春、出会い
もうすぐ春が来る。新しい風を連れてきて春が来る。
がやがやと賑わう体育館前。私は緊張しながらも一緒の高校を受験する友達を探した。
「ゆきちゃん!! 」
どんと私は見覚えのある背中に突進する。
「わっ」
とその背中の持ち主であるゆきちゃんが振り向いた。
「びっくりしたぁ、るなちゃんか」
えへへ、ごめんごめんと私は謝りながら「今日は頑張ろうね」と言った。
ゆきちゃんはうんと頷きながら「まあ、でも、定員割れしてるからね。名前さえ書けば受かるよ」と真面目な顔をして言う。
「そうだけどさ、万が一ってこともあるじゃん? 」特に私は、と言外に言ってみる。
「いやいや、大丈夫だよ。もちろん、るなちゃんも」言外に言ったことを汲み取ってくれたのか私を安心させるようにゆきちゃんは笑った。
「じゃ、中に入って並ぼうか」と言うゆきちゃんに付いて私も体育館の中に入った。
体育館の中にはもう何人か並んでる人がいて、受ける学科ごとに列ができていた。残念なことに私とゆきちゃんは受験する学科が違うので列も違う。バイバイ、と手を振り自分が受験する学科の名前の看板を掲げている先生らしき人のところへと並ぶ。
緊張するなぁとふぅーと息を吐き出した。とんとんと背中を叩かれて後ろを振り向く。すらりと身長が高い。
「あ、やっぱり」と背中を叩いた人が言う。見覚えのある顔、と思った途端に思い出した。「国山中の望月さんやろ? 私、安海中の・・・・・・」途中で言葉を遮り、
「空田さん、やよね?」と私は言った。するとその空田さんはにこーと笑い
「覚えちょってくれたん?」と嬉しそうに言う。
「あたりまえやん。試合したことあるやろ?」
「いや、あるけどさ、まさか国山中の望月さんみたいな強い人に覚えちょってもらえるとは」と彼女は嬉しそうに言う。
「別に私は強いわけやなかったし、試合もしたことあったけん覚えちょったよ。しかも同じ市なんやけん」と私は笑った。空田さんもまたにこーと笑う。
「望月さんも園芸科受けるん?」
「そうだよー、空田さんも?」
同じところに並んでいるのだから訊かなくてもわかるのだが一応訊いてみる。
「そうだよ、受かれば同じクラスやん。うれしいなぁ」
彼女はもう受かったつもりになってるらしい。
「ねえ、同じクラスになるんやしさ、下の名前で呼んでもいい?」と訊いてくる。
「いいよ、下の名前はるなやけん」そういうと彼女はもともと大きい目を見開いた。どうしたん」?と尋ねようとしたら
「うそ! 私の下の名前、月子なんやけど・・・・・・」と言う。私もぎょっと目を見開いてから二人でけらけら笑った。
「よろしくね、月子ちゃん」
「うん、こちらこそるなちゃん」
今日は頑張ろうとお互い健闘しあい、そこからは静かに試験の案内があるまで待った。
受験する教室に案内され試験が開始された。試験は五教科あり、一教科終わるごとに十分と五分休憩が交互に挟まれる。よかったのが隣の席がなんの偶然か月子ちゃんと隣同士だったのだ。五分休憩の時はあまり話せなかったが、十分休憩の時にゆきちゃんの所へ行こうかと廊下へ出てみると既に廊下には受験生がたくさん出ていた。その中には私より先に廊下に出ていたらしい月子ちゃんもいた。一応声をかけてみる。
「一時間おつかれ」
「おつかれ」と返事をしてくれた月子ちゃんの傍らには男子がいる。黒髪短髪のいかにもスポーツをしてそうな男子だった。ぺこりと会釈だけしとく。相手も会釈を返してくる。「さっきの教科どうやった?」月子ちゃんが質問を投げかけてくるので、まぁまぁかな、と返す。すると傍らにいた男子が
「いや国山中って頭いんやろ? 見た目も頭良さそうやし」
と言ってきた。
「そんなことないよ」と答えながら月子ちゃんに誰?と視線を送る。月子ちゃんは視線に気づき、幼馴染の花村太陽と紹介してくれた。国山中の望月です、と軽く挨拶をしてから月子ちゃんに友達のところに行ってくると伝えその場を離れた。
「月子、今の友達?」
私の幼馴染である太陽がそう尋ねてきた。どういう関係か気になるのだろう。中学も違うし。
「部活で知り合った子」と返し、気になるん?と問う。
「はぁ? なんで俺が?」
と少し食い気味に返答してきたため、あぁこれは気になってるんだなと幼馴染の直感としてわかった。確かにるなちゃんは小柄で笑顔も声も可愛いし、話しながらぴょんぴょんはねているのは同性の私から見ても可愛い。心にもやもやしたものを感じながら、るなちゃんが友達のところから帰ってきたのを出迎えた。太陽はなんともない顔をしながらもちらちらとるなちゃんの方を見つめていた。
