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教えてっ、お風呂ってどうすればいい? 2

──ピンポーン。


 来客が誰なのかはわかっているため、カメラを確認せずにドアの鍵を開ける。


 全裸で。


 ふと思ったんだけど、インターホンを鳴らしたのが夏じゃなかった場合、俺確実に襲われるよね。性的に。


 男に襲われるとか嫌すぎる。


 俺はホモじゃねぇ。


 一応体は女だが、心は男のままだ。


 じゃあ全裸のまま無防備にドアを開けるなって? ごもっともで。でも一度脱いだのにまた着るのってめんどくさいんだよ。


 玄関のドアがゆっくりと開いていく。


 緊張の瞬間だ。もしドアの向こうの人が男だった場合、TS修行で磨いた美少女専用護身術をその身に叩き込んでやる。


 不埒にも俺を襲ってきたやつには、股間にぶら下がっている粗◯ンをこの美脚で叩き潰してくれるわ!


 全裸でドアを開けるなんて誘ってるようにしか見えないのに、襲って来たら叩きのめすなんて理不尽じゃないか、だって?


 勘違いするな。いつだって女という生き物は理不尽な存在なのさ。


 くだらないことを考えているうちにドアが開ききり、尋ね人の姿が明らかとなる。


 ドアの向こうにはハチマキをしてメガネにチェック柄のシャツ(ジーパン入り)のザ・オタクが──なんてことはなく。


 まぁ予想通り夏ですね。少し大きめのカバンを背負ってるけど、一晩泊まるのにそんなに荷物いる?


「よっ、わざわざ来てもらって悪いな」


「いや、別にそれはいいんだけど……」


 夏が何か言いにくそうに俺から視線をずらす。


 どうかしたのだろうか。


 はっ! もしかしてこの俺の美しすぎる全裸を見て自分に劣等感を抱いてしまったのか!?


 だとしたら申し訳ないな。なんてったって、"遥 Ver. 女"はどんな女にも追随を許さないほどの美貌。故に、持つ者として持たざる者には施しを与えなければならないのだ!


「やかましいわ!」


 ベシーンッと擬音が聞こえるような動作で夏にひっぱたかれた。


 一切声に出していないはずなのになぜ夏をディスってることがバレたのだ? ハッ! もしや夏はあの伝説の読心術の使い──


「全部声にでとるんじゃぁああああ!」


 拳骨を落とされた。さすがにこれは俺が悪かった。


 っていうか、今更だけど俺のこの《遥》って名前は女になっても違和感なく使えるよな。


 よくやったぞたこ焼き! ネーミングセンスがないとか嘆いてる割にはそれなりに良さげな名前つけれるじゃないか!


 さて、メタはここまでにして、と。


「もう晩飯は食って来たか? まだだったら俺が作ってやるけど。裸エプロンで」


「もう食べたからノーセンキュー。ってちょっと待て。裸エプロン? あんた今裸エプロンって言った?」


「ん? なんだ、もう耳が遠くなったのか?」


「んなわけないでしょうがぁっ! あんたはもっと恥じらいってやつを身につけなさい!」


「何をいうか。俺ほど完璧な淑女はいないというのに」


「全裸でドアを開けるやつのどこが淑女じゃぁあああ!」


 同じ女として、今回の俺の行動は相当見逃せないことらしい。


「まぁまぁ、落ち着けって」


「誰のせいだ!?」


 最後にひと吠えした夏はやっと冷静になったのか、大きく深呼吸していた。


「さて、それじゃあお風呂に入りましょうか」


 変わり身の術……? さっきとはテンションが違いすぎてもはや別人の粋なんだけどコワイ。


「女にはこれくらいできて当然なのよ?」


 虚無を湛えたような笑みを顔に張り付かせた夏が俺のことを睨んでくる。まだお怒りでしたか。


 何も煽るようなことをせずに、お風呂場に向かう。


 なんかもうぐったりと疲れた。


 脱衣所に入り、そのまま風呂に入ろうとするが何故か夏に引き止められた。


「ちょっと待って。えーっと、確かここに入れたような……」


 そう言ってカバンから取り出したのはヘアブラシだった。


「何故今それを? 今からお風呂に入るのに」


「はぁーっ、やっぱり知らなかったか」


 ため息をついて呆れたように俺を見る。


 え、これ俺が悪いの? まだ女歴一日目なんですけど。初心者も初心者、ビギナーオブビギナーでっせ。


「髪を洗う前に、まずブラッシングをするの。これをすると、髪に付いてる埃とか汚れがある程度落とせるのよ」


 俺に説明しながら優しく髪をブラッシングしてくれる夏。


「洗髪で汚れは落ちるじゃんか。なんでわざわざこんな面倒なことを?」


「んーとね、たしか血行が良くなったりとか、シャンプーでより汚れが落ちる……らしいわ」


「ほーん」


 夏がブラッシングし終えるまで待ち、その間にブラッシングをする際の注意点とかコツを聞く。


 正直面倒すぎて内心参っていたが、髪艶を保つことができると教えられてから俄然やる気が出てきた。我ながら単純な女だな。


 ブラッシングが終わったので、やっとお風呂場に入ることにする。


 シャワーで十分に体を濡らして、いざシャンプーで髪を洗おうとしたら、これまた夏に止められた。


「シャンプーする前に、まずは予洗いをするわよ」


「予洗い? なにそれ」


「予洗いっていうのは、お湯だけで頭皮や髪をもみ洗いすることよ。こうすることで、汚れのほとんどが落ちるし、必要なシャンプーの量も減るから節約につながるわ。ちなみに雑にやると意味ないから、ちゃんと丁寧にやってよね」


「丁寧にって……だいたい何分ぐらいかけんの?」


「……二、三分でいいんじゃないの?」


「そんなもんか?」


「そんなもんよ。あんたの髪すっごく綺麗なんだから、痛めないようにちゃんと気をつけなさいよ」


「おう、勿体無いもんな」


 たっぷりと時間をかけて予洗いを済ませると、次はシャンプーをする……のだが。


「シャンプーには注意点とかないのか?」


「んー、そんなにないわね。強いていうなら、ガシガシと乱暴に洗うんじゃなくて、指の腹を使って優しくマッサージをするようにすることぐらい」


「おおぅ、それ結構重要なんじゃね?」


 男だった時なんて、ワシャワシャワシャー!って感じで洗ってたから、今の教えてもらわなかったらおんなじ感じで洗ってたぞ……。


「そう? 普通よ」


 なるほど、これが女の普通か。


 特に問題もなく、無事にシャンプー終えることができた。


 次は──《リンス》と《コンディショナー》。一番の難題だ。



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