ハイスペック聖剣 後編 (売れない理由)
聖剣サマの言い分は聞いた。
聞いたうえで俺の返答は決まっている。
「ダメだ。説明文に変更はない」
「なんで!? 俺の美しさ・強さ・能力の何の不満があるんだよ!?」
「強いて言えば、全部かな」
「!?」
今日はもうあまり客も来ないし、じっくり教えてやるか。
俺は椅子を持ち出し腰かけて、長期戦の構えをとる。
それを見てこの聖剣サマも俺と向かい合い、話し合いの態勢をとった。
と言っても剣なので、さっきみたいにぴょんぴょん跳ねず真っ直ぐ立って俺を見てるだけなのだが。
「まず先言った、お前の美しさ・強さ・能力は俺も素晴らしいと思ってる。お前の挙げた3点の内、1つでもあれば優秀な剣と言えるだろう」
「うん、自分もいい剣に仕上げてもらったと思ってるよ」
「しかし、しかしだ。この3つの要素が全て揃ってしまうと問題が生まれるんだ。」
「なるほど、・・・・・・で、その問題とは?」
「それはな、いい品過ぎて裏があると思われるんだ!」
美しい装飾に輝く刀身。
抜群の切れ味。
そして、所有者にもたらす能力向上の質。
どれか1つでも名剣と呼ばれる代物になるだろう。
それが3つ揃ってるのである。
その剣が10ゴールドで売られている?
裏があるんじゃないか? と考えられるのは簡単に予想できる。
俺が客の立場なら確実にそう思う。
「じゃあ自分の値段上げてくれよ! それなら解決だろ!?」
「値段を上げると売る相手はベテラン冒険者になる。それもお前に適切な値段を付けたら、買うのは相当稼いでる1級の冒険者だろう。そういう人ほど武器を選ぶときは慎重になるから、『鑑定』スキルを使ってじっくり調べるだろうな」
「『鑑定』スキルって前に聞いたことあるな。武器や防具、道具のことを詳しく知るためのスキルだよな。なんでも品を見るだけで、その品の情報が説明欄として出てくるってやつ」
「そうだ。俺は持ってないから絶対の自信を持って言えるわけじゃないけど、もし説明欄に〈聖剣〉なんて書かれてたら一発でアウトだ」
「・・・・・・バレないようにコッソリ売るってのは?」
「無理だな。お前が言った通り、お前は外見からしてハイスペックだ。裏があると思わせるレベルの価格じゃないとすぐに目を付けられるはずだ」
「つまり、自分は?」
「裏があっても買うしかない、お金を持ってない駆け出し冒険者に買ってもらうしかないと俺は思ってる」
適正値段にすると、ベテラン冒険者の目に留まり、聖剣ということがバレる可能性がある。
だから駆け出し冒険者たちをターゲットに売らなければならない。
それも裏がないと思わせることはできないから、
裏があっても買ってしまうような格安の値段で。
「これが、お前をアピールしない理由だよ。変に良さをアピールするとさらに裏を疑われるからな」
「ああ、それと自分が安い理由も一応理解したよ。納得はしてないけど」
「別に無理に納得してもらわなくていいよ、俺は俺の都合で造られて俺の都合で値段を決められてるんだからさ」
「そっちには何の不満ないよ、親父。・・・・・・あ、でももう1つだけ質問がある。」
「どうした? 言ってみろ」
「なんで10ゴールドなんだ? こん棒ですら20ゴールドなんだから、こん棒と同じ値段でも破格の値段じゃないか。もう少し高くても良かったんじゃないか?」
「ああ、それは10ゴールド硬貨1枚で買えてお得感を出したかったとか、『こん棒よりも安い剣が売ってる店』って広告を出したかったからとか理由がいくつかあったけど―」
「けど?」
「・・・・・・一番の理由は聖剣なんて国に目を付けられるものを売る以上、俺の中ではお前はこん棒以下の商品だからって理由で、うわ!飛びついてくるんじゃねぇ!?」
「今ほど自分に拳がないのを悔やんだときはない! 誰がこん棒以下だ、その発言は大いに不満がある!!」
結局その日はすねる聖剣サマをなだめるのに一日中使った。
買ったら国に追われる可能性がある剣なんて、安くて当然だと思うんだが。
まあどちらにせよ、今さら値段は変更できないし、我慢してもらうしかないが。
確かに俺が悪かった部分もある。
謝っておこう、こんな値段にしてごめんな。
だからもっとできる抗議として、その強く光らせるのは止めてくれ。
もうすぐ夕方だから、目立つからさぁ!!
今日はここまでです
読んでくださった方々、ありがとうございます