ふーと息を吐き出しながら私は隣の席の月子ちゃんにお疲れさまと声をかけた。
「やっと一日終わったね、あとはは合格発表のみ!」
「次会うのはそのときかな?」
「どうかなぁ、安海は先生がまとめて見に行くみたいな話を聞いたからその時は会えんかも」
そっか、と私は返しながらゆきちゃんは合格発表見に行くのかなあと気になった。
「まあ、でも、入学式の時に会えるよ!」と月子ちゃんは元気よく言った。
「そうだね、その時はまたよろしくね」と私も元気よく言った。
合格発表はゆきちゃんと二人で行き、無事に二人とも合格を確認した。先生から入学案内をもらい日程表を見ると、テストやら説明会やら制服採寸やらがあり、また月子ちゃんに会う機会がありそうだった。
テストやら説明会やら制服採寸やらで月子ちゃんには会ったがあまり長く話すことはできず、また入学式にねと挨拶を交わすのみ。
花村君とも月子ちゃんとは別に遭遇したがお互いにちらりと視線を交わし軽く会釈をするのみ。まあ友達の幼馴染、しかも異性なんだからこんなものだろう、しかも私は花村君の第一印象があまりよくなく月子ちゃんの幼馴染といえどあまり仲良くなれる気がしなかった。
そして入学式が来た。天気はからりと晴れ桜はもう散っていてあまり残っていなかったが風が少し吹いていて気持ちのよい日だった。私がこれから通う高校は少し珍しい造りになっており、今回は保護者の駐車場になっているグラウンドと校舎は離れており、グラウンドから校舎へ行くには階段を上がって横断歩道を渡るか、その下を通ってる階段を使うかしかない。
横断歩道のほうは交通量が多いのに信号がなく、なかなか渡れそうになかったので今日はトンネルを通った。母と一緒に来たけど、駐車場で知り合いにあったとかで待つのも面倒だしで先に校舎へ向かうことにした。一人トンネルを潜っていると後ろから足音が聞こえてきて声をかけられた。
「望月さん?」
男子の声だ。そして少しだけ聞き覚えがある。その声がした方へくるりと振り向く。
「花村君?」
おはよう、と挨拶を交わす。
「あのさ、望月さん、言いづらいんだやけどさ」
「どうしたん?」
ぽりぽりと頬をかく花村君を見る。
間違ってたらごめんと花村君は前置きをし「ブレザー、仕付け糸とれてない気がする・・・・・・」
と言った。
私はあわてて背中を見たがよく見えない。
「ハサミもっちょん?」
見かねた花村君がそう訊いてくる。
「持ってる! 」
カバンからペンケースを出しハサミを出すと、手を差し出してる花村君に渡す。
「ちょっと切るね、動かんでね、ブレザー切ったらごめん」
「えっ」
「はい、できた。大丈夫、切ってないよ」
そう言って花村君は笑った。ほとんど喋ったことも面識もない男子に仕付け糸を切ってもらうとか恥ずかしい、私は反省しながらお礼を言った。
「ありがとう、大人数の前で恥をかかずにすんだよ」
「気づいてよかったよ」
「花村君も園芸科だよね?」
確か受験したとき教室一緒だったはず。
「そう、これから三年間よろしくね」
園芸科は一クラスしかないのでクラス替えもなしなのだ。
よろしく、と返事をし一緒に教室に向かった。
ふぁーと大口を開けて、今日が入学式だったのを思い出し慌てて口を閉じた。
「羽田先生、睡眠不足ですか?」
後ろから聞こえてきた声にぎくりとする。
「教頭先生・・・・・・」
「タバコの吸いすぎもよくありませんが、睡眠不足もよくありませんよ」
生徒から厳しいと有名な教頭先生はふふふと笑いながらそう言ってきた。
はい、と返事をする。
「そうそう、今年の園芸科の新入生に面白い子が入るらしいですね」
「そうらしいですね」
教頭先生の話に相槌を打つ。そうなのだ、俺は実技担当で担任を持つこともないので関係ないのだが、園芸科の別の先生が担任を持つことになりその先生や学科主任が言う話では成績優秀の子が入ってくるらしい。
「なんでも普通科を受験した大半の子たちより成績が良かったとか」
これから園芸科も面白くなりますね、そういって教頭先生は入学式会場の体育館へと向かっていった。
そうなのだ、こういっちゃなんだが園芸科はあまり成績の良い子が集まらず、どちらかと言えば中学時代にやんちゃだった生徒が多い。
そんな中でその子はやっていけるのだろうか、と不安を感じていた。まあ、俺は担任でもないし、授業でたまに会う位だから深く考えても仕方ないと思いつつ、教頭先生のあとを追って体育館を目指そうと思ったがその前に一服したくなりいつものタバコ吸い場を目指した。




