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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第2章 絡み合う時間
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「まぁ!素敵!!」


真理は綺麗に手入れされた広大な庭園に感嘆の声をあげた。


新緑の色が鮮やかな芝生にモダンな石造りの噴水、その周りにはバラをはじめとしたさまざまな花が咲き乱れている。


王宮のやや裏手にあるこの庭園は一般には非公開だ。

王族の居住区に近いことから、プライベートな場として機能している。


「俺はこの庭園が一番好きなんだ。今の季節は特に美しい」


「ええ、本当に素晴らしいです」

真理はうっとりしながら答える。


真理はアレックスが一人称を俺と変えたことに気づいていない。


「おいで、あそこの四阿にお茶を用意してるから」


しかも話し方も、なんだか砕けすぎて馴れ馴れしい。


王子がさりげなく片手を腰に回してエスコートする。

手は相変わらず離してもらえない。


そんな状況に真理は頬を赤らめた。

距離が近い、とにかく色々近すぎるのだ。


真理は男性と親密になることに疎い。

この距離感をどうやり過ごしたら良いのかわからないのだ。

ましてや相手は「やんごとなきお方」だ。


傍らの男の顔を見上げれば、輝くような笑顔を振りまき、自分を見下ろす。


眩しい笑顔に倒れてしまわない自分を真理は褒めた。


四阿のテーブルに案内されて、ちょっと王子が惜しそうな顔をしながらやっと諸々の場所から手を離す。


椅子を引かれて腰を下ろすよう勧められて、真理はホッと安堵して椅子に座った。


第二王子も真理の斜め向かいに座ると、程なくどこから出てきたのか、恐ろしく礼儀正しいいつの時代の人間かと思うような執事とメイドがワゴンを押してやってきた。


目の前に次々にティーセットやスイーツが運ばれてくる。


王室の伝統に則った本格的なアフターヌーンティーだ。

その上品な豪華さに真理は眼をみはった。


「素晴らしいですね」


その言葉にクスっと第二王子は笑う。


「あなたはさっきから素晴らしいか素敵しか言わないね」


「あ・・・申し訳ございません・・・仕事柄、世間にうとくて・・・」


あんに庶民と言われているような気がして、真理は頬を赤らめると謝った。


その答えに王子の瞳が見開き、困ったような顔で言葉を継いだ。


「俺こそ失礼した。そんなつもりで言ったんじゃなくて・・・」


そこまで言って、また困ったような顔で言い淀む。

真理は何を言われるのかと彼の言葉を待った。


「とても素直な反応で愛らしいと思って」


「そんな・・・」


言われつけない言葉に真理はまた頬を赤く染める。


王子様ってみんなこんな歯の浮くようなことを言うのかしら???と不敬なことをついつい思ってしまう。


執事が目の前にロイヤルミルクティのカップを置いてくれたおかげか、第二王子は真理に紅茶を勧めると、自分もカップに口をつけながら、真面目な顔で話しはじめた。


「ミス・ハロルド、今日は本当に感謝してる。

国王陛下も王太子殿下も大変感銘を受けていた」


真理はコクリとロイヤルミルクティを飲む。

上質なアッサムにコクのあるミルクで淹れられたそれは、とても美味しい。


茶葉の優しい香りに張り詰めていたものが和らいだような気がして、真理は「そんな、恐れ多い」と被りを振った。


「私こそ身に余るお言葉を頂戴して感激しました。一介の報道カメラマンにもったいないくらいの機会をいただけて、感謝申し上げます」


本当に・・・身バレが怖くてあんなに渋っていたが、お会いしてみれば、自分にとってはとても光栄な機会だった。


戦地で懸命に生きる人の命の重みが伝わって欲しい、その一心で参じた勉強会だったが、確かにその思いは伝わったと思う。


「俺は軍人で戦地にも行くけど、自分がいくら戦地のことを話しても陛下たちは多分ピンときてなかったと思う」


「まぁ、そんなこと」

言いかけた真理に王子は苦笑すると


「そうなんだよ、どんなに聞いても経験しないとあの過酷さを真に理解することはできない。

俺ですら、あなたの写真を観るまでは、軍人のことは理解していても、その地に生きる人のことを考えていなかったことに気づいた」


「クリスティアン殿下・・・」


第二王子が大学卒業後、士官学校に進んだ時、メデイアが大騒ぎしたのを思い出した。

口さがない三流紙は「軍は王子のおもちゃ、戦争は娯楽」と書かれていた。


そんなゴシップをものともせず、王子でありながら前線に出て、他の兵士たちとともに在ろうとする姿は、いつしか国民から尊敬を集めるものとなったが、きっとこのやんごとないお方も傷つくこともあったのだろうと思う。


彼は息を軽く吸うと、テーブルで手を組んで真っ直ぐに真理を見つめると続けた。


「貴女の写真は、軍人である自分に命の重さを改めて気づかせてくれた。ありがとう」


真摯な言葉に真理は目頭が熱く、瞳が潤むのを感じた。

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