教えてっ、女になっちゃったけどどうすればいい?
高校一年、八月中旬のある朝。
「なんじゃこりゃ」
俺は鏡に映る銀髪の超絶美少女とにらめっこをしていた。
鏡に映っている美少女は眉にしわを寄せてしかめっ面をしているというのに、その表情すら完成された一枚の絵画のような美しさを感じさせた。テレビとかで見るようなアイドルなんて目じゃないくらいの可愛さだ。
──なんて呑気に解説してる場合じゃねぇ。
恐る恐る視線を下に下ろすと、昨日の夜まではなかったはずの立派な双丘がある。
ゴクリと唾を飲み込んで、服の上から触ってみる。
ふにょん。
「や、やわらけぇええええ!」
おっぱいって本当にマシュマロだったんだ……! 世のオトコたちがおっぽいを好む理由を真に理解できた気がする。これなら宗教化することだって……。
……はっ! いかんいかん、人生初おっぱいで少しトリップしていたみたいだ。
冷静に考えよう。このおっぱいの持ち主が俺なのだとすれば、つまり俺は私になったってことだ。昨日まで可愛がっていた俺の愛息が行方不明になっているということだ。
十六年間一緒に苦楽を共にしてきた俺の自慢の一人息子。
俺はそんな息子を思いながら寂しくなった股に手を当てて、噛みしめるように呟く。
「TSキタコレ……っ!!」
俺の最も好きなシチュであり、長年の夢でもあったTS。
それが現実となって叶った日であった
────────
落ち着いたところで、まずは自己紹介をしようと思う。
俺の名前は一ノ瀬遥。年齢は十六歳の高校一年だ。なんの変哲も無いただの男子高生──だった者だ。現在は銀髪蒼眼の超絶美少女となりました! はっはっはー! 人生勝ち組もろたで◯藤!
身長は……だいたい百六五前後くらいかな? うーん、正確な数値は学校が始まってから保健室で測ろうっと。
家は何の変哲もない普通……よりかは大きめの一戸建てに住んでいる。普段は両親と中二の妹と大学二年の姉が一緒に住んでいるけど、今はいない。三日前に俺を置いて北海道に旅行に行きやがったのだ。すぐさまRAINで問い詰めると、この旅行は女子会なので男は不要という返事が返ってきた。ちなみに、旅行についていった親父は荷物持ち兼お財布係なので例外だそうだ。哀れ……。
とまぁ、こんな感じでぶっとんでる俺の家族だが、悔しいことに容姿はすごくいいのだ。かく言う俺も、TS前はそこそこのイケメンだった自覚がある。
だが、今の俺はそれ以上……百年に一人の美少女程度鼻で笑えるくらい美しい。
サラリと髪を撫でれば、絹のような手触りの銀髪に澄み渡る空を閉じ込めたかのような蒼瞳、ぷるんとした淡い桜色の唇がシミひとつない白磁の肌に神がかったバランスで配置されている。
さらに巨乳! 美少女フェイスに上乗せで巨乳! これはもう最強なんじゃないか?
だが、女になっていいことばかりではない。新しく用意しなければならないものがあるな。下着や服もそうだし、シャンプーなんかも男物とは違うらしい。いや、シャンプーは家にあるから別に新しく買わなくてもいっか。
あ〜もう、やることが多すぎてどうすりゃいいのかわかんねえな。
んー、まずは服だな。これがないとコンビ二にすらいけない。
というか、服屋に行く服がない……。仕方ない。姉の服を借りるか。ついでにブラも借りよう。たしか姉もそこそこ胸は大きい方だったはずだし、なんとかなるだろう。
そう考えて姉の部屋に行ったのだが……まさか! 俺の方がワンカップも胸が大きいとは思わなかった! おかげでキツキツだし、いまにも弾けそうな感じがして怖い。さいわい服は問題なかったので、下着一丁という変態スタイルは免れた。
さて、服を着たのでいざ服屋に! というわけにはいかない。勝手がわからないし、何より俺のファッションセンスは絶望的なのだそうだ。
なので俺と一緒に服を買いに行く人が必須となる。
ちょうど幼馴染みが隣の家に住んでいるので、そいつに頼るか。
携帯を取り、電話をかけようとしたところではたと思いとどまる。通話をするということはお互いの声を聞くということだ。今の俺の声は以前のような男声ではなく、耳に入れば誰しもが聞き惚れるような銀鈴の音がする。つまり、俺の身に何かあったことが一瞬でバレるのだ。
そんなの、面白くないよな?
というわけで、電話をせずにRAINでスタ連しまーす。
ものの数秒で百以上のスタンプが送信され、トーク画面を埋め尽くす。
それでもなおスタンプを送り続けると、相手から電話がかかってきた。
用件はわかってるので、音量を一番小さくして電話に出る。
途端、
『ピコンピコンうっさいわね!』
と怒号が飛んできた。
『朝っぱらから何の用よ! こっちは気持ちよく寝てたっていうのに、わざわざ起こしてまでいうようなことなんでしょうねぇ!?』
その問いかけに対して、無言でチャットを送る。
『ちょっと来てくれ』
『はぁ? なんでよ。っていうかなんで喋らないわけ?』
『いいから。すぐに家に来てくれ。全部説明するから』
『はぁ……もう、わかったわよ。貸し一だからね?』
なんだかんだ言っても優しい幼馴染みに感謝の言葉を送る。
『サンキュ、できれば五分以内に来てくれ』
『ぶっ飛ばすわよ』
怒られた。
――――――――
通話を終えてから五分もしないうちに家のチャイムが鳴った。
すぐに玄関の鍵を外すと勢い良く扉が開かれて、彼女――日向夏が肩を怒らせながら家に入ってきた。
そして、俺の姿を見た瞬間に動きを止めた。
さて、紹介しよう。彼女の名前は日向夏。幼稚園の頃から付き合いのある幼馴染みだ。
俺よりも少し身長が高くて、栗色の髪をアゴで揃えた美少女だ。俺ほどではないがな!
「も、もしかして……」
夏の紹介をしていたうちに再起動したのか、震える声で話し出す。
「ハルなの……?」
おっと、さすがは幼馴染みだな。まさか説明する前にバレるとは思わなかった。
幼馴染みの絆の深さに感動しながら、俺はグッと握り拳を向ける。
「服買いに行こうぜ!」
「まずは全部説明しなさい!」
また怒られた。
・日向 夏 女
十六歳、遥の幼馴染、栗色のセミロング、
Cカップ、身長171センチ、体重??kg