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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

蓼食う虫も好き好き

人を愛してはいけない少年の話

作者: 真兎颯也

 今日、授業で人肉食の話をされた。

 昔、とある地域では亡くなった人を食べる風習があったとか、愛する人の血肉を食べた女性の話とか。

 実に、下らない話だった。


「ねえ、あの先生の話、面白かったね」


 しかし、目の前の彼女には随分と興味深い話だったようだ。


「……そうかな?」

「愛しているが故に相手を食べてしまうなんて、ロマンティックだと思わない?」


 彼女はこの学校で唯一、僕に話しかけてくる人物だ。

 彼女は同じクラスになってから、やたらと話しかけてくるようになった。

 僕みたいな陰キャにメイクバッチリの今どき女子である彼女が話しかけてくるなんて、同情されているのだろうか。

 最初はそう思ったが、どうも違うらしい。

 彼女は、変わり者だった。


「そういうこと言うのは止めた方がいいよ」


 ちらりと教室内を見ると、僕らを見てヒソヒソと話す同級生の多いこと。

 どんな噂をされているのかと想像するだけで反吐が出そうだ。


「どうして?」

「変な目で見られるだろう」

「他人の目なんて気にしないよ。君だってそうでしょ?」

「……僕は多少気にしてるよ」

「そうなの?」


 彼女の目が大袈裟に見開かれる。

 このオーバーなリアクションも変わり者だと囁かれる原因の一つだろう。


「あ! 他人の目が気になるなら二人きりでお喋りする?」

「……それはもっとめんどくさい噂が流れるからやめて」


 僕がため息をつくと、彼女はクスクスと笑った。

 粉砂糖のような白い肌に艷めくキャンディのような桃色の唇、チョコレート色の大きな瞳。

 彼女の笑い声は僕の耳を蜂蜜のように甘くとろけさせる。

 彼女の全てが可愛らしくて、僕はどうしても突き放すことができない。

 本当は、突き放さなくちゃいけないのに。


「私は別に君と噂になってもいいよ?」

「……それ、僕以外に言ったら勘違いされるからね」

「こんなこと、君以外に言わないって」

「……あっそ」


 ああもう、本当にやめてくれ。

 僕は、誰かと親しくなってはいけない。

 だから、気があるような振りをするのはやめて欲しい。

 例え本当に気があったとしても、僕はその気持ちに答えられない。

 ……それなのに、そんなことを言われたら。


「もし気が変わって、二人きりでお喋りしたくなったらいつでも言ってね」

「そんな日は一生来ないよ」

「酷い! そんな冷たいこと言わないでよう」


 彼女は膨れっ面をして、今にも泣き出しそうに目を潤ませる。

 そんな顔すら愛おしい。

 そう思ってしまう時点で、僕はもうダメなのだろう。

 誤魔化し続けてきたが、もう認めざるを得ない。

 でも、認めてしまっても、それを行動に移してはいけない。



 ――いくら彼女が美味しそうでも、食べるなんてしてはいけない。



 僕はどうやら、誰かを好きになるとその人を食べたくなってしまうらしい。

 そのことに気づいたのは子供の頃。

 当時は母親が一番好きで、毎晩こっそりと母親の髪の毛を抜いては口にしていた。

 子供ながらに異常だとは思っていた。

 大きくなって、自分のこれがカニバリズム的な思考だと気づいた。

 だから、隠し続けてきた。

 人を好きにならないように、今まで人を避けてきたのに。

 どうして、彼女を好きになってしまったのだろう。

 何故、僕はこんな人間なのだろう。


「そろそろ次の授業始まっちゃう。じゃあ、また次の休み時間にお喋りしようね!」


 僕の悩みを知らない彼女は、食べちゃいたいくらい可愛い笑顔を僕に向ける。

 彼女の言葉に「来るな」と返せれば良かったのだが、生憎と僕の頭の回転はそこまで速くなかった。

 きっと、彼女はまた僕の元に来るだろう。

 あの甘美な香りを漂わせて、可愛らしいお菓子のような容姿で僕の元へやってくる。

 そうして僕は溢れてくる涎を堪えながら、彼女と会話をしなければならないのだろう。


 だけど、僕はそれでも想像してしまう。

 『彼女はどんな味がするのだろう?』と。

 見た目と匂いの通り、甘いのだろうか。それとももっと複雑な味がするのだろうか。

 ああ、食べたい。食べてしまいたい。

 この禁断の()を知りたい。


 僕は今日も、この醜悪でおぞましい欲望を理性で抑えつけて生きていく。

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― 新着の感想 ―
[一言] 学生の時に是非とも読んでみたかったです。 大人になってしまった私より、たぶん学生時代の私の方がより深くこの作品を味わう事ができた事でしょう。 私も彼のように理性で押さえつけなければならな…
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