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虫嫌いの異世界永住計画  作者: 佐久間
8/15

こんな生活を送っています

「はわっ!?」


慌てて身体を跳ね起こす。

辺りを伺うと壁の穴から日光が漏れているのが見える。


「あー…また寝落ちしてた。今、何時くらいだろう。」


少しぼやっとした意識を引き摺りながら布団から抜け出し、天井からぶら下げる布を潜り、窓まで向かう。木でできた窓を押すと錆びた音を立てながら蝶番が回り、目映い日差しが一気に部屋に入ってくる。


「眩し……んと、だいたい……10時くらい?じゃあ、6時間くらい寝たかな?たぶんだけど。はぁ~、本当に時計ないの不便すぎでしょ。」


日の高さを確認して、おおよその時間を把握する。

真上より少し傾いた位置にいる大陽がサンサンと輝いている。快晴だ。


「う~ん、日時計とか作れればいいんだけど?作り方なんか知らないしなぁ。」


この世界には細かな時間という概念がないらしい。お母さんやお父さんに「今、何時?」と聞いてもいまひとつ通じなかった時は焦った。


聞いた感じだと、どうも朝昼晩くらいの区切りしかなくて日が昇って明るくなった。沈んで暗くなった。という雰囲気で行動しているらしい。なんとルーズな。


「それとも私が時間に縛られた生活に馴染み過ぎたせいなのかな?」


そう思うと少しだけ悲しくなってきた。

意味もなく時計を見てしまうのは癖に入るのかな?幼稚園から時間を守りましょうと育てられる日本人の性なのかもしれない。


ひとまずはこの窓が南向きなのがせめてもの救いだった。きちんとした方角は分からないからだいたいだけどね。


勝手に窓の正面に太陽が来たら12時。そういうことにした。社会人の時は一度くらい時計のない生活をしてみたいと思ったこともあったが、経験してみると逆に時間が気になって仕方がない……やっぱり悲しい。


「よいしょっと。」


窓枠から離れ、部屋を見渡す。

この世界に来て7日目。つまり、1週間が経過した。

もちろん時計がない場所にカレンダーがあるわけもなく、日数は覚えておくしかない。太陽が今日で7回沈むことになる。これもいずれは数えるのも止めることになりそうだ。3日間くらいは壁に正の字を書いてたんだけどね。めんどくさくなっちゃった。。絶対そのうち覚えておくことを忘れる自信もあるよ。


記念日とかどうしてるんだろう?


そういえば時間も含めてだけど、1週間もあれば自分の置かれた環境なんかも分かってきた。ちょっとお時間を頂きましてご紹介~♪


まず、(エリア)は4人家族の末娘だ。

お父さんであるカガイとお母さんであるエルース、姉のカイファという家族構成だ。


お父さんのカガイはこの下民街から上民街という地区に入るために設置してある門で門番をしている。上民街に入るには何かと規則が多いらしくて、それを確認するのに毎日大変だとぼやいている。日が昇ると出勤し、暗くなると帰ってくる。お疲れ様です。


お母さんのエルースは基本的に家にいるのだが、時たま出掛けて行く。理由は主に食材や生活必需品の買い出し、井戸端会議なんかに行っているようだ。更に時々だが街の酒場で接客なんかもしているらしい。カガイさんともそこで出会ったらしいよ。フー。


カイファは面倒見がいい溌剌とした性格の2歳上の姉だ。

その元気さを活かして、街の近くにあるらしい森に出ては食べられる物なんかを採取して家計に貢献しているようだ。

無邪気な彼女は私がエリア本人じゃないと察しているせいか何となく関係がぎこちない両親との生活の中で心の癒しだ。ありがとう!


そして、私はといえば家から出ずに布団で寝ている。以上!

……カイファの元気さが羨ましい。私ってば今のところただの穀潰し。あ、また悲しくなってきた。


でも私だって何もしてない訳じゃないよ?少なくとも私がエリアちゃんの身体に入ってからは少しはマシになったんだよ?これでもね。


布団で寝ているとは言ったけど、1日中ずっと寝ている必要はなくなったし、家の中なら歩き回ることができる。ちなみに外は"まだ早い"と家族に止められている。


体調だって良くなったんだからそんな監禁みたいなことしなくてもいいと思うんだけど……心配してくれてるのかな?


ともあれ、郷に入れば郷に従えともいうし言うことを聞いている次第であります。


だけど、部屋の中を移動するなとは言われていないので"症状"が出るまで動きまくっております。


というわけで、今日も日課をこなします。


陽光のおかげで明るくなった6畳の部屋の床を目を皿のようにして睨みながらゆっくりと周る。


何をしてるかって?


