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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第2章 絡み合う時間
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どうしよう、どうしよう・・・


真理は手の中のものを戸惑いとともに見つめていた。

新たな問題に直面していたのだ。

しかもこればかりは叔父にも相談できない・・・誰にも話せないのだ。


夢のようなロイヤルファミリーとの勉強会から3日、真理はこの困りごとをどうしたら良いか分からずにいた。


あの日、第二王子は丁重に王宮の庭園で自分をもてなしてくれた。


第二王子が見目麗しい青年であることはもちろん真理も知っている。


王室の中でも珍しい赤髪と琥珀色の瞳を持つプリンス。

180センチを超える長身と、訓練を受けた人特有のしなやかで逞しい体躯を持つ美丈夫だ。


2番目らしい天真爛漫さと奔放さで育ち、王室一番のやんちゃ坊主と国民から愛されている。


王族としては規格外の軍人としての働きに、誰もが第二王子を「グレート・ドルトン王国の軍神」と尊敬の念を持って呼び、陽気で気さくな性格から、ドルトン内で王室の公務に出れば、皆一様に敬愛するやんちゃ王子として感激する人気者。



自分はそんな王子にもてなされ、あまつさえこんな恐れ多いものをお預かり?頂戴??してしまったのだ・・・。





感謝のお茶会もそろそろ終わりだろうと真理が時間を気にし始めた時だった。


クリスティアン殿下とのお茶会はとても心地よく楽しい時間であっという間だ。


彼は噂に違わず、気さくでフレンドリーだ。

そして聞き上手で話し上手。


2人きりのテーブルで緊張する自分に、ロイヤルファミリーのちょっとお茶目なエピソードをおもしろおかしく話してくれたり、勉強会では話しきれなかった報道カメラマンの活動について聞かれたりしたのだ。


どのような信念で被写体と向き合うのかや取材に行く場所はどのようにして決めるのかなどを聞かれて、いつしか真理は夢中で話してしまった。


それを王子は優しい瞳で自分を見つめながらうんうんと楽しそうに聞いてくれるのだ。


その時間が終わるのが惜しい気になってしまったのは仕方がないと思う。


なにしろ雲の上のお方で、それが極上の男性との楽しい時間なのだから舞い上がってしまうものだろう。


王室補佐官が庭園に入ってくるのが真理の視界に入ってきた時、第二王子がおもむろにジャケットのポケットからスマートフォンを取り出して真理の前に置いた。


え、と王子を見ると彼の真剣な瞳とぶつかって。


「ミス・ハロルド、これを持っててもらえないか」


「はっ??どういうことですか?」


言ってる意味が分からず、ポカンと聞き返すと

彼は苦笑して続けた。


「貴女と話しをもっとしたい。これで連絡するから」


言われたことばにクラクラしたのは当然の話で。


補佐官があと数メートルでこちらにやってくるというタイミングで、スマートフォンに手を出さない真理に焦れたのか、王子は真理の手を掴み掌にスマートフォンを握らせた。


そして————


「次に会う時は貴女の本当の名前を教えて欲しい」

そう告げると、スマートフォンを握らせた指先に口付けたのだった。





真理は自分の指を見た。

小さいけど、女性らしくないゴツゴツとして荒れた指先。

それなのにあの王子は御伽噺のように、優雅に自分の指先にキスをした。


あの時の王子の唇の熱を思い出して真理の胸がドキドキと高鳴る。


勉強会からずっとあの王子の自分を見る眼は、写真のファンを超えていたと思う。


自惚れでなければ、だ。


だが、グレート・ドルトンきっての妙齢の王子は噂話もゴシップも浮いた話しもそれこそ数多くあるのも事実。


世間のゴシップに疎い真理でさえ第二王子のいろいろな浮き名は、普通に耳にする。


だからこそ、勘違いはしたくない。



「私の名前なんて・・・」


真理は溜息を吐いた。


勉強会では国王陛下達はみなこちらが出した条件を守って真理の個人的なことは何も尋ねなかった。


デイリー・タイムズとして【ハロルド】の素性を公開しないことは、カメラマンの活動を妨げない、【ハロルド】の命を守るために必要なことだと、強く念押ししていたからだ。


だからあの場では自分は、戦場カメラマンのミス・ハロルドとして扱われた。


だが、自分の簡単なプロフィールは王室府に提出されている。


王室府のセキュリティを考えれば当然のことで、秘匿するとの約束だから、それは真理も了承してした。

カメラマンとしての略歴とグレート・ドルトン王国民であるI.D.番号は伝わっているはずなのだ。


だから、第二王子は自分の名前を知っているはず、それなのに・・・。


「次なんて・・・」


あるはずないって分かってる。

相手は王子だ。


それなのに、どうしてこんなことをするのか、

からかわれているんじゃないか、そう何度も葛藤してしまうのに、どこか期待をしてしまう自分がいた。


母が亡くなってからは、日本を離れ、父と2人で世界中の戦地を巡ってきた。


だから、兵士や場末のおじさんとかとは馴れ合って話ができても、同じ年頃の異性とはほとんど関わりがない生活だったから、こんな風に男性に、しかも世界中から注目を浴びる王子様になんだか映画のように接せられると、どうしたら良いのかわからなくなってしまう。


真理は重苦しいため息を吐いて、テーブルに置いた真新しいスマートフォンを見つめていた。


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