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恋人は戦場の聖母 〜王子の全力溺愛物語〜  作者: 嘉多山 瑞菜
第1章 王子の探し人
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デイリー・タイムズのミーティングルームは重苦しい雰囲気に包まれていた。


もはや、どうしてこんなことになったのか誰にもわからない。


社長のダーツ・フォードが今まで繰り返して言い続けてきたことを、もう一度、目の前の2人に伝えた。


「やんごとなきお方の強い要望だ」


編集長のロナルドは疲れたように眉間を揉み込みながら、こちらも辛抱強く返した。


「ハロルドの素性は非公開、表には出さないという約束です」


言っても無駄だ、とはわかってはいるが特例を作りたくないのが本音だ。


社長と編集長の殺伐としたやりとりに、編集委員のソフィア・ヒューストンが仲裁に入るような穏やかな声音で口を挟んだ。


「社長と一緒になんども事情は説明したわ。でも、王室府は秘匿は守るの一点張りで」


ソフィアの言葉に勢いを得たようにダーツ・フォードもさらに畳み掛ける。


「ハロルドの【慟哭シリーズ】に深い感銘を受けたとのことで、どうしても撮影した者に会って話しを聞きたいと、断っても断っても言って来られる」


「ありがたいお話ですが、、、」


ロナルドは迷っていた。先日の軍部からの呼び出しもあり、姪が何かおかしなことに巻き込まれているのは確実だと思わざるを得ない。


今度は王室のロイヤルファミリーが【ハロルド】の写真に感動し撮影したカメラマンにぜひ色々な話を聞きたいと要求してきたのだ。


グレート・ドルトンの王室は国民に非常にフレンドリーだ。


興味が湧くと、各界からさまざまな人物を城に招き、公式、非公式問わず接見するのはロナルドも理解している。


過去に著名人を招いた接見をなんども取材したことがある。


賞を取ったことも、写真集も出したこともない、一報道カメラマンにしてみれば、非常に名誉ある招待であることは間違いない。


しかし、、、

ロナルドは愛らしい、でも亡くなった父親に似て頑固で自立心旺盛な姪の姿を脳裏に浮かべた。


彼女は【ハロルド】が自分であると身バレするのを非常に嫌っている。


それは戦地で少しでも安全であるための処世術でもあるが、注目を集めることが苦手な性格も影響している。


だが、、、それも限界が近いことも気がついていた。


この一年、【ハロルド】の写真はとても注目されていて評判が高い。


【ハロルド】の写真をサイトに公開すると、ものの数分でPVは1億を超える。

この国だけでなく世界中の報道写真に興味ある人間が観ているのだ。


そして、その後に必ずと言っていいほど「ハロルド 正体」「ハロルド 誰」といった検索項目がトップに上がってくる。


いつまで正体が隠せるのか、なかなか難しくなってきていると感じてきてはいた。


変なゴシップ紙にすっぱ抜かれる位なら王室府を味方にしておいた方が姪の安全は少しは担保されるかもしれない。


いつなんどき敵やテロリストに誘拐されて交渉材料になるかもしれないからだ。


しかも姪はこっそり行ったヘルムナート高原で負傷兵を助けるという、崇高だが本人的にはややこしいことをして軍からも目をつけられている。


ならば、、、、、。

ロナルドの気持ちは決まった。


はぁーーーと大きくため息をついて、自分のことをハラハラしながら見つめている社長に答えた。


「わかりました、本人に承知させます。その代わり、非公式、秘匿は必ず守るよう伝えてください、でないと現地での活動に支障が出ますから」


やっとミーティングルームにホッとしたような空気が漂った。


ソフィア・ヒューストンはニッコリと笑った。


「もちろんよ、ハロルドは報道の宝よ。絶対に守らないといけない存在だわ。

それにやんごとなきお方は秘密は得意でしょ」


ちょっと毒吐き気味の不敬な言葉に男たちはやっとハハッと苦笑した。

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