教えてっ、女になっちゃったけどどうすればいい? 2
「なるほどね……」
言われた通り女になった経緯を説明(所要時間十五秒)すると、夏がソファーに座りながら頭を抱えてうめいた。
「……それで? 服を買いに行こうっていうのはどういうこと?」
「いやー、俺って急に女になったわけじゃん? だからさ、服とか下着とかってなーんにも持ってないのね。試しに姉の服借りてみたんだけど、胸がキチキチで苦しくってさ……。だから、下着とかも買い物に行こうかなーって思って。でも一人で行くのは心細いし、何より俺のファッションセンス知ってるだろ? だから夏と一緒に買いに行こうかなって」
はぁ、とため息をつく夏。今の俺の答えのいったいどこがおかしかったの言うのか。
夏は頭が痛そうに眉間を揉みながら聞いてきた。
「ねぇ、一つだけ聞いてもいい?」
「ん。どうした?」
「――なんでっ! あんたは取り乱してないのっ!?」
……取り乱す? なにに?
「取り乱すって……なんで?」
「なんで!? 朝起きたら急に女の体になってたのよ!? それになんか身長も縮んでるし! なんでそんなに落ち着いていられるのよ!」
「いやだって、ずっとTSしてみたいなーって思ってたし。むしろ女にさせてくれてありがとうございます、的な?」
「はぁっ!?」
そんなに驚くようなことか? TSなんて男子が一度は体験してみたいことじゃないか。それに、俺はもう一生女で生きて行く覚悟はできてるし。ほら、何の問題もない。
「これからどうしていくつもりなの!?」
これから、ねぇ……。
「そうだな、まずはクールなお姉様キャラを確立させるつもりだ」
「……は?」
「今の俺はクールビューティーなフェイス。なので、男の時の行動からガサツな部分をなくすと自然と凛々しい雰囲気になるだろうと読んでいる」
「え、何のはな(ry」
「最終的に女子たちが俺のことをお姉様と呼び懐いてくれれば、その子たちと存分に百合百合する。例えば……こんなふうに」
そう言いながら夏を押し倒し、覆いかぶさるように顔を近づける。
吐息が混じり合うほどに距離を縮め、額同士をくっつける。
「――ぁ」
突然のことに顔をリンゴのように真っ赤にした夏は、驚きからか小さな声を漏らし、何かを決意してそっとまぶたを下ろした……まぶたを下ろしたぁっ!?
なんで? え、ちょっ、夏さん? なんで目閉じたんですか? キス待ち? まさかのキス待ちですか!? ちょっとからかうだけのつもりだったのに……何てこった。
どうする、ここから上手くごまかさないと俺のファーストキスがここで失われてしまう。かと言って、このままスルーしようもんなら制裁が降り注ぐに違いない……。キスするか、殴られるか。なんだこの究極の二択!
「んっ」
いつまでもキスしてこないことにじれったくなったのか、軽く唇を突き出した。
そういうのやめてください。ちょっと可愛いって思っちゃったじゃん。
あーもうやるしかないのか。ふう、と息を吐き出して覚悟を決め、夏の頬に軽く手を添える。
そしてさらに顔を近づけて――
「キス待ちでちゅかぁ〜?」
と、耳元で盛大に煽ってやった。
ばっと目を見開いた夏が、違う意味で顔を真っ赤に染めて俺に襲いかかってきた。
――――――――
「で?」
いまだに顔を赤くした夏が絶対零度の声で問いかけてきた。
俺? 俺は夏の座るソファーの前で土下座中だ。
「先ほどは私めの勝手な行動により、夏さんに多大なるご迷惑をおかけしてしまい誠に申し訳ありませんでした」
「ん、よろしい」
夏のその一言で土下座の体制を崩す。
「ただし」
続く言葉に否応なしに背筋が伸びる。
「次同じことをしたら……わかってるわね?」
「はいっ。心得ております!」
俺にその言葉にはぁ、と呆れたようにため息をつき、
「それで? 服と下着を買いに行くんっだっけ?」
「ん? おう、そうだけど……ついてきてくれるのか?」
「まぁ、あんたのファッションセンスの壊滅具合はよく知ってるし。それに、あんた一人で服屋に行かせるとか恐怖以外の何者でもないしね。仕方ないからついていってあげるわよ」
夏さん……っ!
「ほら、いつまでぼーっとしてるの? 早く買いにいくわよ」
夏のやさしさに俺の心が舞い上がり――
「向こうでいろいろ奢ってもらうからね」
一瞬で地に落ちた。