教えてっ、服とか下着ってどうすればいい? 3
「どう?」
俺の醸し出すどこか妖艶で淫靡な雰囲気に呑まれたのか、顔を真っ赤に染めて目を逸らされた。
ふふ、と小さく笑った俺は、唇に当てていた手を動かして夏の頬にそっと触れる。
ここでトドm……あれ?
「ふぅ、危なかったわ。流石は美少女ね。もうちょっとで完全にやられそうになったわ」
夏は顔は笑っているのに目が笑っていないというなんとも器用な表情を作ったまま、俺の顔を手で掴む。
「覚悟はいいかしら?」
あー、これってもしかしてもしかしなくてもアイアンクr──
「いだだだだだ!」
「せっかくあんたに付き合って色々教えてあげてるのに、そんな私を揶揄うだなんて。ふふふ、ここまでワタシをコケにするおバカさんははじめてですよ」
フリ◯ザかよ。
ってそれどころじゃなかったぁっ!?
め、めりこむ! 指が頭にめり込んでるぅうううう!!
しばらくしてからやっと手を離してくれた夏は、背筋の凍るような笑みを浮かべて俺の耳元で囁く。
「──次はないわよ」
怖すぎて漏らしかけたのは秘密だ。
────────
「それじゃあ気を取り直して……どう?」
「うーん、銀髪と黒い下着はマッチするけど……それどこで使うの?」
「どこでって……学校とか?」
「あんたねぇ……はぁ。今は夏よ? いくら学校が私服ありだとしてもどうしても薄着になることは避けられないわ。そうするとね、こういう色の派手なものとかは簡単に透けるのよ」
「なるほど……じゃあ白とかの方がいいってことか」
「そゆこと」
夏先生のアドバイスを受けた俺は、必殺ポージングを使わずにどんどん試着していく。
夏のは、流石は女歴十六年の大ベテランで、俺に似合いつつ透け具合も考えられた素晴らしい選択だった。
そして夏監督による俺と夏の合計十着の選定の結果、俺の選んだ下着類は全却下だった。
曰く、「紐パンとかどこで使うつもりなのよ! こっちのやつなんてもう隠せてないわよ!? 痴女!? 痴女なのね?!」と散々な言われようだった。
なぜかレジの店員さんの目が温かかったのは未だに謎だ。
あと高かった。
それから俺は試着室を借りて買った下着から一着を選んですぐにつける。
いつまでもノーブラショーツのみだと本当に痴女になっちゃうからね。
下着を買い終えた俺たちはそのまま女物の服を買いに行く。
──下着の入った紙袋を片手に。
ちょっと小っ恥ずかしいな。
自意識過剰ってわかってるけど誰かに見られてる気がしてならない。
いや、これは実際に見られているのか?
今の俺はトップアイドルなんて目じゃないくらいの美少女だ。そんな美少女が下着屋の紙袋片手にモールの中を歩き回ってたら……そりゃ見るわな。俺だって見るわ。
夏もそのことに気づいているようで、少し恥ずかしげにしていた。
それから数分後、俺は店員さんに囲まれた。
俺もちょっと意味がわからないんだが、夏が入店してすぐに近くにいた店員さんに「この子にオススメの服を見せてもらえますか?」とか聞いたと思ったら次から次へとやってきて、いつの間にか俺の俺によるみんなのためのプチファッションショーが開催されることが決定していた。
観客はお店のスタッフのほぼ全員だ。
夏休み最終日ということで店内に全然人がいないから暇だということで参加している。
たまに奇声をあげたり、目を血走らせる店員さん達は怖かった。
そこからは二時間半ノンストップでのファッションショーが始まった。
一つ一つ評価がつけられて改善点とかアクセサリーの提案とか上の服だけまたは下の服だけのチェンジの連続で身も心もクタクタだ。
おかげで素晴らしいコーディネートの雛型ができた。代償は大きかった。
あとは家に帰ってゆっくりできると考えていたら、
「次は靴屋に行くわよ」
「まだ行くの!?」
「当たり前でしょ。靴ないじゃん」
ちなみに俺が今履いているのは妹の靴だ。
「えー、妹のがあるから別にいいじゃん」
「ダメよ。それだって窮屈でしょ? 小さい靴は足に良くないの。せっかくこんな綺麗な足なのに……」
はぁとため息をついて俺を見る夏。
その目は完全にオカンの目をしていた。