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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第2章 絡み合う時間
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「えっ?!じゃ、結局聞かなかったんすか?」


クロードは執務室で素っ頓狂な声を上げた。


アレックスは緩みそうな頬を叱咤しつつ、なるべく普通の表情を作ると「ああ」と書類にサインしながら、こともなげに答えた。


「どうしてっすか?あんなに聞くの楽しみにしてたじゃないっすか」


確かに、それはそうなんだが・・・。


アレックスはあの甘いひとときの時間を繰り返し思い出していた。


華奢な身体つきに、ネイビーのセットアップがよく似合っていた。


キーネックから覗く鎖骨のラインが魅惑的で。

耳を飾るシンプルな真珠のピアス・・・ピアスごと耳をしゃぶりたい衝動を抑えるのに必死で。


なによりも、艶やかな黒目に真剣な色を帯びさせながら、写真を語る表情が美しくて、彼女の顔から眼を離せなくなったいた。


握りしめた手も、邪な気持ちのまま手を添えた腰も細くて儚い気がして、なんども抱き寄せたい衝動に駆られた。


「彼女は俺を助けてくれた人で間違いないんだ」


「えっ?!確定っすか?!なんで??」


素っ頓狂な声で驚くクロードに「ああ」と頷くと、手元の書類に視線を戻す。


クロードに話す気はさらさらないが、彼女の手を繋いだまま歩いた時に、かすかに彼女の身体からオレンジの匂いが香った。


それは、あの塹壕で自分が感じた香りと同じで、その瞬間、推測が確信に変わったのだ。


「彼女は慎重だから、もう少し距離を詰めたい」


「はぁ・・・?」


ミス・ハロルドは仕事柄ゆえか、慎重で警戒心が強い、そして男に慣れてない。

迂闊なことも安易な扱いもできないと気付いていた。


あの時に自分がヘルムナート高原のことを言ってしまえば、彼女の心の扉は開かない気がしたのだ。


「まずは、俺に慣れてもらってからだな、信頼を得て、聞くのはそれからでも遅くない」


だから連絡用のスマートフォンも渡したし、とキッパリ言った第二王子を、変わった生き物でも見るような目つきでクロードは眺めると、ボソリと口の中で呟いた。


「完全に色ボケっすね・・・」


王子に慣れろなんて、貴族の令嬢でもない限り無理だろう。

さもなきゃ、自分大好きな女優やモデルくらいに違いない。


ミス・ハロルドは平民だ。

今の時代であっても、この国では平民と貴族の関係はなにかと注目されてしまう。


この王子の行動が、おそらく今後、嵐を巻き起こすだろうことを予想しながら、クロードはかの女性を少し気の毒に思い始めていた。


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