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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第1章 王子の探し人
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「叔父様!ロニー叔父様!!」


待ち合わせ場所に着くと、すでに約束人は到着していたらしく、ロナルドの姿を見つけるやいなや、賑やかな声を上げて、駆け寄ってきた。


胸の中に弾むような勢いで飛び込んできた可愛らしい姪を抱きとめると、ロナルドは頬を緩めてその艶やかな黒髪を撫でてやる。


「久しぶりだな、アメリア。元気そうで何よりだ」


それに、相変わらず綺麗だな、と褒めそやすとアメリアと呼ばれた女性はふふふっと大きな瞳を面白そうに輝かせながら微笑んだ。


アメリア・真理・ジョーンズはロナルドの姪だ。


ロナルドと10歳違いの年の離れた兄、ハロルド・ジョーンズと日本人女性との間に生まれた一人娘である。


息子しかいないロナルドにとっても、大切な一人娘といっても過言ではない。


「こちらにいらっしゃるなんて珍しいのね、連絡頂いてびっくりしたわ」


叔母さま達はお元気?と真理は嬉しさが止まらないといった風情で近況の質問をまくし立てる。


「ああ、みんな元気だし変わりはないよ。今日はちょっとした用事でね、こっちに来たんだ」


そうなのね、と真理はニコニコしなが叔父の胸から離れると隣に立ってロナルドと腕を組んだ。


叔父を見上げながら

「ランチをする時間はある?たくさんお話ししたいことがあるの」

期待に表情を輝かせる。


組んできた姪の腕を優しくさするように撫でるとロナルドも穏やかな笑みを見せながら、頷いた。


「ああ、君の話も聞きたいし、俺もアメリアに聞きたいことがある」


ロナルドはそう答えると「何を食べようか」と言って歩き出す。


極めてさりげなく姪を自分の身体の陰に隠すようにエスコートをすることを忘れない。


視界の端にちらりと見えた男から、姪を隠すようにしながら。


*****


「え?私が探されているの?軍に?」


真理はパスタを巻きつけたフォークの手を止めて叔父のロナルドをぽかんと見つめた。


「そうだ。2ヶ月前のヘルムナート高原の病院襲撃絡みだ」


聞かれたくない話しは真理の部屋でするのが一番安全だ。


ロナルドから込み入った話しがあると言われて、結局、叔父との楽しいランチはテイクアウトのペペロンチーノとバゲットにした。


叔父は真理が開けたビンテージの赤ワインを美味そうに口に含むと話を続けた。


ヘルムナート高原の名前が出て、真理はそれまでのニコニコした笑顔を消すと表情を引き締める。


ロナルドはワイングラスを置くと、彼も真顔になってズバリと尋ねた。


「行ったか?ヘルムナート高原に」


真理はいささかバツが悪そうな顔したが、正直に「行ったわ」と答えた。


「当初の予定では多国籍軍本部があるサンスクトまでの筈だったが」


ロナルドはまぁ予想していた答えだったので、穏やかな声音で問うた。

真理が予定を変えてしまうのは日常茶飯事だ。


真理は決まり悪い表情はそのままで言葉を継いだ。


「ごめんなさい」


いつも自分を守ってくれる叔父には隠し事はしない。

しかも自分がやったことが原因で、理由はわからないが叔父は巻き込まれ、軍に呼び出しされた。


「予定にはもちろん入ってなかったわ。今回は滞在期間が短かったし・・・サンスクト周辺だけのつもりだったの。でも・・・」


真理は、あの日の明け方に飛び込んできた一報に衝撃を受けた。


ーーーヘルムナート高原の夜戦病院が襲撃ーーー


グレート・ドルトン王国が管理してした夜戦病院。

兵士が入院しているという情報は周知のことだが、医療従事者達は民間人。


