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(1)竹を割ったらむすめができた。

はじめまして。

見切り発車上等、思いつくままに楽しく書いてみました。あまり長くならない予定です。

 ーー今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり。


 現代日本にて教育を受けた者ならば、誰もが一度は聞いたことがあるだろう。日本最古の物語とも言われ、古典文学として、子供向けの物語あるいはアニメーション作品として、様々な形で多くの人々に親しまれる、『竹取物語』である。

 何を隠そうこの俺も、幼稚園だか小学生だかの時、姉に絵本を読んでもらった記憶がある。


「おじいさんが竹をとっていると、竹やぶの中で、ひときわうつくしく、光かがやいている竹がありました。」

「かざねぇー、なあ、ひかりかがやくって?」

「んー、ぴかぴかって、光るってことだよ。」

「ひかる……じーちゃんのあたまみたいな…」

「こらゆーくん!それ以上は言っちゃだめ!じーちゃんがかわいそうでしょ!」

「えー。」

「もう、つぎよむからね!……ふしぎに思ったおじいさんは、もっていたなたで、えいや!と竹をわってみました。」

「ええー!!ぴかぴかの竹なんか、なんかアヤシイじゃん。おれ、ぜったいちかづかない!そんなの、だって、ウカツじゃん!」

「ゆーくん、そんなむずかしいコトバよくしってるね……うーん……きっとすっごくキレイだったんじゃないかなぁ。アヤシイとか、思うひまもないくらい、びっくりしたとか。」

 絵本の挿絵を眺めながら、そんなもんなのか、と俺は首を傾げた。いくらキレイでも、いくらびっくりしても、明らかにアヤシイものに、いい年した大人がのこのこ近づいて行くのだろうか、と。


 かつての俺が抱いた小さな疑問に、俺は今、およそ二十年越しにお答えしたいと思う。


 行くんだな、これが。

 昔の俺、大人は意外と、ウカツなんだよ。


 しかも「んだこれ?新商品の竹型ライトか?」くらいの軽いノリで、手に持ってたナタで叩きに行くんだよ。


「おはつにおめにかかります!あなたがわたくしのおきなさまですね!」


 パッカーン!と漫画みたいな音と共に真っ二つに割れた竹の中から、手乗りサイズの美幼女が、希望に満ちた眼差しで俺を見ている。ご丁寧に雛人形のような色とりどりの着物を身に着けた様相は、まるで、まるでーー


「か、かぐや姫?」

「はい!わたくし、あなたさまのかぐやにございますっ!」


 昔の俺に、ついでにもう一つ。

 びっくりしすぎると、大人は腰を抜かすんだ。


「お、おきなさまっ!?おけがはございませぬか!?」

「いやいやいやいやいやいや、ないないないないないない。」


 手に握っていたナタを脇におき、軍手を取ると、俺は乱暴に両目をこする。

 久々に長い時間車を運転して、田舎に帰ってきた。疲れ気味だし、少し寝不足だ。もしかしたら、昼に食べた汁物になにか変なきのこでも入っていたのかもしれない。田舎のじいちゃんはしょっちゅう山に入っては山菜やらきのこやらを取ってくるのだ。そうだ、そうに違いない。


