教えてっ、トイレってどうすればいい?
現在、俺は夏と藤原さんが次々と持ってくる靴を履いて、歩かされたりポージングを取らされたりしている。
もう何足履いたことか。20を超えたあたりから数えるのをやめた俺には知る由もないことか。
それからさらに10分経ってから、ようやく購入する三足の靴が決まった。
藤原さんは満足そうに頷いてから、「それじゃあ、私はもう帰るわね」と言って去っていった。
携帯の時計はもうすぐ3時になろうとしていた。
お昼ご飯をまだ食べていなかったので近場のチェーン店に行こうとした、その時。
「こっ、これは……!」
俺の下腹部……具体的には膀胱が警告を鳴らしていた。
バッ!と夏を見ると、彼女は全く気づいていないようで、キョトンと首を傾げている。
くっ、これくらい気付けないで何が幼馴染だ、となかなか理不尽だとわかっていながらもつい口から漏れそうになった言葉を堪えた俺は、夏の耳元で囁く。
「漏れそう」
その一言で完全に察しがついたのか、夏は俺の切羽詰まった表情に呆れたようにため息をつき、トイレへと案内してくれた。
意外と近くにあったようで、少し歩いてから角を曲がった瞬間──
俺の足は無意識に止まってしまった。
「……どうしたの?」
訝しげな表情をして俺の顔を覗き込む夏に対して、俺は重要な問いを投げかけるのだ。
それは──
「俺ってどっちに入るべきだと思う?」
究極の選択とも言えるような俺の問いに対し、夏は一言。
「いや女でしょ」
即答する夏にジト目を向けるが、彼女は意に介さずにさっさと女子トイレへと入ってしまった。
「えぇー……」
俺はTSして立派な女になったから女子トイレに入るのは何も問題がない……はずなんだが、謎の罪悪感が一歩わ踏み出すことをためらわせる。
ぐっ、こんなところに思わぬ伏兵が……っ!
それでも俺は負けない。勇気を出して一歩──
「あーもうっ、漏れそうなんでしょ!? ほら早く!」
踏み出す前に夏に拉致られた。
初めて入った女子トイレはなんというか、違和感しかなかった。
見慣れた小便器がないのもそうだし、全体的にピンク色なのも違和感がある。
割と尿意が限界だったので初女子トイレを満喫することにしよう。
うん、俺は今女だから満喫とか言っても全然変態なんかじゃないぞ。こらそこ、言い訳とかいうなー。
ちょこっとだけドアを開けて、開いた隙間からささっと個室の中へと滑り込んで鍵を閉める。
ふむ、個室はそんなに変わらないな。あえて違うところを挙げるとすれば音姫があることぐらいか。
ならば……あとは実戦練習というわけか。
スカートをたくし上げてパンツを下ろして便座に座る。
ん……息子がないから狙いをつけれない。
あー、もう我慢の限界だ。
脱力して排する。
シャーーー
「ひにゃぁあああ!」
ちょっ、まっ、太ももにかかった!
軌道修正……ホースの口がないからできない!
「ちょっ、どうしたの!?」
「ひゃぁ、これ太ももにかかるぅ……」
「あー、前かがみになったらいい感じになるわよ」
なるほど、前かがみになればいいのか。
なら早速……おおっ! 被害を一切出さずに綺麗に便座の中へと吸い込まれていくようになった!
「流石だな夏。褒めてやろう」
「なんで上から言ってんのよ」
夏の呆れた声を聞き流し、用を足し終える。
えーっと、確か女って小便した後にトイレットペーパーで拭くんだったよな。
いちいちトイレットペーパーを使わないといけないなんて……なんて資源の無駄だ。
またを優しく拭いた後、大惨事となっている太ももとお尻も拭き、最後に便座も綺麗にしてから個室を出る。
疲れた。なんでトイレ一つでこんなにも疲れないといけないのか。
TSしてからまだ1日も経ってないのか……濃すぎる時間だった。
その後、昼食を奢らされて俺の財布の中はとても開放感あふれるものになった。
格安チェーン店とはいえあんなに食べたらそら高額になるよ……。
あんまりにも食べるので思わず「太ったとしても知らないぞ」と言いそうになったが、それを言ってしまうと本格的に頭が凹んでしまいそうなのでそっと心のうちにしまったのだった……まる。