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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第12章 育った妄執と覚悟
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ノックの音が響いて、テッドがドアを開けるとティナが入ってくる。


「クリスティアン殿下、おはようございます。・・・ミリー、おはよう」


アレックスは挨拶を返すとニヤッとした。

ティナが自分の前で、真理をどう呼ぼうか躊躇したのが分かったからだ。


真理はティナに自分と話すときは今まで通り、と譲らなかった。


ティナの性格から言って、兄のテッドはアメリア様呼びなのに、自分が愛称呼びで良いのかは、かなり葛藤していたと、テッドからは聞いている。


アレックスからは、真理の望むように振る舞え、と命じてあった。ティナの様子に良い傾向だとほくそ笑む。

こちら側に真理が信頼できる人間が、増えれば増えるほど良い。


真理はにこやかに挨拶を返すと、二人にも座るように椅子を勧めた。

兄妹はチラリと自分を見たので、頷いて座ることを許可すると、やっと安心したように腰かけた。


内心、アレックスはニヤニヤする。

彼女は誰に対しても平等だ。だから相手に遠慮しないし遠慮させない。

自分の立場が上なのか下なのかや身分の差を考えたりしない・・・興味がないのだ。

アレックスには、そう言う真理の気質がなによりも愛おしい。


ティナは他の護衛たちと話してから、この部屋に来たようだが「少し困ったことになってます」と切り出した。


「何があった?」


アレックスが促すと、ティナは真理の顔を心配そうに見てから、アレックスに視線を戻した。


「クリスティアン殿下とミリーがこのホテルに滞在してることが漏れたようで、パパラッチ達が周辺を張ってます」


「へぇ、そうか」


ありがちなことだが、真理と一緒の時は細心の注意を払ってきたが、なかなかそうならなくなってきていることに、憮然とする。


「恐らく、レストランからこちらへ移動する際に、一般人に見られて、パパラッチにネタ提供されたのかと思われます」


ティナは淡々と報告するが、その様子はさすが兄妹、テッドによく似てる。


真理もそう思ったのか、冷静な側近達を見ながら、口元を綻ばせている。


「今、ホテルの裏口と地下駐車場、業者用の車寄せを確認してます。一番、パパラッチの少ない所から出られるよう準備致します」


そうだな、と答えて真理をチラリと見る。彼女は落ち着いた表情で話しを聞いていた。


ただでさえ、今の彼女は注目の的だ。

なるべく撮られないようにしてやりたい。


開放時のキスの映像は文字通り、世界中に中継され、その後恐ろしいほどの数で再生されたが、それほどアップされたものではなかった。

アレックスの身体の影になって、真理の顔が鮮明に撮りきれなかったのが、ラッキーだった。


だから彼女の姿はまだはっきりとは明らかになっていない。

アレックスとしては、過去のお相手達は隠してないから、それこそ出まくりで、何を書かれても気にしなかったが、真理に対してはそんなことしたくないのだ。


今や、パパラッチ達は真理の事を撮りたくてヒートアップしているが、撮られるのを嫌う彼女の気持ちを思うと、なるべく牽制したい。


テッドは思案するような顔をしていたが、おもむろに口を開いた。


「車を2台にして、殿下とアメリア様は別れて乗りますか?」


「えっ!?」


真理とここで別れるなんて嫌だと、テッドを睨めば、彼は涼しい顔で続けた。


「どうせ後をつけられますし、この数を巻くのは無理ですから。殿下はいつも通り正面から出て頂き、パパラッチを引き寄せて、王宮に戻る。アメリア様はパパラッチの数が減ったところで、少ない出口から出て、パパラッチを巻きながらご自宅に戻るのが、安全かと思います」


アレックスは眉間に皺を寄せる。


いつも通り、と嫌味をチクリと混ぜて言いやがって、とムカつくがテッドの言ってることは、確かに正しい。

今までも、うんざりするほどやってきた方法だ。最も過去の遊び相手は、ホテルに残して自分が先に出るだけで、相手がその後どうしてたかなんて、気にしていなかったが。


「そうだな・・・でも・・・」


アレックスは言い淀む。自分の感情が先立ってしまうのを止められない。


嫌だ、せっかく久し振りに肌を合わせ、今その余韻に浸ってるのに。今日、一日公務はないから、真理の部屋に一緒に戻る予定だった・・・でも、真理の自宅までパパラッチに追われるのは絶対にダメだ・・・。


アレックスの判断待ちとなって、室内が不自然に静まり返る。


「あの・・・」


真理が声を掛けて、アレックスは彼女を見た。

テッドもティナももちろん真理を見たが、自分に視線が集まったことで、彼女が頬を赤く染める。


そんな顔も彼女は可愛い・・・と恋愛脳で思ったところで、恋人はアレックスが思いも寄らぬことを言った。


「ご迷惑でなければ、私も一緒に殿下と出るわ・・・正面口から」


「真理、何言って・・・」


驚いて彼女を見れば、テッドも同じことを思ったのだろう、口を挟んだ。


「それでは、アメリア様は撮られますよ」


諭すような冷静なテッドの言葉に、真理は落ち着いた面持ちでうっすらと微笑むと、そうですね、と言ってから続ける。


「でも、もう隠していただかなくても良いかなって思って。殿下もみなさんも、十分すぎるほど私の気持ちを守ってくださった」


アレックスの顔を首を少し傾げながら見つめて言う。


「だから、私は撮られていい。貴方といたいから・・・私邸に一緒に戻るのはダメ?」


アレックスは我慢できずに立ち上がると、座っている彼女を抱きしめる。心も抱きしめる腕も震えていた。


想いが、真理への気持ちが溢れて止まらない。

どうして、彼女はいつも自分の欲しい言葉をくれるのだろう。


「ああ、真理・・・君は・・・」


言葉が続けられない、何度も嬉しさと喜びで彼女の頭にキスをする。


ありがとう、ありがとうと言い続けて、耳朶に頬に口付ければ、彼女は擽ったいと可憐に笑い、アレックスの顔を押し留めた。


キスを止めて自分を見上げる彼女の瞳を見つめると、真理はちょっと悪い顔をしながら続けた。


「それに、いまさらでしょ。世界中に生中継されたんだから」


お互いに見つめあって、クスクス笑う。

アレックスは真理を抱きしめたまま、側近を見た。


「テッド」


優秀な側近は恭しく頭を下げると、何も言わずとも心得たように言った。


「殿下、かしこまりました。このホテルのサロンを予約します。ザ・グレースも支店が入ってますのでお召し物はそこで用意します。アメリア様はご準備を」


また、新しい洋服に髪の毛の手入れかと、真理が慌てるとアレックスは頬にまた唇を寄せて押し留めた。


「俺に君を・・・恋人を見せびらかせてくれ。・・・ありがとう、真理」


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