トレーニング (店主の日課)
・・・・・・98、99,100!
店の庭で日課の素振り100回を終えて、汗を拭う。
「ハァ、ハァ。いい汗かいたぜ」
「親父? まだ課題は残ってるんだけど? やり切った感出さないで欲しいだけど」
「わかったけどよ、一息くらいつかせてくれ」
現役時代の勘はどうしても維持できないが、体くらいは引き締めておきたいと思って続けている日課のトレーニング。
今日もコーチ役の聖剣サマから指導の声が飛ぶ。
「あと、ランニングと筋トレ、イメージトレーニング。頑張ってくれよな」
「了解、今日はそれくらいでいいかな?」
「何言ってんだよ、親父! 一番重要な課題があるじゃんか」
「あー、やっぱり今回もやるのか?」
「当たり前じゃん! 今日も自分を使ってイメージトレーニングしてもらうぜ!!」
そう、この聖剣サマがコーチ役を引き受けている理由。
それはトレーニングの最後に行う、聖剣サマを使ったイメージトレーニングである。
もともとイメージトレーニングは、対魔物を想定して仮想の敵と戦っていた。
イメージの中の魔物を実際に剣を振って、斬るイメージをつかむというものだった。
そのイメージトレーニングの1回目を眺めていた聖剣サマが、
「自分を使ってみない?」と言い始めたのが始まり。
そこからは武器として、戦うイメージで使ってもらうことが嬉しかったらしく、コーチ役としてトレーニング内容を調整して必ず自分(聖剣サマ)を使ったイメージトレーニングを取り入れるようになった。
まあ、トレーニングの内容も意外にもしっかりしており、聖剣サマを使ったイメージトレーニングもかなり良い訓練になるので問題はなかった。
「ふう、イメージトレーニング完了! あとは」
「待ってたぜ、親父。次の自分を使ってのイメージトレーニングで終わりだぜ」
「おう、よろしく頼むぜ」
さっきまでイメージトレーニングで使っていた普通の鉄の剣(自家製)を片付ける。
そして聖剣サマを手に取る。
その瞬間、さっきまで疲れていた自分の体に活力がみなぎるのを感じる。
乱れかけていた呼吸は落ち着き、思考もクリアになりイメージも鮮明になる。
「始めるぜ親父! 今回の魔物は赤猪だ!」
「赤猪か、了解した。それじゃ、いくぜ」
片目だけを閉じ、瞼の裏に魔物、赤猪をイメージする。
赤猪は全長3メートルから大きいもので5メートルほどになる、イノシシ型のB級魔物である。
突進力が高い、正面から挑むのは危険な魔物だ。
徐々にハッキリしていくイメージを開いている目の視界にも映していく。
そして閉じていた目をゆっくりと開けるころには、店の庭にイメージでの赤猪が出てきていた。
イメージの赤猪が突進してきたので、俺は聖剣サマを構えながらすり足で横にかわす。
俺の戦い方は東方の体術が元になっている。
なのですり足や受け身といった道場戦法が癖となり、平地以外では戦いにくい。
俺もそこを自覚しているので、あえて平地でのトレーニングだけを行っている。
正直、平地以外で戦うことになったら負けだと思っているからだ。
「他の事考えてる暇はないぜ親父! 赤猪がもう一回突撃してきたぜ!!」
「-ッ!!」
聖剣サマからの新しいイメージを聞き思考を戦闘に戻す。
俺のイメージは当然だが、俺の想定内の行動しかしない。
なので、時折聖剣サマが予想外の行動を呼びかけてくる。
聖剣サマは握ってる所有者の考えが分かるらしい。
俺のイメージしている光景も見えるらしく、そこから俺が予想してなかった行動を呼びかけて、イメージしてる魔物の動きを不規則なものにする。
このやり方を見つけてから、より実践的かつ効果的な訓練として協力してもらってる。
「跳ぶぞ!!」
「了解!」
聖剣サマのおかげで、向上した身体能力を使い斜め前にジャンプする。
ちょうど赤猪(イメージだが)の上を掠めるように。
そして空中で赤猪を横に両断するべく聖剣サマを、振るう!!
その剣はイメージの赤猪を切り裂き、絶命させた。
「流石親父、完璧だぜ・・・」
聖剣サマの誉め言葉に、頬が緩くなり笑って答えた。
「まさか、受け身を忘れて頭から落下するのは俺自身予想外だったわ」
「親父、誉め言葉返して?」
今回はここまでです
読んでくださった方々、ありがとうございます