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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第6章 束の間の熱
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「・・・・・どう・・・して・・・?」


頭が混乱して、うまく言葉が出てこない。

今、そこにいるのが信じられなくて、真理の足は竦んだ。


最後に会ったあの夜と同じ、鮮やかな赤毛にシャープな横顔。くるっとした癖っ毛が耳に流れてる。そして、感情を良く顕にする琥珀色の大きな眼。

何度もその瞳に甘く見つめられた、愛しい記憶。


自分をいつも大切に抱きしめてくれる、しなやかなで力強い美丈夫。


忘れようと、生々しい感情が穏やかな思い出になるように願って願って、でも忘れられなくて苦しんだこの3週間。


こんなにも好きになっていたんだと気づいて・・・ダメだと思っても恋い焦がれてしまう・・・


そのひとが・・・アレックスがそこにいた。


呼吸が止まっても後悔しないほど、こんなに苦しくても会いたかったんだと、真理は彼を見た瞬間に気づいて身体がガタガタと震えだす。


それまで、タブレットに視線を落としていたその人は、彼女の気配に気がつくと顔を上げた。


そして、真理の姿を認めると、一瞬泣き笑いのようにぐしゃりと顔を歪める。

地面に置いてあるバックパックにタブレットを放り投げて、立ち竦んだままの真理に走り寄り、その胸に搔き抱いた。


「ああ、真理・・・、真理っ!!やっと・・・やっと・・・」


会えた・・・その言葉は真理の耳元で切なげに囁かれて。

真理は今何が起こっているのか分からず、それでも、手は彼のTシャツの裾を握りしめた。


「どうして・・・どうしてなの・・・?」


頼りなく呟くと、自分を抱きしめる腕にいっそう力がこもる。

押し当てられた胸からは、どくどくと早い拍動が聴こえてきた。


彼の腕が拘束するように、きつく自分を抱きしめて、大きな掌が存在を確かめるように背中を這う。


昂ぶる感情のままに、頭の上に彼の吐息が降ってきて、何度もキスを落とされるのを感じて、真理の眦から涙が零れ落ちた。


溢れる訳のわからない感情に押し出されるように次々に嗚咽が漏れてくる。


「どっ・・・どう・・・しっ・・・てっ!ふっ・・・ぅぅっ・・・」


彼の胸に顔を押しあてて、その体温を感じると、もうダメで堰を切ったように嗚咽と涙が溢れでた。


震える身体を宥めるように彼の手が撫でてくれ、何度も何度も頭や耳、頬にキスの雨が降る。


「ごめん・・・ごめん・・・君に辛い思いをたくさんさせて・・・俺の世界にむりやり真理を引き込んだのに・・・ちゃんと守れなくて・・・すまない・・・」


切羽詰まったようなアレックスの声に、真理は首を左右に振った。


違う・・・自分が彼の気持ちに甘えて逃げたのに、どこまでも優しい王子様の言葉に胸が苦しくなる。


顔が近づいてきて思わず目を閉じると瞼にキスされ、彼の吐息で睫毛が震える。

鼻を擦りあわされて、目尻の涙を唇で拭われると、やっと真理の動転した気持ちも落ち着いてきた。


目を開けて見上げれば、本当に彼がいて。


「もっと話せば良かったって後悔したんだ・・・君に夢中で、だからこそ俺のことをちゃんと話してなかった・・・君に嫌がられるんじゃないかと思って・・・怖かった。すまなかった」


「私も・・・ごめんなさい・・・」

被りを振りながら答えると、アレックスが答える。


「今からだって大丈夫だろ?これから全部お互いにちゃんと話していこう」


言われて頷く前に、やっと唇に優しいキスをされて、それに応えようとしたところで・・・。


「あーーーー!!チューしてるよ!!ママ!!」


通りすがりの男の子が2人に横槍を入れた。

真理たちを指差して母親に一生懸命話しかけるが、母親はバツが悪そうに、ぐいぐい子供を引っ張っている。


こんなシチュエーションは世界共通なのか、日本語が分からないのに、何を言われたのか分かったように、アレックスがくつくつと可笑しそうに笑った。


そしてとても甘やかな声で真理にねだった。


「宿なしのバックパッカーを泊めてもらえませんか」


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