もちろん虫がいないかを調べているのです。初日のように突然虫が現れてびっくりしては心臓がもたないでしょ?ただでさえ病弱な身体なんだし。


「よし、異常なし」


入念に調べたところでようやく一安心だ。

私が来てから数日はムカデを始めとした小さな虫がわんさか出た部屋も、その度に叫ぶ私を見かねたカガイ害虫駆除隊長様か頑張ってくれたおかげで目に見える範囲にはいなくなった。


物陰に潜んでいる可能性はあるから油断はできないけど…考えるとゾッとしてきた。よそう。


あ、そういえばこの天井からぶら下がる布。

これもカガイ隊長が吊るしてくれたんだ。何かといえば日本の夏の風物詩。『蚊帳』です。


蚊のための帳とは言うけど、蚊に限らず虫を物理的に近づけないこの安心感といったら……素晴らしい!おかげで夜もぐっすり。


「こんなもんどうするんだ?」と言いつつも、天井から布をぶら下げてくれる優しいお父さんがいる家庭は良かったら使ってみてはいかがでしょう? 


もちろん在り合わせの布をこの大きさまで縫い合わせてくれたお母さんのエルースさんにも感謝を捧げたい。風通しの良い薄い布じゃないからちょっと暑いのは欠点だけど利点に比べたら小さい問題だよ。


私は最初、この身体の持ち主だったエリアちゃんのフリをしてこの世界で生きていこうと考えていた。だが、やはり、そこは両親。きっかけは分からないがその日のうちにエリアこが私だとばれてしまった。


そんな得体の知れない存在をどうするのかと恐々としたが、どうも警察やら病院には連れていかれない所を見ると、どうこうするつもりはないらしい。


ありがたいことだ。


まだ随所随所でぎこちないことはあるけど、エリアとして接しようとしてくれてるのをひしひしと感じる。この歳(5歳)になって始めて親の有り難さを実感するとは。


本当にありがたい


「そのうちお返しもしなくちゃね。そのうちね。」


とりあえず、部屋の中に虫がいないことを確認したら次はこれだ。


「ていっ!」


掛け声に乗せて壁を叩くと『ぴちゃ』と水滴が落ちるような音が鳴る。そのままどんどんぴちゃぴちゃしていく。


これが何かといえば、カガイ父さんが買ってきてくれる『虫除けの草』を布にくるんで丸めただけの代物で『虫除けスタンプ』と呼んでいる。布の結び目を握って壁に…こうっ!すると『ぴちゃっ』と小さな音がして、布をどかすと壁には緑色の跡が残るという具合だ。


ね?スタンプみたいでしょ?


『ぴちゃ』『ぴちゃ』『ぴちゃ』と手の届く範囲の可能な限りこのスタンプを押し付けていく。これを毎日やっているので、虫除けの草の汁で壁がかなり変色してきているけど気にしてはダメだ。


「よし…はぁ、いい香り。」


スタンプ作業が終わると部屋には爽やかな香りが充満する。

その正体はもちろん虫除けの草の香りなんだけど具体的にいうとミントの香りだ。


この世界で虫除けの草と呼ばれている草は香りも形も正にミントそのものだった。ミントといえば虫除け作用のあるハーブとして定番だ。だから何らかの効果があるはずだし、今のところ虫が寄ってくる気配もない。最高だね。


「手がぐしょぐしょになっちゃうのはイマイチだけど。」


スタンプ唯一の欠点をあげるとしたら、恐ろしく手が汚れることだ。それはもう緑色の汁で手が酷いことになる。別に不愉快な汚れではないんだけど気にならないわけもない。


そこで登場するのが、これ。石鹸だ。

部屋に置いてある水桶の中でこの石鹸を手でくにくにやると汚れが落ちていく。


「うぅ~…ミントの香り分まだマシだけとやっぱり臭い」


ただこの石鹸にも欠点がある。

それはこの生臭さと洗浄力の低さだ。


その理由は原料のせいで、なんとこの石鹸ってば豚肉の油で出来ているのだ。料理で出た豚の廃油に灰液を混ぜながら捏ねていくと良く知っている石鹸に比べると遥かに柔らかく、泡立たなくて、臭い石鹸が完成する。


『完璧な石鹸』を知っている私からするとこの動物性石鹸は石鹸を名乗るのも烏滸がましいと思うんだけど、背に腹を変えられないのも事実なので仕方なくこいつで我慢している。


前に植物油を使ったらって言ったんだけど、「勿体ないでしょ?」の一言で一蹴された。どうやら植物油は動物油に比べると貴重らしい。自分等で使う分にはこれで十分とこの臭い石鹸をくれただけありがたいけど、ぶつぶつ。


本当は髪とか身体も洗いたいんだけど、さすがにこの石鹸では質も量も足りないので水洗いで我慢している。それでも水が勿体ないと言われたりと散々だ。この世界の人達の衛生管理どうなってんのさ?


「まぁ、トイレがあれじゃあ衛生もなにもないか~」


 カチャ


自室を出て、家族が集まるリビング的なスペースに出る。

ここには大きな机が1つと家族用に4つの椅子が並べられている。

後は日用品がしまってある棚とか木箱とか。


そして、その部屋には私が出てきた扉とは別に2つの扉がある。

1つは私以外の家族が寝る部屋。ちなみに更に奥は倉庫になっている。


そして、もう1つの扉は……


 コツコツ


「あ……来た」


渇いたノックの音が扉の向こう側から鳴った。

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