それをわかっていて病院を襲うガンバレン国の卑劣なやり方に、怒りのままヘルムナート高原に向かった。


どうしても攻撃を受けた病院の様子を撮りたかったのだ。


「1人で行ったんだよな、アメリアは」


ロナルドは困ったように額に手を当てながら聞いた。


彼にとってはいつでも、父親譲りの芯の強さ、勇気や正義感を持った、この姪が心配の種でもあった。


とにかく自立心が並大抵ではなく、度胸もある。ほとんどを1人でこなしてしまうのだ。


「もちろんよ、ひとりの方が身軽だし、この場合なら安全だわ」


過去にたくさんの危ない修羅場をほぼ単独でくぐり抜けているせいか真理は、群れを好まない。


「それで、兵士を見つけたのか」


真理は頷いた。


当然ながら軍と聞いた時に、あの兵士が原因だろうとは誰でも気づく。


「あの病院は裏手に広大な林が広がってるの。背の高い白樺に似た樹木が生い茂っていて、

しかも目眩しになるような2メートル以上もあるパンパスグラスが密集していて恐ろしく見通しの悪いところだった」


その後に入った続報でドルトン軍も医療従事者達も全員無事に逃げたと発表されてホッとすると同時に、どんな風に逃げたのか、交戦の痕跡をたどりながら撮影をしていると、何か呻き声が聞こえたような気がしたのだ。


「病院から南西500mもいかないあたり。

パンパスグラスが少しだけ傾いているところがあって・・・なんとなく呻き声が聞こえたような気がして

気になって周辺をぐるぐるしたら・・・」


「パンパスグラスの中をか・・・まったく無茶な」


愛らしい姪の頬にうっすらとある切り傷に苦笑する。

パンパスグラスはノコギリ状の葉が特徴で、葉で怪我をすることが多い。


「だから、あの兵士にはそれがラッキーだった。

敵兵も暗闇の中あのパンパスグラスの密集地の中に追っていけなかったんだと思うの。その兵士が逃げ道を辿られないようにしたのか、

、照明は意図的に壊されていたわ」


真理は言って自分もワインを一口含んだ。


「洞のような塹壕の小さな入り口が見つかって、そこに入って行ったら呻き声の主がいたわけ。

刺されて出血が酷くて・・・見つけた時は意識がなかったから」


「そうか、、、」


倒れている人間をこの姪に見捨てることはできないのはわかっている。


アメリアは申し訳なさそうに


「叔父様のコードを使ってごめんなさい。まさか、このご時世に軍が救助した人間を探すなんて思わなかったの」


確かにーーー

ロナルドはウィリアム卿を思い出していた。


負傷しているとはいえ、一兵士を救助した人間を司令長官自ら探すとは思えない。

救助時に、側にいれば褒章授与もするだろうが、匿名の奉仕は流すのが、今までの我が国のやり方だ。


「アメリア、、そこでなんかやばいもの見たとか、まずいネタ掴んだとかしてないか?」


大切な姪が何か厄介ごとに首を突っ込んでいるのではと心配になるが、真理は大きく被りを振った。


「今回は特に何もない、、、強いて言うなら叔父様のコードを勝手に使ったことと、

連絡した時に傍受が怖くて衛星をいくつか勝手にお借りしたことだけど、、、それ以外はなにも」


真理の話を聞いて、どうするかなとロナルドは考え込んだ。

この場合、アメリアを伴って軍に出頭するのが一番なのだろうがーーー


本当に褒章授与したいのか、ほかに目的があるのかは分からない。


それともあのささやかな秘密を知りたいのか・・・


軍が動いている以上、アメリアが特定されるのは時間の問題だろう。


ならばーーー


「軍は救助の礼に感謝の意を伝え褒章授与したいと言ってる。一緒に出頭するか?」


聡い真理も同じように軍の目的を考えていたのだろう。


真理は叔父の問いに一瞬息を呑み、そして口を真一文字に結ぶと、きっぱりと言い切った。


「絶対にいや」

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