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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第5章 それぞれの想い
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真理は、デイリータイムズの応接室で叔父を待っていた。


いつもだったら編集部に直接訪ねていくが、 今日は応接室で待つようにと言われたのだ。


叔父の用件は分かっていた。

昨日、アレックスから連絡が来ていたからだ。


彼は申し訳なさそうに、撮られた写真とどこから持ち込まれたか、そして王室府がどんな対応をしたか説明してくれた。


十分、誠意を持った対応をしてくれてると思う。

王子に大切にされている、そんなくすぐったさは、真理が写真に撮られても仕方がないと覚悟した理由でもある。


「待たせたな、アメリア」


ロナルドが入ってくると真理は叔父にハグをした。

チークキスを交わし、ソファーに座るよう促されて、真理は腰を下ろした。


「その顔じゃ、なんで呼ばれたか分かってるようだな」


いつもの陽気な叔父ではなく、渋面を作った苦々しい表情に、真理は申し訳ない気持ちになる。


「はい、驚かせてごめんなさい」


ロナルドは真理の正面に座るとクリアファイルから一枚の写真をテーブルに出した。


その写真に真理は眉根を寄せた。


「これは・・・」

「見てないだろう、俺が王室府に出さなかった」


どうして?という真理の当然の質問に、ロナルドはシニカルに笑った。


「さすがに、これはアメリアの顔がはっきり分かるからな。誰にも見せてない」


抱きしめられる瞬間、見つめあい笑いあっている王子と自分の姿が鮮やかに写っている。


「上手いわね、ピントがバッチリ」


そして真理は叔父を真っ直ぐに見ると、ありがとうと微かに微笑んでみせた。


ロナルドは深いため息を吐いた。


「いつからだ?というか、あの勉強会でか?」


真理は頷いた。


「第二王子からちょっかいかけられたのか?」


ロナルドはさらに渋面を作りながら唸るように問うた。

当然ながら、第二王子の過去の悪業はジャーナリストなら色々知っている。


まさか、あの勉強会という短時間で、自分の大事な姪を誘うとは思っていなかったのだ。

そもそも、公務の場だろう、とイラつく。


「ちょっかいとは違う。私も最初は遊ばれるのかと思っていたけど・・・誠実に接して頂いているわ」


真剣に、だがほんのりと頬を染めて言った姪の姿に、またロナルドははぁーーーと盛大に溜息をついて顔をくしゃりと擦った。


「俺は反対だ。男女の付き合いとしても、ハロルドと王族としてもだ」


強い叔父の口調に、真理は思わず瞳を伏せた。

彼の言わんとしていることは分かってる。


「身分が違いすぎることは分かってる、それにハロルドとしての活動が厳しくなることだって分かってるつもり」


そう言うと、ロナルドは立ち上がって真理の隣に座って肩を抱き寄せた。

大事な姪を宥める時に、よくする行為だ。


「アメリア、俺が心配してるのは身分差じゃない。今時、平民と結婚する王族はたくさんいる。そうじゃない、良く考えてみろ。100歩譲ってあの王子が例え今、アメリアに本気だとしたら、君に対する危険度は恐ろしく上がる。

世界中にアメリアが王子の恋人として知れ渡ってみろ。もう戦地で報道カメラマンとしての活動はできない」


それでも良いのか、と冷静に言われて真理は首を横に強く振った。


もちろん、嫌だった。


ロナルドの言ってることは正論だ。


第二王子が軍人として戦地に出れば、脅迫、暗殺、爆撃予告など数知れない。

いつでも敵対する国は彼の命を狙うのだ。


理由はただ一つ。

宣伝になるからだ。王子の命を奪える強い国だと力を誇示できる。


そんな王子の恋人として自分が知られてしまえば、戦地はもちろん、あちこちで狙われるのは当たり前だ。


写真を撮るどころではない。


「分かってる、ロニー叔父様。私はどうなっても良い、でも・・・国に迷惑をかけたくない気持ちは変わらないわ・・」


それは、真理が報道カメラマンとして生きていく中での強い信念だ。


渡航が推奨されない警戒国や渡航禁止国に入って報道する人間には自己責任という言葉がつきまとう。


真理も戦地に入る時はいつでも自己責任、絶対に日本にもドルトンにも迷惑をかけない覚悟だ。


だからこそ、アレックスに深入りしてはいけない、最初から気持ちはいつでも揺れていた。


自分が王子の、ひいてはグレート・ドルトン王国の弱みになる————


その危険性は理解してるつもりだ。

自分が捕まって、取引材料にされるなんてまっぴらだ。


「なら、王子とはもう会うな。まだこの写真だけなら良いが、これからどうなるか分からん。今回はうちが抑えたからいいが、三流にスッパ抜かれたらたまらん」


真理の悲しそうな顔に、ロナルドは嘆息した。


可愛い姪は恐らくこの歳まで恋愛をしてこなかっただろう。なにしろ写真ばかりで、普通の女の子がしてきたことは皆無なのだ。


だからこそ真っ直ぐに純情に育ってしまっている。

そんな姪に、顔がよくて、洗練されて、桁違いに金持ちで、女に手練れた男が近寄れば、イチコロなのは当たり前だ。


しかも王子ときた。


非道な思惑と狡猾と汚さと奸計さと、そんなものがドロドロと渦巻いている世界は真理の居場所ではない。


傷つき穢され壊される・・・だから今のうちに離れた方が良いのだ。


「俺はアメリアに幸せな恋愛をしてほしい。ちゃんと君の価値観に見合う男だよ。無茶なジャーナリストは嫌だが、アメリアを幸せにしてくれる男はたくさんいる。頼むからあの遊び人の王子はやめてくれ」


叔父の必死の願いに真理は目を潤ませた。

心配かけてることは痛いほどわかってる。


真理の脳裏にアレックスの優しい笑顔が過った。


優しくて甘い瞳で見つめてくれて、大切に接してくれる。

彼と過ごす時間は、家族を亡くした真理にはとても穏やかで心地よさに溢れている。


もう少しだけ、彼が飽きるまで・・・そんな気持ちになっていた。


彼に遊ばれているのだとしても、今は少しでも一緒にいたい・・・。


「叔父様、心配かけてごめんなさい。でも・・・彼が飽きたというまでは側にいたいの。その間は撮りに行かないから」


真理の迷いのない答えに、ロナルドはさらに溜息を吐いた。


姪がこうと決めたら折れないことは分かっている。

亡き父親に似て芯が強い分、頑固だ。


未来が無いとわかって、それでもなお王子と恋愛を続けようとしている姪。


自分の大事な姪をそんな泥沼に引きずり込んだ第二王子にロナルドは殺意さえ覚えていた。


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