「もし、そこのおかた、おきなさまがおけがをなさったようなのです。どうかおてをおかしいただけませぬか!?」

「おっと、そりゃあ大変だな。あー、なに、大丈夫じゃって。落ち着きなさいな。」

「ありがとうございます、おじいさま。」

「って、何普通に会話してんだよじいちゃん!?」

「おう。ゆーくん、立てるかい?」

「おう、じゃねぇよ!つーか、ゆーくんて呼ぶなよじいちゃん!」

「わたくしのおきなさまはゆーくんさまとおっしゃるのですね!」

「うわああまたしゃべった!」

「ゆーくんさまじゃあなく、ゆーさまがいいんじゃないかい?」

「わかりましたわ。ゆーさまとおよびいたします。」

「勝手に話進めんなって、じいちゃん!だいたい何普通に話してんだよ!?明らかに、そ、その、おかしいだろ!」

「ゆーくんこそ何を言っとる。見ればわかるだろう。」

「見ればわかるって、何がだよ?」

「決まっとる。かぐや姫さまだ。」


 あんぐりと口を開けたまま言葉を失う俺を放置したまま、じいちゃんはいそいそと自称かぐや姫を竹の中から取り出し、まるで赤ん坊でも抱くように両手で抱いた。


「ほら、何ぼーとしとる。帰るぞ。」

「へっ?」

「さあ、かぐや姫。このじいがおきなに変わってあなたを運びますからね。」

「まあ、おじいさま、よろしくお願いいたします。」

「えっ?」

「さあ、ゆーさまもおはやく!ひがくれてしまいます。」


 言われてみれば、いつの間にかあたりに西日が指し、山の斜面はところどころ薄暗くなっている。慣れない山道だ、明るいうちに山を降りなければ、いつすっ転ぶかわからない。

 様々な疑問を抱えつつも、俺は諦めて山を降りることにした。



「おかえりー。じいちゃんもゆーも、遅かったねー。」

 俺たちが家の戸をくぐる頃には、あたりは薄暗くなっていた。居間でくつろいでいたらしい姉が、ひょっこりと、玄関口に顔を出す。

「おう、ただいま。」

「た、ただいま。」

「おじゃまいたします!」

 俺たちの声に続いて聞こえた、生きの良さそうな幼女の声に、姉が「ん?」と眉を上げた。

「姉貴、落ち着いてくれ、実は…」

「かぐや姫さまじゃんか!!かぁ〜わぁ〜いぃ〜〜!!」

「は?」


 目を丸くする俺の横で、姉はぱっと廊下に飛び出してきた勢いのまま、ずいっ!と自称かぐや姫ににじり寄った。鼻先がくっつきそうな程の距離に、ぴくり、と自称かぐや姫が肩をゆらす。


「これこれ、失礼だぞ。あいさつなさい。」

「ああ、そっかそっか。すみませんでしたっ!私は風音といいます。よろしくね。」

「わたくしはかぐや姫ですわ!かざねさま、よろしくおねがいいたします。」


 ぺこり、とお互いにお辞儀をし合うと、姉は「お母さんたちにも教えてあげなきゃ!」と行って廊下をかけていった。

 またもや俺が何も言えずにいる間に、姉は奥にいたらしい親父とお袋を連れてきて、似たように自己紹介を終わらせた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。どうして皆、そんな、普通に対応すんだ?もっとこう、驚くとか、怖がるとか、あるだろ!?」


 思わず髪をかきむしり、俺は周りの大人たちにつめよる。

 一方両親たちはというと、不思議そうにお互いの顔を見合わせている。


「え?だって……」

「かぐや姫さまだし……ねえ?」

「どうしてと言われても、こんなもんだろ?」

「じゃな。」

「認識のズレを感じる……ここは本当に俺の家か?」

「何寝ぼけたこと言ってんの、ゆー?あんた、かぐや姫さまのおきなになったんなら、しゃんとしなさいよ。」

「いや待て姉貴、俺はこんな自称かぐや姫の不思議生物のおきなとやらになった覚えは一切ないぞ!」

「ゆーさま?じしょー、やら、ふしぎせーぶつとは何のことでしょう?」

「大丈夫ですよ、かぐや姫さま。うちの母が湯を用意しますから、お召しかえをしてきたらどうです?」

「ちょっ、姉貴…!?」

「まあ!ゆを?なんとうれしいことでしょう。じつはわたくし、すこしきものがちいさくなってきていたところなのです。」


 少し恥ずかしそうに裾で顔を隠した自称かぐや姫の着物は、確かに、ほんの少し縮んで……いや、違う、身体が大きくなっているんだ。

 お袋に抱かれて部屋の奥に連れられていくのを、呆然としたまま見送る。

 もう、自称、と付ける必要はないだろう。


「か、かぐや姫…?」

「だからさっきからそうだっつってんでしょ。寝てんの?」




 かつて、竹取の翁は、光かがやく竹を見つけ、竹から見出した幼子に、かぐや姫と名付けたそうだ。

 逆転して、竹の中からかぐや姫を見つけた俺は、彼女のおきなになるらしい。


「俺が……翁?」

「そうだって。ゆーくんがかぐや姫さま見つけたんでしょ。ね、じーちゃん。」

「おう。間違いないぞ。」


 ズズズッ、と湯呑に入ったお茶をすすって、じいちゃんはこくりと頷いた。その何でもない日常そのものの様子に、俺は頭を抱えて居間のちゃぶ台に突っ伏した。


「おきなとか意味わかんねぇー。そもそもかぐや姫って何だよ、現代に古典ファンタジー持ち込むなよ……」

「ははっ、古典ファンタジーって、なにそれ。うちの家にとったら、竹取物語なんてファンタジーでも何でもないじゃん。」

「何でだよ…?」

「何でって、え、ちょっと待って、ゆー知らないの?うちの…」

「ただいまもどりました!ゆーさま!」

「ひゃっ!」


 背後から首筋に冷たい手を当てられて、俺は首をすくめた。驚いて振り向くと、はじめよりよほど動きやすそうな、子ども用の浴衣を着たかぐや姫が、嬉しそうに両手を差し出している。

