリア様、このたびは大変申し訳ございませんでした」


テッドが謝罪をしながら前に座ると、あのタブロイド紙と報告書らしきものをテーブルに置いた。


真理は戸惑ったようにテッドを見ると


「カーティス様、そんな謝っていただくようなことは何もなかったです」


当惑したように答える。真理らしい回答にテッドも珍しく困惑した顔をし、アレックスはうっそりと笑った。


「いえ、護衛を付けていたのにパパラッチに気づけず、撮られて記事になってしまいました。国にいれば、先にザ・ワールドの記事を抑えることも出来たのに、我々の対応が後手になってしまいました。申し訳ございません」


深々と首を垂れたテッドに、真理は慌てたように「そんな、大したことじゃありませんから、大丈夫です、顔をお上げください」そう言って、困ったようにアレックスを見上げた。


たいしたことあるのだ。

普通に暮らしている市民が、ある日突然、マスコミに追いかけ回される、なんて異常なのに、それを彼女はさもありなん、と受け止める。


彼女の度量の深さを改めて感じて、アレックスはいっそう真理が愛しくなってしまう。


テッドが頭を下げていることに、これ幸いと彼女の顎を掴んで、自分の方へ向かせると軽くチュッと彼女の唇にキスを落とす。

真理の怒ったような顔を楽しく眺めながら、テッドに言った。


「テッド、真理が困ってる。顔を上げろ」

「はい」


顔を上げたテッドは報告書を開いた。


「写真を撮ったのは、アラン・ベイカー、フリーのカメラマンです。主に芸能人などのゴシップを扱っていて、ザ・ワールドにほとんどの写真を売っています」


「そうか、こいつはなぜ俺の私邸に真理がいると気づいたんだ」


アレックスは考えた。

普段、自分の行動をよく知るパパラッチ達は、国を離れてるときは特に行動を起こさない。

それに、私邸は彼らの中では仕事にならない場所と認識されていて、今までここで撮られたことはなかったのだ。


理由は単純で、アレックスは私邸に女を連れ込まない、連れ込む場所はいくつかの気に入りのホテルだとパパラッチ達は知っているからだ。


「本人がバールで同業者に酔った勢いで話したそうですが、ネタの提供があってラッキーだったと話したそうです」


「そうか、引き続き頼む」


第三者が情報提供してるのなら、裏に誰かがいる。大方、ソーンディック侯爵家の嫌がらせではないかとアレックスは読むが、ここは慎重に調べなきゃいけない。


テッドも恐らく同じように考えているのだろう、かしこまりました、と答えた。


「真理、すまなかった」


この数日の真理の心を思うと、怒りしか湧いてこない。でも何よりも腹が立つのは自分自身だ。

守ると決めていても、いつも上手くいかない。


テッドも今までメディアにプライバシーを追われたことのない真理を心配したのだろう。気遣わしげに「アメリア様、お気持ちは大丈夫ですか?」と尋ねた。


2人の言葉が想定外だったのか、真理がキョトンとした。


「私は・・・びっくりしたけど大丈夫です。ハロルドのことは出てないし。それに・・・」


と彼女はちょっと面白そうな笑顔を浮かべて言ったのだ。


「この国で私が学歴ないのは確かだし、間違ってない部分もあるから。取材した記者は随分中途半端な記事を書くのね、って面白かったわ」


真理は中学校こそグレート・ドルトンで通ったが、高校から大学までは全て日本の通信教育で済ませている。

父親と一緒に世界を転々としてれば、そうなって当然だ。


だが、そういった彼女のバックグラウンドを知りもせず単純に中傷するのは許せない・・・そう、アレックスは笑顔の真理を見つめながら憤った。


絶対に真理を傷つけさせたりはしない。


大らかに記事を笑い飛ばす真理に、冷静な側近ですら驚いた顔をした。


「アメリア様、本当に貴女というお方は・・・殿下にはもったいない」


テッドの真理への評価は上がる一方だ。その言葉にガクッとしながら、アレックスは言い返した。


「そんなことはない、真理の男は俺だけだ。とりあえず、この記事の件は俺が黙らせるから、テッドは飛行機の中で話した通り、GDBCの社長を呼ぶ手配をしろ」


この数日、考えていたことを実行に移そうと決めて、テッドに指示を出すと、真理の手を取って立ち上がった。


とにかく、もう我慢の限界だ。


テッドの答えを聞かずに、アレックスはもう真理を引っ張ってプライベートスペースに向かった。


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