変わった異世界・nara
「センセイ……か。確かにそう呼ばれたこともあったな……」
漢はピッケルを肩に乗せ、昔を見るような目で倒れた猿を見る。
「まあ、取り敢えずここは危険や。わいについてこい!」
「なんや知らんけど……。わかったわ! 我を守れ!」
男は助けてもらった恩義も忘れ、命令した。
この異性物が徘徊する異世界の奈良県。
どうしてこうなったのか。それとも男の知る奈良県ではないのか。
弱い頭で何とか状況判断を下し、漢の後ろを走る。
「なんちゅうたくましい背中や……」
男は前を走る漢の背中をまじまじと眺める。
すると、
「おい! 下がれ!」
突然、漢が男の首根っこを引っ張りその場を離れる。
「猿……!」
またもや狂大猿だ。片手にはパッドを持っている。
「あ、あれは……わいが怒りにまかせて肘打ちしたゲームパッド!」
「チッ。余計な事しやがって!」
猿は液晶が割れたパッドを振り回し、二人に襲いかかってくる。
「自分を貫け!」
漢がそう叫んだ瞬間何もない空間から、巨大な槍が発生した。
「なんやこれえぇぇぇええ!?」
「ぐぎゃああああああ!」
猿は槍に貫かれ死亡。
その悲鳴を聞き、周りの猿が一気に二人に群がる。
「これ、やばいんとちゃうか!?」
「問題ない」
漢は空高くジャンプ。
「これは、数々の人を運ぶ神速の電車。雪が降ろうが、台風が迫ろうがただ一度も止まることはない。電車が通った跡は何も残らず、構築は鉄ではなく心」
漢は詠唱する。
そして――
「配信中に通過すんな! 線路沿いのアパート!」
これは幻覚か。漢が両手を広げると同時に無数の電車が猿に突撃する。
「見たか、オワッタわい! これが全盛期の力や!」