 というか、明らかにさっきお袋に抱えて連れて行かれたときより大きくなってないか?美幼女は美幼女のままだが、一気に雛人形から普通の幼児だ。


「昔風音が着てた浴衣、こっちの家に置いといて良かったわ。まだ少し大きいけれど、すぐ着られるようになるでしょう。」

「はい、ははうえさま、かざねさま、すてきなきものをありがとうございます!」

「あらやだ、母上さまだなんて。お母さんでいいわよ!」


 にこにこと上機嫌に笑うお袋と姉貴を、羨ましそうに親父が見ている。いち早く「おじいさま」呼びをされたじいちゃんは、われ感せずとテレビを見始めた。


「ゆーさま、ごらんください!なんとすてきなきものでしょう!これはきくのはなでしょうか?」

「…それは花火だな。」

「はなび…たいそうきれいな花ですわね。」

「花火でしたら、来週花火大会がございますぞ。ゆーに連れて行ってもらうのが良いでしょうな。」


 テレビを見ていると見せかけて、こちらの会話はばっちり聞いていたらしい。じいちゃんの言葉に、かぐや姫は大きく頷いた。


「さあさ、ご飯にしましょうか。ほらお父さん、かぐや姫さまにイスをお出しして。お祖母ちゃんのお部屋に丁度良いのがあると思うから。」

「ああ、お義母さんの…わかったよ。」

「お母さん、私お皿並べるの手伝うよ。」


 お袋の一言で、親父や姉貴がバタバタと夕食の準備を始めた。何だか大切なことを聞きそびれた気もするが、お袋も姉貴も動き出したら止まらないタイプだ。また後で改めて聞いてみよう。ところでかぐや姫はと言うと、あぐらをかいた俺の膝の間にちょこんと座っている。


 もう一度言おう。俺の膝の間に座っている。


「あのー、かぐや姫…さま?そこに座るのはちょっと…」


 いくら美人とは言え、俺に幼女を愛でる趣味はない。そもそもかわいいかわいくないの問題以前に、そんなところに収まられては俺が落ち着かない。


「いいえ、ゆーさま、わたくしのことはかぐやとおよび下さいませ!」

「じゃ、じゃあかぐや、そこ、どいてくれないか?」

「ううー、しかし、わたくしはゆーさまのかぐやなのです。」

「うん。」

「ですから、ゆーさまのそばからはなれるわけにはまいりませぬ。」

「うん?」


 つまり俺の要求は却下されたということか?


「ゆー、お前がおきなだ。受け入れなさい。」

「いやじーちゃん、何勝手に悟ったみたいな顔してんの!?」


 親指でも立てそうなイイ顔で、じいちゃんがこちらを振り向いた。俺はそれ以上何かを言う気にならず、大人しくかぐや姫の……かぐやの後頭部でも眺めることにする。

 そういえば、中学の同級生の子どもがこれぐらいの大きさだったか……もっとちゃんと抱くなりなんなりしとけば良かったな。

 恐る恐る手を伸ばし、俺はかぐやの頭に触れた。撫でると言うよりは、さするくらいの力加減だ。なんせ相手はほんの幼児なのだ。力加減なんてわかったもんじゃない。

 艶のある黒い髪は、子どもだからか、柔らかい。つい、猫の子でも撫でているような気持ちで、俺はかぐやの頭を撫ていた。


「ふふふ、くすぐったいですわ、ゆー様。」

「おっ!?おっ、おう!悪いな。」


 一瞬相手が生きていることを忘れていた。いくら不思議生物とは言え、相手は小学生くらいの大きさなのだ。気をつけなけれ……


「かぐや、お前、また大きくなった?」

「はい!ゆー様に頭をなでていただきましたから。」

「へ?な、なんで?」

「かぐや姫さまはな、心地よい体験を積むことで、成長するんだ。」

「じいちゃんはゲームか何かの解説キャラかっ!?」

「おっ、かぐや姫さま、大きくなってるな。このイスで間に合うか?」


 俺とじいちゃんの会話に割り込むように、親父がかぐや用のイスを持って居間に入ってきた。俺の隣にイスを置き、座布団なんかで少し高さを調節する。


「かぐや姫さま、少し座ってみてくれませんか?」

「はい、とても丁度よいです。ありがとうございます、お父さま。」

「はははは、いや、そんな、はははは、どういたしまして、はははは。」

「いや、照れすぎだろ、親父。」

「さあさあ、どいたどいたー!ご飯の用意ができましたよっ、と!」

「今日はちらし寿司ですよー。」

「ああ、風音、かぐや姫さまの隣には父さんが座ろうとしてたのに!」

「早いものがちだって。」

「まあ!ちらし寿司というのですね。なんと美しい!なんと美味しそうな!」

「さあ、かぐや姫さま、お皿とお箸はこちらを使ってくださいね。」

「お母様、ありがとうございます。さあ、いただきましょう、ゆー様!」



 この家族、馴染むの早すぎだろ。




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