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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第12章 育った妄執と覚悟
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なんとなく気恥ずかしい気持ちで、テーブルに着席する。


予めクロードが手配していてくれたモーニングがリビングルームに準備されていた。


目の前の王子はと言えば、昨夜のケダモノっぷりが嘘のように、離宮で暮らしてた時以上に甘くて甲斐甲斐しい。


真理は怠い腰を摩りつつ、彼に差し出された搾りたてのオレンジジュースを口に含んだ。

スッキリした甘さと酸味にホッと息をする。


アレックスは隣に腰を下ろすと、そっと真理の頬に手を触れた。


「身体が辛いなら、ソファーにするか?」


ピクンと背筋を震わせると、もう・・・と、真理は少し怒った顔を見せて、大丈夫だから、と答えた。

一晩中愛された身体は僅かな刺激も、快感として拾ってしまう。真理としては、それがいたたまれない。


この2ヶ月、彼が自分のために、かなり努力して我慢していてくれたから、真理にも否は無いのだが、とはいえ、起きるまでアレックスは真理の中から頑として出て行かず、繋がったままだったのだから、彼女の今の敏感さも理解して欲しい・・・。


今だって、身体の奥は彼に突かれているような痺れが残っている。


「お願いだから、あまり今は触れないで」


そう言うと、アレックスは瞠目して、すぐにニヤリとした。


昨夜は自分だって我慢の限界だったから、激しく求め合ってしまったのは、別に良い。


だが、真理は若干、自分が破廉恥過ぎないかと心配になる。


ランディや他のジャーナリスト仲間からセクハラめいた言動や卑猥な揶揄い、猥談まで幼い頃から耳にしていたから、性についてはかなり耳年増な自覚はある。


だが、彼に出会うまで処女だったのに・・・どうしてこうも奔放に彼を求めてしまうのか・・・好きと言う気持ちを差し引いても、はしたな過ぎやしないか・・・。


「つれないな。バスルームでまでしたこと怒ってるのか?」


ニヤニヤしながら問われて、つっと曲げた人差し指の節で首筋を撫でられて、甘い快感が背筋を走り抜けたから、真理は顔を真っ赤にした。


「俺はいつだって君に触れていたい、昨夜の君もそうだったろ」


それまでのニヤけた表情から一転、真摯な顔で見つめられて、堪らずふいっと真理は視線を逸らした。


「そう・・・だけど、恥ずかしい」


そう言ってから、真理はその言い方は正直じゃない、と反省する。彼はいつだって自分に真っ直ぐな愛情を向けてくれている。


真理は顔をさらに赤らめながら、自分を甘やかに見つめる琥珀色の瞳を見返した、


「昨夜は・・・久しぶりだったせいか・・・とても感じ過ぎて・・・アレクにはしたない、とかふしだら,とかって思われたら嫌だと思って・・・」


その言葉にアレックスは嬉しそうに笑って、立ち上がると、真理を抱き上げた。

そのまま、ソファーに連れて行かれ、彼の膝の上で抱きしめられる。


「君は可愛い過ぎ。俺ははしたない君もふしだらな君も大好きだ。本音はもっと俺に乱れて溺れて欲しい」


そうして、また首筋を吸われてしまう。

昨夜の劣情の名残りの上に、さらに付けた跡を満足そうに指で撫でながら、王子が耳元で囁いた。


「肋骨が大丈夫なことも納得したし・・・我慢はしない。だから、真理ももっと昨夜みたいに俺を欲しがって」


ちゅちゅっと耳朶をしゃぶられて身体を震わせると、さらに色気たっぷりに甘い声が吹き込まれる。


「真理が俺で感じてくれるのが幸せだ。・・・耳年増な君も奔放な君も淫らな君も、全て愛してる」


真理は観念してアレックスの胸元に顔を埋めると「ありがとう」と答える。

ここで、この雰囲気に流されて自分も愛してる、と言ってしまおうか、いやいや今だと身体だけと思われたらどうしようと葛藤していると、部屋にノックの音が響いた。


第三者の来訪に真理はパッとアレックスの膝から飛び降り、王子はチッと行儀悪く舌を鳴らした。


立ち上がり、逃げた真理の腰を抱き寄せながら、王子は「入れ」と告げた。


「クリスティアン殿下、アメリア様、おはようございます」


テッドが普段と変わらない表情で入ってくる。

手付かずの朝食のテーブルをチラッと見て、僅かに眉をしかめると王子を見た。


「朝食はこれからでしたか?召し上がれそうですか?」


アレックスは涼しい顔で、ああと答えるが真理は、ほんのり頬を赤らめた。

なんとなく、テッドに朝食そっちのけで、イチャついていた、とバレてそうな気がしたからだ。


王子に促されて、改めて朝食のテーブルに着く。食べ始めると、テッドが昨日のエステルの話を受けての、現在までの状況を報告しはじめた。


マダム・ウエストはソーンディック侯爵家を出てから行方が分からない。

実家にも戻っていず、何人かいる知人達も分からない、連絡も来ていないとのことだった。


アレックスは顔を顰めると、街頭の防犯カメラは?と尋ねた。


「はい、ヘルストン警視庁にて、既に解析を始めています。侯爵家を出たところをもう抑えてますので、そこからの足取りを追っています。今日中にはだいたいの居場所をつきとめる予定です」


テッドは手元のタブレットを見て、続ける。


「昨日、エステル嬢から預かったメールのやり取りもすべてサーバーから抑えてます。傷害で収監されてるダスティン・ライアーには、先程からヘルストン警視庁での取り調べが始まってます。メールがありますので、言い逃れはできないでしょう。こちらも自供次第、報告致します」


アレックスは料理を平らげると、鷹揚に頷きながら「アイツはどうした?」と尋ねた。


真理は「アイツ」が誰か一瞬、思い浮かばなかったが、さすがテッドはすぐに分かったのか、視線をアレックスに戻して言った。


「フリーライターのアラン・ベイカーは昨夜のうちに登城するよう要請しまして、現在クロードが話しを聞いてる最中です」


概ねアレックスの期待通りだったのか、王子は真理をチラリと見ると、分かったと言った。


食事を終えて、紅茶を飲んでる真理に、王子はにっこり笑って、心配するな、とまた言ってくれる。


その気持ちが嬉しく、そして誰もが自分のために動いてくれていることに、真理は感謝した。


王子に向かって笑いかけ、ありがとうと言うと、アレックスは途端に嬉しそうな顔になる。


テッドにも「カーティス様、ありがとうございます」と微笑みながら言うと、いきなりアレックスがグイッと真理の顎を掴んで、自分の方へ向けさせた。


なにごとかと目を白黒させると、今度は不機嫌な王子がいて・・・。


「そういう顔は他の男にはするな」


拗ねた口調で言われて、自分がどんな顔をしたのかと驚いてテッドを見ると、それまで表情の変わらなかった主席秘書官は苦笑いを浮かべていた。

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