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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第7章 揺るぎない想いと抱える痛み
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アレックスはウィリアム卿と、多国籍軍、国際連合との衛星会議を終えると司令官室に戻った。


ウクィーナ共和国の国境警備自体は、今は落ち着いた状態が続いて続いている。


ガンバレン国は国際安保理から2ヶ月後までにウクィーナ共和国から撤退するよう要求されているが、いまだ返事は来ていない。


「殿下はどうお考えですかな」


司令官室にクロードとテッドもいた。この2人は自分の側近であると同時に軍人でもある。

戦地ではそれぞれ部隊を抱えるトップだ。


アレックスはしばし考えたがウィリアム卿を見返すと口を開いた。


「ガンバレンが撤退するとは考えにくいな。国際連合の言うこと聞かないんじゃ、停戦合意に持ち込むのは難しいだろう」


ウィリアム卿も、そうですね、と同意した。


「かっーーー、したら、いよいよ本気で拠点を潰さないといけないっすね!」


クロードが血気盛んに言うのを、アレックスは苦笑した。


クロードは続けた。

「我が王国軍はヘルムナート高原の襲撃に対して、きっちり礼をしなきゃいけないっすしね」


「クロード、これは子供の喧嘩じゃない、戦争だ。仕返しを考えるのは軍人としての適正に欠けるぞ」


ウィリアム卿の叱咤にクロードは首を竦めた。

自分でも口が過ぎたとは反省したらしい。

報復措置は負の連鎖しか生まないと、ロイヤル・ドルトン軍は徹底して軍人に教育をしている。


恐れ知らずの口の悪いクロードでもウィリアム卿には頭が上がらない。

若干、ざまーみろと思いながら、アレックスは続けた。


「このまま撤退してくれればいいが、ガンバレンの中がどうなってるかも不透明だ。あの国防相、どこを落としどころにしたいのか、わからん」


「そうですね、最近のガンバレンはおとなし過ぎますし、起こす交戦も散発すぎます。指揮系統が機能してないと考えられますね」


テッドが冷静に話すとアレックスは頷いた。


「さっきのミーティングでもその話が出た。軍の求心力が低下してる可能性もあるから、我が軍で調査する。関係筋と連携して内偵を入れるぞ」


テッドとクロードが頷くと、ウィリアム卿も続けた。


「いずれにしろ、期限までに撤退しなければ、次は重要拠点の空爆です。できればその前にガンバレンに停戦合意させ、居座っている北側から撤退させたいですな」


軍歴40年の副司令官の言葉に、若い3人は同意すると、それを合図に一旦解散した。


アレックスはデスクに座ると軽く息を吐く。


このまま空爆の作戦が始まれば、この戦争は長引く。おとなしすぎるガンバレン国の思惑が見えてこないのが、厄介だ。


いい加減、この馬鹿げた戦争は終わらせたい。

ガンバレンにとって、続ける意味のない戦争だ。

国際連合をはじめ、我が王国軍、多国籍軍、非戦闘参加国を含めれば、40カ国以上の国が、ガンバレン一国を包囲している。


ウクィーナ共和国の侵攻はすでに失敗しており、北の国境付近しか抑えられていない。


続ければ続けるほど、ガンバレン国は荒廃していき民は疲弊していく・・・。


すでにガンバレン国の負けは決まっているのだ。犠牲は最小で留めたい。


ーーー真理・・・


ふと脳裏に恋人の顔が過ぎる。彼女は先日、自分の私邸に入ってくれた。


早く彼女の元に帰りたい。


あと3週間もすれば会えるのだが・・・今すぐにでも彼女に会って、彼女の声を聞いてあの身体を抱きしめたい・・・。

彼女の体温と香りを確かめたいのだ。


たった1ヶ月なのに、心も身体も真理に飢える。

想いが募るとはこう言うことなのだと、初めてアレックスは知った。


恋い焦がれる気持ちなんてなかった。

誰かを想うなんて感情はなかったのだ。


戦地では軍務に邁進し、帰国すればその高揚感を手っ取り早く一夜限りの女で宥めていた。

それがいかに虚しい行為だったのか、今の自分なら分かる。


はぁとアレックスの口から熱の篭った吐息が溢れる。


彼女のスラリとした立ち姿を思い出す。


カメラを構える真剣な横顔。

ころころ笑う愛らしい笑顔。

料理を作る楽しそうな鼻歌。

映画をワクワクしながら見る、嬉しそうな顔。

自分を見つめてくれる煌めく黒い瞳。

キスに震える睫毛。

愛撫に揺れるしなやかな身体。


そして、自分の全てを受け入れ、包んでくれるような慈愛に溢れた彼女の気質。


何もかもが、自分を虜にする。

真理を自分の中に取り込んで繋ぎとめたい。


その気持ちは、日本でお互いの気持ちを確かめ合った時から膨れるばかりだ。


この戦争が長引けば、彼女も確実に取材に出るだろう。


彼女のジャーナリストとしての立場を尊重して、守ると言っても、やはり危険な場所に行かせたくないのが本音で・・・アレックスは自分の勝手さに苦笑した。


早く、この戦争を終わらせたい。


そう独りごちながら、アレックスは腕時計で真理へコードを送信した。戦地からメッセージを送るのは傍受の危険もあるから控えてる。コードだけで我慢する。


真理があの腕時計を着けてくれているのが分かるから嬉しい。

彼女といつでも繋がっていられるのだ。


アレックスは気持ちを切り替えると、ガンバレン国内偵のための計画を考えはじめた。


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