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教えてっ、学校だけどどうすればいい? 2

 少し緊張しながら校門をくぐると、案の定というべきか視線が一斉に飛んできた。


 と言ってもまだ時間が早いからか、あまり数は多くなかったのが幸いだ。


 夏とも一緒に教室に向かっている間も視線は一向になくならない。


 ……堕とすか?


 いや、さすがにそれは危険か。勘違いしやすい奴が「自分にアピールしてきた」なんて思って俺につきまとうようなことがあればたまったもんじゃないからな。


 まだ八時にもなっていないからか、中にはまだ誰もいなかった。


 今のうちに夏と今後について話す。


 主にこれからの俺の立ち回りについての話だ。


「昨日俺は晴れて念願のTSを叶えたわけだが、男から女に変わった以上色々と面倒なことが予想される」


 たとえばバカな野郎が俺にアッチのお願いをしにくるとか、これまた同じくバカな野郎が胸を揉ませろだのとバカなお願いをしにきたりとかな。


「まぁ、それはそうね」


「俺もそんな些事に悩まされて素晴らしい(くなる予定の)高校生活を送りたくない。そこで重要になることが一つあってな」


「それは?」


「それは──女友達を作ることだ!」


 力強く言い切ると、途端に夏の表情が微妙なものへと変わった。


「アンタそれ、たんに女子と仲良くしたいだけなんじゃないの?」


「そんなわけ……ないわけでもないが。一応しっかりとした根拠はあるぞ?」


「ふーん、まぁ聞くだけ聞いておきましょうか」


 なんでこいつはこんなに上から目線なのだろうと思ったが、口に出していいことなんてないのでグッと堪えて説明を続ける。


「女子が数人で固まる。それだけで男に対して有効な防衛手段になるんだ。女子が集まっているところに男が不用意に踏み込めば手痛いしっぺ返しを食らうことになるからな」


「なるほど……たしかにそうね」


「だろ? そこで元の話に戻るんだが、これからの高校生活を心置きなく過ごすためにも俺には女友達が必要なのだ!」


「よくわかったわ。それで? それを私に言うってことは、私の友達をハルに紹介して欲しいと、そういうことでしょ?」


 さすがは幼馴染。俺のして欲しいことを完全に把握している。


「夏の言うとおり、夏の友達を紹介して欲しい。ただ、夏は俺を紹介するだけで過度に俺のことを立てたりする必要はないぞ」


「えぇ、わかってるわ。そんなことすればハルは『友達』じゃなくて『気を使われる人』になっちゃうもんね」


「あぁ、夏の友達と仲を深めるのは俺の仕事だ。そこまで夏には任せられない」


 俺はフッと好相を崩し、優しく微笑む。


「とまぁ、真面目な話はここまでにして。そろそろクラスの奴らを出迎えるとするか」


「えぇ、そうね。ハルの説明もしないといけないだろうし、色々と忙しくなりそうだわ」


 そう答える夏の表情は決して険しいものなどではなく、穏やかな笑みに満ちていた。



────────



 時刻は八時五分。ここでようやく一人目のクラスメイトが登校してきた。


 艶やかな黒髪を靡かせながら教室に入ってきた美少女の名前は藤原絢香。先日モールで出会った我が校を代表するマドンナだ。


 ……うん、先日っていうか、昨日だし、紹介するほどでもないよね。


 藤原さんは教室に入るとすぐに俺たちに気づき、カバンもおかずに俺たちの元へとやってきた。


「貴女……ほんとに一ノ瀬くんだったのね」


「なんだ、疑ってたのか? 夏がそんなくだらない嘘をつくはずもないだろうに」


「えぇ、もちろんわかっているんだけれど……やっぱり信じきれなくて」


 たしかに、俺だって逆の立場なら信じられないな。と思い苦笑いを浮かべていると、不意に隣にいる夏が肘で小突いてきた。


 夏の顔を見ると、小さく藤原さんに顎をしゃくっている。


 ……言いたいことはわかったが、あんまり行儀の良い仕草じゃないぞ。


 はぁ、と気づかれないようにため息をつき、藤原さんに向き直る。


「藤原さん、ちょっと聞きたいこと……というかお願いしたいことがあるんだけど」


 藤原さんも俺の真面目な雰囲気を感じたのか、少し緊張した面持ちになった。


「……悪いけど、私はノーマルよ?」


「いや告白じゃなくて」


 なんでそんなに飛躍したんだ。


「そうじゃなくてだな……なんというか、その……」


 こんなことを面と向かって言うのは初めてなので、すごい緊張してしまう。


「えーっとだな……俺と、いや私と友達になってくれませんか?」


 その瞬間、藤原さんはポカーンとした表情を浮かべたかと思うと、ぷっと吹き出し、徐々にその笑い声を大きくしていった。


「ふふふっ、ごめんなさいね……つい」


 それからしばらくの間笑い続けた藤原さんは、表情を緩ませたまま口を開いた。


「貴女の問いに対する答えだけど、もちろんイエスよ」


 あまりにもあっさりと友達になってもらったので、今度は俺がポカーンとした。


 その様子を見ていた夏が呆れたように言う。


「はぁ、あのね、友達申請するだけで何をそんなに緊張してるのよ」


「いや、だってこんな真っ正面から言うことなんてそうそうないぞ? それに、断られるかもって不安だったし」


 夏はあぁ、と小さくつぶやいた後、「それはないわ」と否定した。


「昨日の様子からわかると思うけど、この子は根っからの可愛いもの好きで、昨日私たちと別れたあとLANEで紹介してくれってうるさかったんだから」


「ちょっ、なっちゃんそれは秘密にする約束じゃ!?」


 藤原さんがびっくりしたように夏に声をかける様子を見て、なんだかほっこりした。


 夏の肩を揺さぶっている藤原さんに向き直ると、彼女も俺の方へと顔を向けた。


「今日からよろしくな、藤原さん。俺のことは遥って呼んでくれ」


「こちらこそよろしくね、遙。それと私のことも絢香って呼んでね」


 俺たちはゆっくりと握手を交わし、新しくできた友達に挨拶を交わした。


 藤原さん──絢香は優しげな表情で微笑み、


「それで、遥はそのまま男の口調で話すの?」


 ……お姉様キャラ忘れてた。





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