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教えてっ、学校だけどどうすればいい?

 シリアスな空気を吹き飛ばそうと、夏にいたずらをしてアイアンクローを頂戴した日から一夜明けた今日。


 はい、始業式ですね。


 ベットの隣に敷いてある布団を見ると、もう起きたのか、夏の姿はなかった。


 ……って今日始業式じゃん! 夏がいないってことは結構ピンチ!? 


 寝ぼけて霞みがかった思考が急速にクリアになっていく感覚を味わいながら、急いで枕元に置いてある時計を確認する。


──七時二十分。


 家から学校までは自転車で十分弱しかかからない。そして、学校が始まるのが八時半だ。


 つまり、何が言いたいのかというと──


「二度寝できるじゃん」


 二度寝。それは至高の行為である。できるのならば三度寝もしたい。


 しかし、しかしだ。


 昨日の夜、俺の顔をアイアンクローで締め上げた後に夏が、


「朝は色々準備しないとダメだから、早く起きなさいよ」


 と言ってきたのだ。


 この言葉を無視して二度寝をした日には、二度と日の目を見ることはできないだろう。多分。


 そんな恐ろしい目にあうのはゴメンなので、ベットから降りて顔を洗うために一階の洗面所に向かう。


 洗面所に入ると、そこには着替えた夏が歯を磨いていた。


 夏は俺に一瞥をくれた後、口内をすすぎ、


「あら、昨日言った通り早く起きれたわね」


 と話しかけてきた。


「あぁ、何をどれだけしてどれくらい時間がかかるのかなんてさっぱりわからないからな。初日から遅刻なんてしたくないし」


「ま、そうよね。下手に注目されるのは面倒よね。ハルの場合は特に、ね」


 確かにそうだよな。夏休みに入る前までは男だった奴が、急に女になったんだ。それも、滅多にお目にかかれないような超絶美少女に。


 そんな俺に対して周りのやつがどんな反応をするのかなんて、簡単に想像できる。


 馬鹿な奴らは俺になんとかコンタクトを取ろうとするだろう。男時代の時に大して親しくもないような奴から「友達だから」、と言ってアプローチを受けるかもしれない。


 そんな奴らの対応をする時点で相当面倒だというのに、まだ面倒ごとが続く。


 そんな中でも一番面倒な問題が、交流関係だ。


 俺は女になった。だから、新しく女の友達を作るべきなのか? それとも今まで通り男どもとつるむのか?


 全くもってわからない。


 だけど、俺はこの答えのない問題に対して俺なりに一つの答えを導き出した。


 それは、『ノリと勢いでなんとかする』だ。


 いつまでもうじうじ考えていてもしょうがない。案ずるより産むが易し。ぱっぱと決着つけてさっぱりしたい。これが一番楽!


「ま、それが一番楽よね」


 夏もそう言って俺の考えに同意してくれた。


 さすがは思考レベルまで同じの幼馴染。俺の考えを完全に理解してくれた。


 閑話休題(話を戻そう)


 まだ一つも準備が進んでない。時間的に余裕はあるけど、念のため気持ち急ごう!


「と、いうわけなのでお願いします」


「そうね。それじゃあ、まずはその髪をなんとかしなくちゃね」


「髪?」


 疑問に思い、洗面所にある鏡を見ると、俺の自慢の銀髪が寝癖で盛大にボッサボサになっていたのだ。


「あぁ……こりゃヤベェや」


 それから十分ほどかけて元の髪型に戻したのはいいのだが、なんだか鬱陶しい。


 ポニーテールでひとまとめにくくればいいか。


「ハル、あんた髪結わないの?」


「んー、別にいいかな。ポニーテールさえできれば十分だし。あぁ、でもお団子は覚えたいな。あれって結構便利だろ? 風呂上がりとか、細かい作業するときとか」


「そう……残念ね。ハルの髪で編み込みとかすればすごく似合いそうだったんだけど。気が向いたらいつでも言ってね。お団子は後で教えてあげるわ」


 お団子の授業は学校から帰ってきてからに決まった。


 髪を整えて顔を洗い終えたのでリビングで朝食を食べる。


 朝から料理をするのはこの上なく面倒なので、買い置きしてある菓子パンと、レンジでチンしたホットミルクが普段の朝食だ。


 手早く食事を済ませ、歯ブラシを咥えながら下ろしたての服に着替える。


 っと危ない危ない。ブラを付け忘れてたぜ。


 毎度のこと、と言ってもまだ片手で数える程度だが、こいつ(ブラジャー)をつけるのも一苦労だ。


 背中のホックを止めるのが地味にきつい。


 もともと体は柔らかい方だったんだけどなぁ……。女になって柔軟性が損なわれたのだろうか。意味がわからん。


 なるべく早めに着替えを終わらせ、荷物をまとめて部屋を出る。カバンを玄関に置いたところで、重要なことを思い出す。


 あっ、今日提出の課題机の上に置きっぱなしだ。


 急いで部屋に戻って課題を回収し、そのまま洗面所に直行して口をゆすぐ。


 玄関に戻って改めて荷物をまとめ、忘れ物がないか確認するが、特に問題はなかったので夏と一緒に学校へと登校する。


「そういえば」


 自転車で並んで走っていると、夏が声を掛けてきた。


「女になったのか理由考えてる?」


「あ」


 これっぽっちも考えてなかった。


 ちらりと携帯の画面を見ると、現在の時刻は八時前。


 これから三十分ちょっとで、なぜ女になったのかの説明を考えないといけないのか。


 ……朝起きたら女になってた、じゃダメなのかね。


 下手に嘘をついたりごまかしたりすると、どこかでボロが出るのは確実だ。


 それなら最初から正直に話した方がいいんじゃないか?


 うん、考えるのめんどくさいし、もうこれでいいや。


 俺がよく読んでるTSモノの主人公たちもおんなじようなこと言ってたし大丈夫でしょ。


 あとはノリと勢い、だな。


「ま、大丈夫でしょ」


「そう? それならいいわ」


 さて、そろそろ学校に着くな。


 色々と面倒ごとが起きそうで、胃が痛い。


 今日はストレス過多で倒れるかも。いや、確実に倒れる。倒れなかったとしても、自発的に倒れてやる。


 基本的にはノリと勢い。交友関係についてもノリと勢い。不埒な奴らには制裁を。告ってきた奴は丁寧に心を折る。


 よし、覚悟は決まった。どっからでもかかってこいやァッ!


 ……忘れないうちにお姉様キャラに切り替えておこっと。



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