教えてっ、学校だけどどうすればいい? 5
始業式中も周りからの視線が途絶えることはなく、そのことに先生が注意してくれくれるかなと期待したがその先生までもが俺に熱烈な試練を送っていた。
壇上にいる校長も、クソがつくほどつまらない長話をしながらチラチラと俺のことを見ている。
女が視線に敏感なのって本当だったんだな。
今も俺の顔と胸にいくつもの視線が突き刺さっているのがよくわかる。
気持ちはわかる。
突如として現れた銀髪の超絶美少女。胸も大きくスタイルも抜群。
自分がそういう対象になることは覚悟していたし、そうなったとしても平気な自信はあったのに、何故か生理的な嫌悪感が消えない。
と言っても、そこまで酷いものじゃないのが不幸中の幸いだ。
あんまり気持ちのいいものじゃないが、そこまで長くはならない予定だし、我慢するかぁ……。
……ほんとは仮病使って保健室に行きたいけど、あそこは魔女がいるからなぁ……ほんとならありえないはずなのに、あの人ならノーヒントでも『俺』に辿り着きそうなんだよ。
終わったら明菜に慰めてもらおう。仲良くなれれば、の話だが。
さっきも気になったことだが、俺ってこんなに視線に敏感だったか? TSしてから色々と感じ方が変わってるように思える。ありきたりだが、TSする前とした後だと甘いものに対する感じ方が違うらしい。ソースはラノベ。
いやいや、そんなまさか……ねぇ?
おっと、フラグを立てるんじゃなくて、今は無にならないといけないんだった。
無無無ムムムむむ……。
──────
長い! 長いよ校長!!
いや、普通に時間通りに始業式は終わったんだ。終わったんだけど、体感時間が実際のそれの倍以上あったんだよね……。
精神的な疲労に打ちのめされながらも、追撃を逃れつつホームルームを迎える。
先生の話す内容の八割を聞き流しながら、この後のことについて考える。
とりあえず、俺の正体が一ノ瀬遥だと言うことは明らかになったので、聞かれることとすれば女体化の原因だろうか。
うーん、原因なんてこれっぽっちもわかんないんだけどなぁ……。そもそも、TSという結果さえ享受できればいいから、原因とかにあんまり興味ないというか。
知らぬ存ぜぬで押し通す……できるといいなぁ……。
まぁ間違いなく色々言われるだろう。が、俺は気にしない。
始業式のことがあるからそこまで強くは言えないけど、気にならない予定だ。
と、そんなことを考えているといつの間にか終わっていたのか、席の周りにみんなが集まってきた。
……おかしいな。起立とかした覚えないんだが。まさか無意識下のうちにやってた?
おっと、今はそうじゃなかった。これまたいつの間にか傍にいた夏と絢香に目配せした後、ゆっくりと口を開く。
「みんなもう気づいてると思うけど、私の名前は一之瀬遥。元男子よ」
俺の言葉に周りがざわめく。
俺の言葉遣いが女のものになっているのは気にしないでくれ。調整が終わっだだけだから。いつまでもこの外見で男らしい言葉遣いするのはない。解釈不一致だ。
「神がかった女装でもなければ、性転換手術を受けたわけでもないわ。口裏合わせをした赤の他人でもない。記憶だけ入れ替わった他人説は自覚できる部分がないから訂正できないけど、私は私のことを私だと確信してる」
みんなが固唾を飲んで次の言葉を待つ。
俺は夏にアイコンタクトを送った後、再び話し始める。
「こうなった原因はわからないわ。昨日の朝、起きたらいつの間にか女になっていたの。それは夏が証言してくれるわ」
「えぇ、遥の言うとおり、昨日の朝、急に呼び出されたと思ったらもうこの見た目になってたわ。あと、今日一緒にお風呂に入った時確認したのだけれど、完全に女だったから女装の線も否定できるわ」
夏が一歩前に出て話してくれる。それに続けて、絢香も同じように話してくれた。
「私も昨日モールであったんだけど、その時もこの可愛い姿だったわよ。買ったばかりの服に靴を合わせるのがほんとにかわいくて、ほんとに、かわいくて、やばいわ」
……うん、ありがとう夏! なんか一名ほど暴走し出した人いるけど、まあ概ね大丈夫だろう。
と、二人の話を聞いたクラスメイトのうちの一人……北河祐希が質問を投げかけてきた。
「もし彼女が本当に一ノ瀬くんだとして」
「もしとかじゃないから。本物だから。世界に一つだけのオリジナルだから」
「……なら、一ノ瀬くんはこれからどうするんだい?」
「どうするって?」
「君は男から女に変わった。それの意味するところはとても大きい。 君はこれからどうやって生活するつもりだい?」
……変なことを聞くやつだな。
「どうやっても何も、私はこれまで通りの日常を送りますよ。友達とワイワイ過ごす、ただただ平和な日常を」
北河がポカーンと呆けた表情をする。一体どんな返しを予想してたんだ……?
「……君は、自分が女になったことに何も感じていないのかい?」
「感じてるに決まってるじゃないですか!」
何言ってんだこいつ。まさか俺がTSして後悔してるとでも思ってるのか? やれやれ、これだから学校一のイケメン様は。
「もうほんとに最高だよ何が最高かというとずっとずっと昔から憧れてたTSが実際に我が身で起きてさらに変化後の体がお約束通り可愛くておっぱいもデカくて声も綺麗でスタイルもいいし髪もサラサラだし肌もすべすべとかいうレベル超えてるしもうほんとに総合的に見ても最高以外の言葉がないというかもはや最高という言葉すらも超越してきてるというか絶筆し難い感覚があるというか──」
「遥、そこまでよ。みんなちょっと引いてるわ」
「おっと」
夏によって正気に帰った時、クラスメイトたちはみんな一様にちょっと理解し難いものを見るような目をしていた。
顔あっつい……。