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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第6章 束の間の熱
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日本の夏は暑い。

帰国した時には梅雨だったが、それが終わるとちらほら蝉の鳴き声が聞こえはじめている。


日本に戻ってから3週間が経った。

久しぶりなので、カメラ片手に自宅に程近い海岸へ行ったり、近くの公園や神社で写真を撮る日々を過ごしている。


真理はグレート・ドルトンで生まれ、2歳から母親が亡くなった13歳になるころまで、日本で過ごした。


湘南の海岸から程近い、平屋建ての小さな自宅は母が祖父母から譲り受け、父と3人で暮らした幸せな思い出が詰まっている。


家具などは父と日本を引き払う時に、最小限に整理していたが、多少築年数は経っているにも関わらず、父が日本に立ち寄るたびに丁寧に手入れしてくれていたお陰で、今も暮らすことができる。


この家には母の優しくて懐かしい香りが満ちていて、真理にとっても、恐らく父にとっても、取材から帰るたびにホッと寛げる場所だった。


エステルからアレックスの婚約の話しを聞いた時、とにかく自分はすぐにこの家に帰りたい、と思ってしまったのだ。


この家に守られて、隠れてしまったのかもしれない。


アレックスが婚約しているなんて思いもよらなかったから動揺しすぎたのだろう、と今なら思う。

冷静になれば、公式発表はまだでも、内々で婚約が決まってることだってあり得る話だ。


そんなことにも考えが至らなかった自分が腹立たしい。


ここに戻ってきて、気持ちは少し落ち着いたような気もするが、無責任に逃げてしまったことは後悔していた。


ちゃんと王子と話して、素敵な時間をプレゼントしてくれたお礼を伝えて、お別れすべきだったのではないかと繰り返し考える。


でも、そんなこと出来たのだろうか。

あんなに真っ直ぐに好意を向けて大切にしてくれた王子に、自分の定まらない気持ちをぶつけて傷つけることも出来ないと迷ってしまった。


あの日、エステルの恋心を聞いて、はっきりと気付いてしまったのだ。


自分もアレックスのことが好きなんだと。

でもそれと同時に好きになってはいけない男性ひとだということも気づかされた。


婚約者がいて、その方とグレート・ドルトンの国民のために生きていく王子と自分は釣り合わない。


遊びで当然だ。

自分は王子との付き合いを夢物語だと思っていたけど、彼は現実世界の人間で、第二王子という責任も義務も立場も背負っている。


彼を取り巻く現実を見ずして、普通の男女のように恋愛することなど出来ないのだ。


自分は舞い上がって、王子の優しさに甘えて、その現実を見ないでしまった。

そんなことでは、対等の恋愛が出来ないのは当たり前だと思う。


真理は溜息を吐いた。


考えたって仕方がない・・・自分は逃げてきたのだから。


数年はグレート・ドルトンに戻らないほうがよいかも・・ボンヤリとそう思った。


彼のいる国で、普通通りに暮らせる自信がなかった。


日々、王子のニュースを目にして、いつかはエステル様と結婚されるのだろう。

その時に、自分は一国民として祝福できるのだろうか。


もともと取材に行く時は、日本人として日本から出国する。ドルトンにいる必要はないのだ。


この胸の想いが・・・焦げ付くような熱が冷めるまで・・・


いつか、素敵な夢を見たと懐かしく思えるようになるまで・・・


真理は、またため息を吐く。

考えても仕方がないことばかりを考えてる自分が嫌になる。


写真を撮ることに気乗りがしなくなり、自宅へと足を向けた。


海沿いの通りを抜け、自宅の垣根が見えてくる。父が母と一緒に作った、竹を使った垣根だ。


玄関前のそこに佇む人影を見つけて、真理は誰だろうと訝しみ、次の瞬間、息を飲んで立ち止まった。


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