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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第1章 王子の探し人
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ロナルド・ジョーンズは突然の呼び出しに恐れおののきながら、この場に参じた。


自分が何をやらかしたのかまったく身に覚えがない。


自分は確かに高級紙の編集長だが、別に最近は軍批判を繰り広げたりはしていないからだ。


案内されたのは静まり返ったミーティングルームのようにも見える部屋。


自分が入ってきた入り口とは別にドアがあり、別部屋があることを否応もなくロナルドに気づかせる。


誰かに監視されているのか、、、心当たりはないが、そう思わざるを得ない雰囲気が部屋には満ちていた。


目の前には我が国、グレート・ドルトン王国自慢の精鋭である陸軍 司令官ウィリアム卿とその側近たちがいる。


新聞記者を長年やってきたロナルドですら、ウィリアム卿と話をすることなんて夢にも思わない雲の上の御仁だ。


そこにいる一人一人に視線をやり、また目の前のウィリアム卿に目を戻すと、彼がやっと口を開いた。


「突然呼び出して申し訳なかった。

軍より今回の救助について、感謝申し上げるとともに、褒章授与の前に事実関係をいくつか確認させてもらいたくてね」


言われた言葉にロナルドは普通に驚いた。

目の前の厳しい軍人がバカなのかと不遜にも思う。


救助?

感謝??

褒章授与???


何言ってるんだ、こいつ?


という内心の声をかろうじて抑えると、ロナルドはこめかみを抑えながら訪ねた。


「閣下、大変申し訳ないが仰る意味が自分は理解できません」


その言葉に、その場にいた一同が、さらに恐ろしいほど静まり返る。

表情も変えず能面のような冷たい視線でロナルドを見るのだ。


「ほぉ、そうなのか。」

ウィリアム卿が瞳を眇めてそう言うと、言葉を継いだ。


「誤認があると良くないので君に来てもらったが、2ヶ月前、君はどこにいたかな」


「どこって、ドルトンの首都、ヘルストンにずっといますよ」


「なるほど、、、」


ロナルドはだんだんとイライラしてきた。

何をしたいのか全く理解できない。

とうとう焦れて、軍人相手に焦れるのも恐ろしいが、どんと机を叩くとキレ気味に尋ねた。


「閣下、申し訳ないが俺も新聞記者の端くれだ。回りくどいやり取りは大っ嫌いでね。

いったい何を知りたくて俺を呼び出したのか、きちんと説明してほしい」


ロナルドの勢いをふっと鼻で笑っていなすと、ウィリアム卿は悪いと言うように頬を緩めた。


「これは失礼した。もちろん君が2ヶ月前に国にいたことは調べ済みだし、先ほどの君の答えで、君が我々が探している人間ではないとわかったのだが、、、だが君も知る権利がある。

今から話すことは記事にはしないと約束してもらえるか」


「約束するも何も、しようとすれば俺は潰されるでしょうが」


ギラギラと強気の目つきで軍人を睨め付けるとロナルドは吠えた。


さすが国を代表する軍人ゆえか、ウィリアム卿はそんなロナルドの様子を面白そうに眺めながら口を開いた。


「2ヶ月前にヘルムナート高原の野戦病院がガンバレン国に襲撃されたのは覚えているか」


ぁ、と小さくロナルドは呻いた。眉間に皺がよる。

話しが戦争がらみであると悟ったからだ。


たちまち脳裏に2年前から起きている、極めてきな臭く残虐な話しが蘇った。


今、グレート・ドルトン王国と協定を結ぶ周辺諸国は一丸となって、ガンバレン国と戦っている。


もともと小さな国であったガンバレン国が、国防相と軍部のクーデターによって大統領と民主主義が倒れたのは一昨年のこと。


化学兵器を使い大統領の軍を制圧すると、軍部代表の国防相が国を掌握した。


それだけであれば自国内の紛争と世界も眺めていただろうが、狡猾なガンバレン国の国防相は希少な資源を狙って戦争を起こしたのだ。


隣国のウクィーナ共和国に侵攻し内政干渉、属国にすることを世界中に宣言した。


当然ながら先進国達はそれを許すわけもなく、多国籍軍を現地に派遣。

わが国の王国軍も属国解放のための戦線に出ているのだ。


2ヶ月前のヘルムナート高原の野戦病院銃撃事件は記憶に新しい。


それまでは民間施設は狙わずにいたガンバレン国が病院を、兵士が入院しているかもしれないという理由で襲撃し、何も関係のない民間人を巻き添えに殺そうとしたことで世界中から非難をされた。


「もちろん覚えてます。あれは襲撃されたが我が王国軍の抵抗のお陰で患者も医療従事者も職員も死傷者なしで、全員逃げることができたと発表されたが」


ロナルドの言葉にうむ、とウィリアム卿は小さく頷いた。


「確かにそうだ。ただ1つだけ発表をしなかったことがある。」


「なんですか?」


「病院の護衛にあたっていた兵士が1人だけ行方不明になったのだ。どうやら自分を囮にして敵兵の注意を自分に向けさせ、その間に全員を逃した」



「それはなんと無茶な!!軍人の教育を受けてるんですか?まともな兵士のやる事じゃない!!」


映画かドラマの見過ぎですよ、頭悪いんじゃないか、、、とあまりにも戦争に似つかわしくないやり口に軽くディスると、目の前の閣下は渋い顔をした。


「その兵士は当然ながら行方不明になり、我々ももはや死亡したのだろうと諦めかけていたところ、襲撃されてから16時間後に、負傷兵を発見したと軍司令部に連絡が来た」


そう言うと、ウィリアム卿はロナルドを真っ直ぐに見据えると言葉を継いだ。


「君からだ」


えぇっーーーーー!!というロナルドの驚愕の声が部屋中に響いた。

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