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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第7章 揺るぎない想いと抱える痛み
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真理が帰国の連絡をすると、すぐに叔父のロナルドは真理の自宅にやってきた。


日本土産が出されると、いつもなら大喜びで礼を言ってハグして、チークキスして、となるところだが、今日はさすがに違っていた。

開口一番こう言ったのだ。


「俺の考えは変わらん。反対だからな」


真理はロナルドの前にコーヒーを置くと、申し訳ない顔をしながら、自分も叔父の前に座った。


グレート・ドルトンに戻り、いったん自宅に戻った。ロナルドに謝って話しをしないといけないと思ったのだ。


アレックスは指示をしていたのだろう。秘書官のテッドからは、2日後に私邸に入るための迎えを寄越すと、連絡が来ていた。


「迷惑かけてごめんなさい・・・1週間も、大事なランチタイムを・・・」


アレックスから聞いた時は彼の必死さが嬉しかったが、叔父の立場になれば迷惑千万な話なわけで。


可愛い姪の謝罪にロナルドはさらにひどい渋面を作った。


「本当はアメリアの居場所を教えるつもりはなかったんだ。ただ俺の暴言を聞きにわざわざ俺の休憩時間に毎日来るもんだから・・・いい加減、根負けした・・・それにまさか行くとは思ってなかった、居場所を知って連絡したいだけだと考えたのが間違ってた」


叔父は一息つくと、コーヒーを飲みながら続けた。


「教えた途端、来なくなってな。忘れた頃に王室府のリリースを見て驚いた、お前のところに行ったんだろう、あのバカ王子は」


早い時期よりスケジュール組みされてたかのように、まことしやかに発表された第二王子の日本訪問。ただ発表されていた時には、すでに彼は真理の元にいたのだ。


真理は顔を赤らめながら、頷いた。


「ひどい公私混同過ぎて、呆れて何も言えん」


ふんっと鼻息荒く、吐き捨てるように言うと、ロナルドはコーヒーを一気にあおって、日本土産の好物のカステラを頬張った。


真理は何をどう説明したら良いのか、言葉が見つからず、自分もコーヒーに口をつけて俯いた。


「だが、ひとつだけ訂正はしておく」


叔父の変な表現に、顔を上げてロナルドを見ると、彼はブスッとしたまま続けた。


「前は、あの王子にお前が遊ばれてると思っていたが・・・アメリアへの気持ちが本気なのは今回の一件で分かった」


ロナルドは2切れ目に齧り付く。


「アメリアは遊ばれてもいい、と言ってたが、今はどう思っているんだ?」


叔父の真剣な表情に真理はふっと身体の力を抜いた。たくさんの心配をかけてしまっているからこそ、きちんと話さなくてはいけない。


「・・・私はアレックス殿下が好き・・・お慕いしてます。彼の側にいたいの・・・」


何度も考えて、迷って・・・それでも変わらなかった想い。


叔父は何も言わない。


「殿下とお付き合いすることで、私は自分への不利益ばかりを考えていた。でも彼は違う・・・殿下にだって私と付き合うことで不利益はもっとあると思うの。それなのに、彼は私の大事にしているものを一緒に守ろうと言ってくれてた・・・最初からずっと」


すっと息を飲み込んだ。

脳裏に過るのは、いつでも愛情を隠す事なく優しく見つめてくれる王子様。


——君の写真も報道カメラマンとしての生き方も信念も含めて、全ての真理を愛してる—


そう言ってくれた彼。


「アレックス殿下は私の生き方を守ってくれる。私が行きたい戦場に一緒に行く、と仰ってくれた」


あの日の喜びを思い出して、真理の目頭は熱くなる。


「私の方が、彼の優しさや庇護に甘えてた。私の存在が殿下の迷惑や邪魔になることなどたくさんあるのに・・・そんな事にも気がつかないでいたし、アレックス殿下の側にいる覚悟が足りなかったの」


真理は真っ直ぐに叔父を見た。


「私に何が出来るのか分からない。でも、出来ることを探しながら、殿下と一緒にいたいと思ってます」


そうきっぱりと言うと、ロナルドは一瞬の躊躇いの後、分かったと言った。


「王子は俺に、報道カメラマンの仕事は奪わない、王子の恋人だと知られても、君が望むどんな場所でも撮影できるよう守る、と約束してくれた。俺もそこに・・・嘘は感じなかった」


そうは言っても、割り切れないのだろう、相変わらず眉間に皺を寄せたまま、はぁ、と溜息を吐く叔父を、真理はもうそれ以上は何も言わずに、お代わりのコーヒーを注ぐため、立ち上がった。





*****






真理の部屋を出て、ロナルドは参ったと思った。


どっちもどっち、本気を見せつけられて打つ手がないと悟ったのだ。


今日の姪は明らかに雰囲気が変わっていた。


少女の面影を残した初々しさから、艶やめいた色香を纏った女性へと変化している。


明らかに王子の寵愛を受けた・・・有り体に言えば、男に抱かれる歓びを知った女の顔だった。


「ちくしょー、バカ王子っ!!」


不敬な言葉は散々言ってきたが、言い足りない。第二王子を呪えば、自分の迂闊さも呪った。


本当に、まさか本気で王子が姪を追っかけるとは思ってもいなかった。

だから、休憩時間を邪魔される嫌がらせに根負けしたのもあるが、恩を売る下心で日本のアドレスを教えてしまっていた感もあった。


本気で日本に追っていくなんて・・・読みを誤った。

絶対、訪日なんて後付けだろうとしか考えられない。


そこまでする王子の執着が嘘だとは、もう到底思えなくなっていた。


そして自分にも姪にも「報道カメラマンとしての生き方を守る」と宣言しているのだ。


こうまで言われて、気持ちを見せつけられて反対できる人間がどこにいる・・・。


しかも相手はこの国の第二王子なのだ。

恐らく、アメリアはやっと側にいたいと思ったところだから、自分が妃になるなんて想像すらしてないだろう。


あの王子の本気を考えると、絶対に真理と結婚して妃にしようと考えてるに違いない・・・。


姪にとって、それが幸せなのかロナルドには分からなかった。


面白くない・・・面白くないのだ。

亡き兄に代わって,大事に守ってきた姪をあっさり奪われたことに。


もっと穏やかな人生を過ごせる男に、彼女を守る役目を引き継ぎたかったのに。

可愛い姪が傷つけられないように、そう願っていたのに・・・。


やるせない腹立たしさ、そのままにロナルドはもう一度叫んでいた。


「バカ王子!!馬に蹴られろ!!不幸にしたら、俺がお前に蹴り入れてやる!!!!」


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